第60話「あの日見た爆発炎上の真相を記者たちは永遠に知れない」



「えっと、つまり今お前はユリ姉さんと同じ大学で学生しながらホステスしてるのか……てか大学とか以前に色々と問題有るだろ?」


「ホステスと言う職業は便利さ。表にも裏にも通じる人間の知り合いが増えた。やはりどこでも大事なのは人脈だな。それと勤め先のクラブのママが良い人でね色々と援助をしてもらったんだ」


 その後も話を聞くと慧花は転生すると瑠美香の体を奪い自分が異世界での力を使えるのに気付くと、精神病棟の人間を魔法で洗脳し上手く退院した。だが驚いたのは瑠美香の両親の対応だった。彼女の記憶を元に家に着くと既に家は空き家で、恐らくは近所の目に耐えられず彼女を置いて夜逃げしたのだろうと言った。

 その後は繁華街を歩き回りどうするかを考え公園のベンチで寝ようとしていた所を今のクラブのママに拾われたらしい。そして瞬く間に人気ナンバー3までになったと言う。気付けば元王子は夜の街で逞しく生きていた。


「なんか、すげえなお前……」


「褒めるなよ。ここまで三ヶ月もかかったんだ。大変だったよ」


「え? 三ヶ月前って……じゃあ俺が魔王と戦ってた前後にはこの世界に?」


 俺が言うと慧花は少し不思議そうに考えながら転生して来た日をカレンダーで指し示した。その日を見て俺達は驚く事になる。


「私達のライブの日!?」


「そうだ!! ルリのライブで俺がこっちで魔王を倒した日だ……」


 しかし、それはおかしい。俺が転生魔法のような大きな魔力の流れを見落としたと言うのか? 俺が不思議に思っていると脳内でガイドが語りかける。


『勇者カイリ、過去ログを確認した所、一度だけ勇者の魔力などが全て無くなった時が有ります。覚えてますか?』


 それを言われて思い出したのは魔王戦後にルリを転移魔術で会場に送った後、魔力も神気も無くなり電車で帰った日の事だった。


「あの日は勇者の力を全て使って魔王を倒したからな……」


「うん。あの日カイが私の正体を知って、それでも守って救ってくれた大事な日だったよね!!」


「ああ、あの日、魔王を倒した後に見たパンツの色を俺はまだ忘れていない……」


 しみじみと語って周りを見るが全員がゴミを見るような目で見て来る。おかしい、ここの女性陣って皆、俺への好感度高めですよね? 俺って自惚れていいとこまで来てるよね?


「なんて言うか……カイの事は大好きだけど、さすがにデリカシー無さ過ぎ……」


「そうよ快利。親しき中にも礼儀ありって言うでしょ?」


「いやユリ姉ぇ、それは少し意味が違う気がするのだが……」


 そんな事をエリ姉さんとユリ姉さんが話していると横から義妹達が半ギレで文句を言い出していた。


「とにかく快利兄さんはもう少し女性の気持ちを考えて下さい!! セリカ様と私なんて胸の話の時からダメージが凄いんですよ!!」


「モニカ、余計な事言わないで!! 元男にまで負けてプライドがズタボロですわ」


 胸の話は男の俺には理解出来ないけど、やはり元男だけど今は完璧な美女になった慧花には色々と思う所が有るのだろう。


「これで私もやっとカイリとの恋のスタート地点に立てたわけだ。嬉しいよ!!」


「いやいや、何言ってんだよ!! 俺はお前の事なんて」


 そう言った瞬間に慧花はニヤリと笑って腕を組み胸を強調した。谷間くっきりです。はい、やせ我慢しました。もう凄く女の人として見てます!!


