第33話「隠そうとすれば隠すほど明らかになるのが秘密なんだよなぁ」
◇
「じゃあルリ、確認するぞ? 基本は俺が交渉する。そして記憶をやっちゃってもいいと判断したら俺の手を二回強めに握る。いいな?」
「え? 私なら何回でも……ゴメン、ふざけてる場合じゃないね。了解だよ」
「ああ、じゃあ行くぞ……な~に俺たちコンビなら余裕さ」
「うん。二人でクラスの出し物のマジックの時だって上手く行ったもんね!!」
そう言って俺とルリはAYAに対する最終確認をして連れ立ってペンションの外に出た。見ると先に二人の姉は出ていてエマさんや他の二人と話している。
中々に打ち解けているようだ。エリ姉さんはコミュ力高いから安心だけどユリ姉さんは大丈夫だろうかと思っていたら、なんとAYAさんと話していた。一番年齢が近いからだろうと思って近づいて行く。
「そうなのよ~!! お陰で最近は大学行くの時間かかってさ~!!」
「そうなんですね。それにしても『転移魔術』ですか……便利ですね?」
「もう超便利よ!! あの時は登校10分前まで寝てられたわ!! あ、瑠理香も快利に何回か送ってもらった事あるそうよ?」
最初から俺たちの作戦は致命的な欠陥があったようだ。ダメイド姉に黙っておくように言うのを忘れていた。これは俺のミスだと思う。ルリの方を向くとルリも頭を抱えていた。そして反対にAYAさんはニヤァとこっちを見て来た。
(カイ、ちょっとどうするのよ!! 最初からプランBに変更だよ!!)
(ねぇよ、そんなもんっ!! もう明らかにこっちの状況バレてんぞ!?)
(カイ、どうしよう……。もう、やっちゃうしかないよね?)
ルリが情緒不安定になって軽く闇を出しそうなので落ち着かせるように頭を撫でる。これは本当に交渉が必要になって来た。敵は有能で味方が無能とか泣きたい。
「リーダーがすっかり飼いならされてる……確かに愛は人を強くする事を私は知ってるけど……それで秋山快利くん? お話、しましょうか?」
「それは構わないですが、まずは場所を変えません? 俺、大ファンなんで、もちろんルリも一緒に……ね?」
「へぇ、ただのファンかと思ったら、そう言う二面性が有るんだ……ま、人は大なり小なり二面性どころか多面性の有るもの……。構わないわ、ただ私は真実を知りたいだけだから……」
三人で辺りを散歩すると言って歩いて行くと開けた場所に出る。眼前にはキラキラした湖面が光っていてよく見ると水は透き通っていて魚が泳いでいるのが見えた。
「ここまで来れば良いんじゃないの? 勇者さん?」
「出来れば元を付けて下さいAYAさん」
俺はそう言って苦笑しながら言うとルリが俺の腕を掴んでガクンガクン揺らす。さすがに堂々と勇者とまで言われたのならダメイド姉が一通り喋ったとみるべきだろうなと考えて後で姉さんのBBQ用の肉を減らす事を心に決めた。
「ちょっ、カイ!! 何言ってんの!?」
「ここまでバレてんのに隠すのは無駄だよルリ。疑問にお答えしますAYAさん。その前に一つ、AYAさんは勇者と聞いて何を思い浮かべますか?」
「ロボットアニメね……特に勇者警〇や勇者〇令がお気に入りよ」
そう来たかぁ……取り合えず俺は過去改変や詳しい事を一切話さず俺が異世界に転移させられ、そこで勇者をしていた事だけを話す。その異世界で得たチート能力でルリや姉二人を助けたりした事などを話した。
「なるほど、合体はしないのね……」
「カイ? 勇者ってゲームの勇者みたいな感じなんじゃないの?」
「昔は他にも居たらしいんだよ勇者が……それでAYAさん――――「頼野綾華、綾華で構わないわ秋山くん」
「じゃあ俺も快利で大丈夫です……ってどうしたルリ?」
自ら本名を明かしてきた綾華さんに驚きながらも平静を保ち、俺が交渉を始めようとしてるのに横のアイドルの腕を掴む力が強くなっている件について聞きたい。無視するのもかわいそうなんで横を見ると少し目が澱んでいた。
「べっつに~私がカイの下の名前呼ぶようになったのは出会ってから半年以上かかったのに会ってその日に許すんだ……とか全っ然、思ってないから」
「ふっ、RUKA……ううん。瑠理香が本当に普段と違うのね。嫉妬丸出しでまるで子供みたい」
そこでまたルリが騒ぎ出したのでなだめるのに時間を要し、後で夕食を一緒に食べて、その後は二人で散歩すると言う事で落ち着かせ、やっと本題に入れた。
◇
「つまり異世界から帰って来たあなたを追って魔王がやって来て私たちが巻き込まれたって事で良いのね?」
「すんごい短くするとそんな感じで大丈夫っす」
「それで、綾華……あのね今日の事を含めてカイの事は完全に忘れてくれない?」
「そう、ね……こんな非現実的な事を言ったところで誰も信用しないし、私はわざわざ喋る気は無いわ。これで満足?」
それを聞いた瞬間に二回強く手をギュッと握られた。え?今、普通に納得してたじゃないかと見るとルリはあれは嘘だと思うと耳元で俺に言う。
(疑わしきは、やっちゃえだよ!! カイ!!)