「私の胸はどうだった? 勇者カイリ?」


「凄い……柔らかかったです……ちきしょおおおおお!!」


 ああ、すっごい良かったよ!! 不可抗力や偶然無しのガチで初めての胸の感触は最高でしたよ。でもどうしてだろう……なぜか負けて大事な物を失った気がした。




 結局のところ慧花は俺を追ってこの世界に来て俺を探していただけだった。三ヶ月前に、すぐに俺を訪ねなかったのは生き残るのに必死だったからで、生活が落ち着いた今月から探そうとしていた矢先ユリ姉さんを見つけたらしい。


「ああ、大丈夫、これからは由梨花を利用……じゃなくて、通して堂々と訪問するさ!! 皆には迷惑をかけたね?」


「ま、ユリ姉さんに下手に手を出されても困るからな。あとは……よし、一応は加護も付けておいたぞ?」


「え? 良いのかい? 私は今は王子でも何でもないただの女子大生なのに」


「ああ、そうだけどよ……ま、あれだな異世界で数少ない友人だったのは確かだから……そ、それだけだぞ!!」


 それにセリカやモニカと違って三ヶ月も一人で生活していた慧花にどこかで俺は親近感を感じていた。向こうに跳ばされてすぐの俺に境遇が似ている気がしたからだ。俺を追って来るなんてアホな事をやった事も少しは責任を感じてるし、それに俺は友達なんて居なかったから貴族戦争時代にコイツと旅をしてバカやったのが実は楽しかったんだ。


「ふふっ、やっぱり君は最高だ!! カイリ、愛しているよ!!」


「ねえセリモニ? もしかしてカイって……毎回こうだったの? 向こうで」


「はい、それはもう理由を付けて私やセリカ様を始め皆を助けようと必死で……最初は誰もが困惑していたのですが、次第に慣れて最後は国の女性の大半は勇者カイリが憧れの男性になっていたのです」


 俺の黒歴史話すの止めてモニカ。俺だって気付けばそんな事態になって困惑してたんだから。本当にそれだけなんだよ。


「私の時もそうだった。だから私はカイを独占したくて……はぁ、もっと距離感を考えて素直になってれば……」


「それでも現状であなたはカイリの寵愛を一番受けている。向こうで勇者は基本的に平等でした。貴族も平民も分け隔てなく裁き、諭し、罰していた。しかし瑠理香さんや、お姉さま達は例外。貴女は特にです」


 そして聞こえるように話すのも止めれセリカ。その通り、向こうで貴族が横暴な事をするのを見て勇者の力を行使して解決した。こちらの世界で出来なかった事を無意識にやった。姉さん達と仲良くしたくて、ルリと仲直りしたくて、それを向こうの世界で事件を解決する事で満たしていたんだ。


「カイ……ゴメンね。やっぱり首輪付ける? エッチな衣装着る?」


「なんでルリはそう明後日の方に思考が飛ぶかなぁ……もう俺はルリの事も姉さん達の事も許してるから!! あと、ルリに変な事を教えたユリ姉さんの今夜のおかず一品抜きだから!!」


「えっ!? 今夜ってベヒーモスの唐揚げでしょ!! 私の異世界飯が~!!」


 その後に姉さん得意の泣き落としと、異世界の食べ物と聞いた慧花も久しぶりに食べたいと言い今夜は皆で夕飯を食べる算段が付いたそんな時、ルリのスマホに連絡が入った。そして間髪入れず俺とモニカ更にセリカのスマホのグループチャットにも通知が来る。


「緊急事態だと? ルリの方も? 俺達は親父から呼び出しなんだけど?」


「うん。事務所にって、近くにいたらカイ達も全員連れてって……」


 夕食会は延期となったが俺達は急遽。なぜか時空魔術を使うと言えば慧花も一緒に転移して来たが断る理由は無かった。人手が欲しかったからだ。





 そして俺達は呼び出された芸能事務所「F/R」の会議室に居た。既に俺の両親にルリの両親と風美社長にトワディーの残りの二人も居て、到着は俺達が最後だった。


「来たか、ん? きっ、君は!?」


「あら? もしかして快くんの新しい彼女さん?」


「カイリのお義母様ですか? 初めまして。私、角倉慧花と申します。今は由梨花さんと同じ大学で学生をしていますわ」


 そう言った瞬間に親父と風美社長が目を逸らす。どうしたんだろうか? 慧花は何かに気付いたように笑みを浮かべるとスッと後ろへ下がった。


「悪いけど部外者はいくら快利くんの関係者で、由梨花さんの友人でも……」


 エマさんが至極真っ当な意見を言ったのに社長含め男性陣が誰も反応しない。なぜか明後日の方向を見て親父なんかは口笛吹いてる。そして俺は見た、母さんの目が鋭くなったのを……どうしたんだろうか?


「との事ですが……残念ですわ。私もお力添え出来るのに……」


「そこまでだ慧花。今、魅了魔法使おうとしたろ? エマさん、詳しい説明は省くんですけど実はこいつも異世界から来たような奴でして……」


「ああ、そうなの……じゃあ協力を――――「エマさん。少ぉ~しだけ待ってくださる? 昇一さんが何か隠してそうなので……話して下さいね? あなた?」


 親父の口笛が止まった瞬間にルリのお父さん、つまり亮一さんや風美社長までソッポを向いた。三人とも何かを隠しているのは確実だ。


「隠し事は無しにした方が良いと思うんだけど……父さん?」


「そうねアナタ? それに社長も?」


 ルリとエマさんに詰め寄られる亮一さん。そして南美ちゃんも不思議そうに風美社長を見ている。


「慧花? お前、何したんだ? 悪さしてねえだろうな?」


「いいえ。私はお仕事、いえアルバイトをしていただけですわ、カイリ?」


 お仕事、アルバイト……ん? コイツの仕事って……まさか!? まるで某有名探偵アニメの犯人が分かった時みたいにシュピンと頭に白い一筋の線が走るように俺は超速理解をしていた。


「お前……そう言う事なの?」


「ええ、カイリの想像通りですわ、面倒なので話す?」


 そう言って親父たちを見る慧花は獲物を狙う眼光で、これが数ヵ月で売り上げ三位まで駆け上った女の実力かと俺は震えた。そして親父のお小遣いも会社の接待費も慧花の売り上げに入っていたのか……。


「ああ、なるほど。つまり慧花さんのバイト先で知り合ったのか?」


「うん。たぶん」


「エリちゃん? 快くんも……慧花ちゃんのバイト先はもしかして、若ぁ~い女の子を侍らせてぇ……お酒を飲むようなお店かしら~?」


 母さんが鋭過ぎる。俺達の断片的な会話だけでここまで推理するなんて、優秀な秘書だとは聞いてたけど本当に優秀みたい。そう言って感心していたらユリ姉さんがボソッと「あれは女の勘でしょ?」と言った。


「そ、それよりも今は彼女の事よりも問題の解決だろう?」


「そうだ!! 夕子もエマちゃんも、それからケイちゃんも今は、な?」


 惨めだぁ……少し前まで苦悩を抱えて主人公ムーブしてた親父が小さくなってる。そんなにクラブやキャバクラ通いがバレるのが怖いのだろうか? そう思って俺は自分に当てはめて考える。他人の気持ちになって考えるのは大事だ。


パターン1 風美瑠理香の場合


「私じゃ満足できないのね!! カイ……酷いよ!! こうなったら私もアイドル辞めてホステスになる!! カイ専属ホステスになるぅ~!!」


 ダメだダメだ!! 妄想でもルリが色んな意味で暴走する未来しか見えないぞ、絶対にマズい。後で頭撫でておこう。じゃあ次はエリ姉さんで妄想してみよう。


パターン2 秋山絵梨花の場合


「快利、クラブ通いなんて止めてお姉ちゃんと剣の修行をして汗を流そう!! 健全な事に昇華しよう!! そしてそのまま夜はお姉ちゃんと違う汗を――――」


 これ以上は十八禁になる!! クッソ、男性恐怖症の癖に無駄に知識だけは豊富になりやがって……いつか分からせてやるエリ姉さん。よし、この流れだと次はユリ姉さんのターン。


パターン3 秋山由梨花の場合


「クラブねぇ……ま、好きにすれば? じゃ、帰りにラノベと店舗特典貰って来て。それで良いわよ……どうせ私なんてそんな扱いでしょ……いいわよ」


 こういう時は意外とユリ姉さんはドライなんだよなぁ……対価を求めるタイプだ。で、帰って来たら少し説教した後に拗ねるパターンで慰めるのがメンドイ。


パターン4 秋山モニカの場合


「クラブとは接客の場ですね? つまりご奉仕する仕事!! メイドの私としては負ける訳には参りません!! すぐに勝負を!! 一流の奉仕をそのメス共に見せて差し上げましょう!!」