この子、本当にアイドルグループのリーダーやってたんですかねえ……色々と今まで問題が無かったのかよトワディーって……ファンをやっててもうすぐ三年だけど色んな意味で内部関係が気になってきたぞ。
(落ち着けってルリ。まだ話をキチンと聞かなきゃダメだろ?)
「ダメだよ!! カイの秘密がバレたら……私を守るために戦ってくれて、なのに私のせいで……」
「別に話す気は無いって……瑠理香、ううんリーダー? 私が信用出来ない?」
「うんっ!! だって綾華は気まぐれだからね。それと、すんごい頑固だし」
信頼してるからこその発言だと信じたい……このままじゃ俺の推してるアイドルグループが崩壊する。
「じゃあどうすれば良いのかしら? リーダーと快利くんの要望は? それこそ魔法でも使うの?」
「うん。本人もこう言ってるし、やっちゃおう!!」
「ルリ? 少し静かにしてような~?」
話が進まないのでもう面倒なのでルリを小脇に抱えるのに抱き寄せて綾華さんを見る。予想通りルリは大人しくなった。中学の時に何回かやった時に大人しくなったから久しぶりにやってきたら顔を真っ赤にして大人しくなっていたので俺は話を続ける事にした。
「俺としては綾華さんを巻き込んだ事にまず謝罪をしたいと思っていました。すみませんでした。そして思った以上の胆力と洞察力にも恐れ入りました。その上で俺はあなたと敵対すべきでないと考えています。そしてその方法はルリの言う脅しや抑圧と言った方法では無理だと判断します」
「それで?」
「あなたは、その、どこか異世界の人間と気概と言うか姿勢が似ている気がします。何か一つ覚悟と言うか信念みたいなものが見えるんですよね……軽い修羅場くぐってますよね?」
会ってからルリやMIMIちゃん、それにエマさんとも違う独特な空気が綾華さんにはあった。俺としては同類とは言わないけど現実世界に戻ってきて接してきた人間とは少し違う鋭敏な感じがしていた。それが今の会話でハッキリ分かった。この人は過去に何か命に係わるような体験をしていると。
「軽くなんて無いわ……いや、私は軽かったと思う。私は、見てて助けてもらっただけだから。あの人たちに……」
「なるほど、それが根源ですか……あなたの、なら心を折ってまで洗脳したり記憶を消す方法は俺はしないよ……信念の有る人に俺はそんな事はしないよルリ?」
「カイ……。でも、ううん。カイが良いなら私は、でも綾華……カイに少しでも迷惑だって私が判断したらその時は……」
色々と綾華さんの過去が凄い重そうなのをひしひしと感じながらも、そんな事なんて一切お構い無しのルリとの間にバチバチと火花が散っているのが見える。女同士の妙な争いだったが先に折れたのは綾華さんだった。
「ええ。分かってるわ。そっか……今日の瑠理香はあの人に似てたんだ。ふふっ、そっか。分かったわ異世界勇者くん、それとリーダー。もし何かあったら私のスキャンダル堂々と出してくれて構わないよ? 知ってるでしょ? 瑠理香は」
「えっ……でもそれってイコール私たちが解散級で、事務所が倒産するレベルのものなんですけど……」
「そう。だから私はトップアイドルを目指すためにも元勇者くんの事は絶対に他言しない。もちろんリーダーと元勇者くんが付き合ってる事もね?」
なんかとんでも無い秘密を聞いちゃった気がするんですけどっ!!それと散々イキってたのに綾華さんに完全敗北してる気がするんですけどっ!!あと俺とルリは付き合ってねえから!!そりゃ悪い気はしないけど、俺の気持ちがRUKAへの憧れと敬愛から来る好意なのか、それとも風美瑠理香と言う一人の少女への気持ちなのか分からねえんだよなぁ……それがハッキリするまでは答えは出せない!!って、夏の間に言おうと思っていたのにズルズルと今日まで来てしまった。どうしようかと答えに窮していたら口を開いたのはルリだった。
「綾華、私とカイは付き合ってないよ……これは本当」
「え? そうなの? でもどう見ても……そう、これは野暮だったみたいね?」
それだけで沈黙して気まずい空気が流れたから俺は咄嗟に話題を変える事にした戦術的撤退と言う奴だ。いやさ俺がここでカッコよく返事をすれば良いんだけど……魔王と対峙する時よりも女の子の告白に応えるのが大変とか勇者としてどうなの?とか思うけどさ……。
「ま、黙っていてもらう代わりに簡単な魔法てか魔術を披露しますよ綾華さん」
「へえ。それはぜひ、そうね由梨花さんが言ってた転移魔術ってのお願い出来る?」