 うん。モニカはすぐに想像できた。てか俺が他の貴族の屋敷で接待受けてた時に乱入して向こうの用意した女の人とか踊り子を蹴散らしてたからな。あの時は頼もしかった。


パターン5 秋山セリカの場合


「その女と居た分の時間を私に割きなさい? 異論は一切認めませんわ。それとその店には今後出入り禁止よ、何か文句有りまして?」


 うん、最後にセリカは俺の知らない間に店とか潰すか移転させてそうだな。貴族時代は金で解決してたからなぁ……。五人とも容易に想像できるけど、正直に話さないで隠す方が拗れるような気がする。





 そんな妄想をしていると横に慧花が居てウインクして来た。美人だから反応に困るんだよ。前は男だったから振り払えたのに……女の子だと思うと……。


「ふふっ、そんな君が大好きさカイリ」


「本気で止めて」(ドキドキすんだよ。前から顔は美人だったし)


 そんな事を言い合いながら親父が咳払いをすると俺達は頷き話し合いが始まった。


「まずは快利くん。秋山社長を通して君に依頼を頼みたいと思ったのは理由が有る。聞いてもらえないだろうか?」


「もちろん、何が有ったんですか?」


「ああ、実は週刊文潮の記者が二人行方不明になって、いよいよ本気でうちを潰そうと動き出した。編集長の川本やスタッフ総動員でスキャンダルを狙い出したそうだ。主に瑠理香と綾華のスキャンダル狙いらしい」


「分かりました全員の身元を調べたら血祭りに上げます」


 それを聞いた瞬間に俺は聖剣を取り出して断言した。


「ちょっ!! 快利!! 迷いが無さ過ぎるから!!」


 ユリ姉さんが声を上げて止めようとし、エリ姉さんも同様だ。ルリも複雑そうに俺を見て首を横に振る。なんて優しいんだろうか三人がまるで天使のように見える。


「だって俺のルリに手を出すってのはそう言う意味だぞ?」


「当然ですわね。リスクは最小限に、ですわ」


 逆に俺の意見に即座に賛成してくれたのはセリカでモニカも静かに頷いている。やっぱ感覚的には俺はまだ異世界人なんだな。と、納得していたら俺達の話に入って来たのは慧花だった。


「しかし待って欲しい二人とも、この世界は私達の世界と違って治安も良い上に全体的に法整備も行き届いて情報網も細かい。対象を消すなら慎重に、そして確実にだ」


「えっ、慧花さんもカイ達を止めないの!?」


「慧花も異世界人だから快利と感覚は似てるっぽいのよ。大学で聞いた話の武勇伝が悪徳貴族を二人で騙し討ちにして晒し首にした話とかさすがに引くわ……」


 慧花が止めるわけ無いだろ、あの目を見たら分かる。あれは一枚噛ませろって感じの目だ。ルリもユリ姉さんも甘いな。


「いやいや、何を言ってるんだ快利、それにケイちゃんも何で店ではあんなに可愛いのに……あっ」


 俺は人が墓穴を掘る瞬間を初めて見た。こう言う「しまった!」的な場面は中々見れないからな、そして母さんが動いた。


「あなた? つまり彼女はあなたの行きつけの店のホステスさんなのね?」


「はい……そうです。でも最近行けなくなりました」


「ああ、なるほどクラブ『ダイアモンド』が勤め先なのね? 接待に社長も良く使ってましたからね?」


 エマさんも鋭い。ルリも将来こうなるのだろうか? でもルリって見た目は似てるんだけどエマさんより少し抜けてる感じがするんだよな。そこが可愛いと言うか……って、俺は何を言ってんだよ。


「そこで社長や亮一さんが接待中に乗せられてポロっと三人の話をしちゃって漏れたのが原因なのよ」


「面目無い……」


「酒は身を亡ぼすとは言ったものだな」


 亮一さんも風美社長もそれなりに反省はしているようだ。もう止めてあげた方がと思っていたが今度は南美ちゃんが追撃する。


「パパ? 少しは反省してね? それよりも今回は何でルリ姉と綾華が狙われて私だけ狙われてないの?」


「少し調べれば貴女が社長の娘なのは分かるから何の後ろ盾も無い弱い立場の私と、最初からターゲットのリーダーが狙われたって感じかしら?」


 綾華さんの読み通りで、それでもダメなら最後は南美ちゃん、つまりMIMIを狙い撃ちにするのだろうと風美社長は語った。週刊誌の得意な情報を小出しにして毎週売り上げ部数を上げつつ相手を脅迫する作戦だそうだ。そして話は決まった。慧花が何個か条件を出して協力してくれる事になり俺達はすぐに行動を起こす事にした。メンバーはもちろん異世界組の四人だ。





「やる事は簡単、奴らを抵抗できなくなるまで痛めつけて証拠は残さず、されど恐怖は残す。質問は?」


「確認だ快利。ターゲットは貸し倉庫と支社の雑居ビル。そして記者達の家で良いんだね?」


「ああ、無関係な人間も多いが……少し怖い思いをしてもらう」


 これは親父たちにも言っていない。ただ一任された以上は徹底的に潰すのが俺のやり方だ。モニカは少しだけ暗い顔をしているのはやはり思う所が有るのだろう。


「モニカ外れるか?」


「いいえ。私は……邪神の元使徒にして今は秋山モニカです。快利兄さんに付いて行きます!!」


「ああ、頼むぞ? じゃあチーム分けは俺とセリカ、そしてモニカとケニーいや慧花で、何かイレギュラーが起きたらすぐにスマホに連絡か、『勇者コール』してくれ」


 三人が頷いた。『勇者コール』とは、加護で繋がった者同士が連絡を取り合う事が出来るようになる力だ。こちらに戻ってからは一度も使っていない。正確に言えば使え無かった。理由は単純で神気が無い人間が使えないのを最近知ったのだ。この能力自体が実はスキル扱いだったから、こちらの世界の人間は使えなかったのだ。


「よし……では、大物は快利たちに任せよう。行こうモニカ!!」


「はっ、ケニー王子いえ、慧花さん!!」


 それだけ言うと二人はすぐに時空魔術で消えた。そして俺はセリカの手を握って目的の場所に転移する。





 週刊文潮のデスクの川本は焦っていた。ベテランの深見に犯罪行為も辞さない加藤など自分の手札の中でも特に悪辣で、同時に特ダネを上げて来た二人が音信不通となったのだ。


「たかが芸能事務所が、有り得ないだろ……おい新人!!」


「あっ、デスク。俺、怖くなって来たんですけど、止めません?」


 そう言う新人と他の同僚たちも皆頷いていた。気味が悪い、呪われている。一部のオカルトコーナーの編集者は祟りだと言い出す始末だ。


「バカ野郎!! 記者が権力に負けてどうすんだよ!!」


「言うて俺ら芸能の週刊誌の記者っすよ?」


「それが巨悪に立ち向かうんだよ!!」


 そして議論が白熱化していた時だった。電話が鳴り響く、それを乱雑に取ると川本の表情が固まった。


「支社ビルが爆発炎上だとっ!?」


 それを皮切りに今度は記者たちのスマホが次々と鳴り出した。それは徐々に大きくなって、まるでタイミングを合わせたようで緊急地震警報のような不気味さだった。


「えっ!? 家が燃えてる!? お前や子供達は!? 無事なのか!?」


「隣の家から火事!? 嘘だろ……」


「えっ!? 父ちゃん母ちゃん!? 車が爆発炎上したっ!? まだローン残ってるのに!?」


 その後も鳴り止まないスマホの通知音、アプリも電話も止まらない。そしてそれらは全て自宅や身内が次々と不幸な目に遭うと言うものだった。


「バカな、これじゃまるで呪いだ。いやいや呪いなんて!? そもそも芸能事務所が呪いなんて出来るわけ……」


 そう編集長が言った瞬間に誰かがボソッと言う。


「罰が当たったんだ……」


 そしてその恐怖は次々と伝播する。人は恐怖に支配された時には単純な答えに、すがりつく。それが例え普段は何者も恐れない記者達であっても例外では無かった。


「と、取り合えず帰ります!? デスク!!」


「お、俺も……」


 そう言って貸し倉庫の出口に殺到する記者達だったが、いつの間にか外から施錠され密閉されていた。


「嘘だろ、オイオイ!! 出せよ!! 出してくれ!!」


「なんか焦げ臭くない?」


 そうしているうちに気付けば貸し倉庫内のオフィスに少しづつ煙が出始めた。そして外には赤とオレンジ色の火の手が上がっていた。


「ああっ!! ここも燃えてるぞ!!」


「このままじゃ蒸し焼きだ!! 出してくれ!! 出してくれえ!!」


「ああっ、神様ぁ、ごめんなさい。今まで人のスキャンダルばかり晒して楽しんで、すいませんでしたぁ~!! 助けてええええ!!」


 ついには神頼みまでする記者も現れ、倉庫内は混乱の坩堝るつぼに叩き落とされた。そして煙に巻かれたのか次々と倒れて行く記者たち、最後に残ったのはデスクの川本だった。デップリとした体格ながら昔は俊敏だったのも有り煙から上手く逃げていた。


「こんなのトリックだ!! 何者か知らないが私は報道の自由で必ず!!」


「ま~だ、そんな事言ってるんですか?」


「お、お前は、まだ無事だった……ヒッ!?」


 それは最初に罰が当たったと言い出した記者だった。顔はよく思い出せないが、こんな奴は部下に居ただろうか? そう思いながらも部下を見た瞬間に、その人間は顔の半分が焼け爛れていた。


「酷いですよぉ、川本さん。あんたに付いて行ったらこの有様だ……」


「すまない。だが必ず記事にして奴らを――――「呪いなんですよ。呪い……ああ、人のスキャンダルばかり探してたから呪われたんだ……」


「そ、それは、しかし俺達は知る権利のために!!」


 そう言った瞬間に目の前でその記者は炎上し、呻き声を上げて絶命した。人の焼ける匂いを感じデスクも頭がくらくらする。そしてそれを見て川本も気絶した。





 川本や他の記者が全員が気絶したのを確認すると俺はむくりと立ち上がる。それは記者のコスプレをした俺、秋山快利だ。


「ま、こんなもんで良いかね? しょんべん漏らしてるし。この間お前の寄こしたクズ加藤に魔法使った時にラーニングしてた魔法使ってやるぜ……恐惶トラウマ魔法……お前はこれから煙や火を見る度に今日の恐怖を思い出す。今まで人にトラウマを与えていたんだ、お前も永遠のトラウマに苦しみな」


「カイリ!! 終わった。最後はこの倉庫自体を爆破だけよ!! お急ぎを!!」


 そう言った瞬間に辺りの煙や火が一瞬で消えた。そう、これは俺の幻覚魔法で入り口はセリカに封印魔法で閉じていてもらっていた。だからここの人間は皆、煙にも巻かれていないし、炎上もしていない。恐怖で勝手に気絶していただけだ。


「了解。じゃあ転送魔法!!」


 そう言うと俺は倉庫内の全員を外に転送させる。その後ろでセリカは手を天に掲げ魔力を貯めていた。


「参ります!! 炎極魔法『紅蓮の裁きインフェルノ』!!」


「よし、じゃあ俺も、『紅蓮の裁きただいま炎上中』!!」


 セリカの家、カルスターヴ家の炎系最強の魔法で正式名称は紅蓮の裁きインフェルノ』だ。ちなみに俺はこれで貴族の屋敷を焼いて回っていたので呼び方を変えている。

 先に支社ビルはこの魔法で大爆発させ社長も川本デスクと同じ目に遭わせている。しかし奴は、川本より酷い呪いで家族を見る度に今日のことを思い出すようにしていおいた。これでもう悪さは出来ないだろう。


「さ~てと、警察が来る前に戻るぞ!! 慧花とモニカも記者達の家を全部燃やせたな? 人は全員逃がしたな? よし、じゃあ事後処理や後のことは親父と例の権力者が上手くやるらしいから全員撤収だ!!」


 勇者コールで連絡が入り、ガイド音声に確認すると少し遅れて全て完了したと返事が来た。やはり反応が少し遅い。酷使し過ぎてるのかも知れない。だけど今は事務所に帰って報告会だ。セリカの手を取り俺は炎上している貸し倉庫と周りで倒れている記者達を見る。


「この事件の真相は永遠に闇の中だ……芸能記者の仕事も少しは自重して、たまには真っ当な仕事をしろよ? じゃあね~!!」


 それだけ言うと俺達は今度こそ転移魔術でその場から離れた。後に残されたのは炎に彩られた建物と燃えカスになった週刊文潮の原稿だけだった。

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