「そうですね。ちょうど良いしペンションまで戻りますか。ルリもそれで良いか?」
ルリも了承してくれたので俺は久しぶりに魔法を起動させ、魔術を行使するために
「これが転移魔術です綾華さん――――『勇者カイリに最優先伝達事項です!!』
「え? ガイド? どうしたんだ?」
『現在、勇者カイリの加護対象者が増えたために能力が八分の一まで低下しています。それに伴い一部能力に更なる制限が課されます』
約二週間ぶりに起動したガイドはいきなりとんでも無い事を言い出した。俺の能力が更に低下しただと……それに八分の一って事は二人分増えた?俺が許可しなきゃ加護は自動で増えない筈だ。バグか?こんな事普通はありえない。
「どうしたの? カイ?」
「い、いや何でも無いさ。取り合えず皆のとこに戻ろう二人とも」
綾華さんも困惑して「魔法を使ったのはまずかった?」と心配そうに言っていたからそれは問題無いとだけ言って二人を連れて皆の元に合流する。嫌な予感がする。その間にもガイドにアクセスして
◇
「姉さん達!! 無事っ!?」
「どうしたのよ? 快利? てか二人を連れてどこ行ってたのよ?」
ユリ姉さんは無事だ。エリ姉さんとエマさんも話している。MIMIちゃんはトイレに行ったらしい。そしてちょうどペンションから出て来るところで遭遇する。全員無事か……一安心だなと思った瞬間にガイドが更にこちらに警告を放った。
『勇者カイリ!! この場所に空間転移、つまり転移魔術で何者かが出現します……加護対象者と確認、二名はモニカ・キュレイア様、セリカ・ディ・ジュディット=カルスターヴ様と確認……来ます!!』
ガイドの警告終了と同時に空間が十字に割かれた。俺は聖剣で割いて空間を円形に広げるようにして出るのだが、その空間の割り方は乱暴で空間を割って出て来たのだが、たぶん転移設定が甘く上空3メートル弱に出現していた。
「おや、座標をまた少し間違えてしまいました……どう致しますか……ま、落ちても大丈夫でしょう」
「あなた!! また座標を間違えたのっ!! この世界に来てこれで三度目ですわ!! あなたには学習能力が無いんですのっ!?」
そんな事を言いながら二人は落下しつつも華麗に着地した。スキルと魔法を使って着地したのがハッキリ分かる。
「なっ!? なんなの!?」
「快利!! 空から美少女メイドとドリルロールなお嬢様が!?」
「んな可愛いもんじゃねえ!! ルリと綾華さんゴメン!!」
エリ姉さんがどっかで聞いたようなセリフを俺に向かって言うがそれどころじゃない。あの二人はマズイ。俺は近くに居た二人を両腕に抱き寄せてそのまま時間魔法を使って高速で移動する。そしてこのペンションに居る全員を俺の背後に守れるように立って聖剣を構えた。
「カイ?」
「ルリ、綾華さんや皆と一緒に居てあげてくれ。最悪アレが役に立つから頼むよ」
「う、うんっ!! 分かった!!」
ルリにそう言うと綾華さんを連れてエマさんや他のメンバーと合流するのを背後で感じながら眼前の二人を見る。間違いない。よりにもよってコイツらかよ……夏休みはヌルゲーになるんじゃなかったのかよ!!
「探しましたわ。勇者カイリ、私のフィアンセ!!」
「なった覚えねえわ!! 勝手に決めんなガキ!!」
「おや、マイマスター? 暫く見ない間に縮んでしまいましたか?」
「ちょっ!! カイ!! フィアンセってどう言う事~!?」
ルリを頼むから抑えていてくれ、話がさらに混沌化するからと思っていたら綾華さんが羽交い絞めにして後ろに引きずって行く。ほんと常識人が一人でも増えると助かる。エリ姉さんとユリ姉さんが他の二人を落ち着かせている辺り状況を察してくれたみたいだ。なら眼前の敵か味方か分からんコイツらを何とかしなくては……。
「で? セリカ、それにモニカも何でここに居るんだよ? 説明しろ」
「説明は不要かとマイマスター、すぐに戻って下さい世界の危機です!!」
「い・や・だっ!! 俺はもう、あの世界に戻らないからな!!」
「カイリ様、我儘言わないで早く私と結婚して下さい。そして私のお家を再興して下さい。そろそろ妻の力だけでは限界ですわ」
ダメだ相変わらず言葉が通じねえぞこの女共。どうしてくれようか。だがマズイんだよなぁ……てかガイド。どうしてコイツらに加護が戻ってんだよ。
『恐らくですが過去改変前の設定がそのまま保存されていたものと思われます。世界を渡ったせいで接続は切れていたのですが存在が同じ時間軸に存在するので復活したと考えるのが妥当かと……』
(範囲内に居るから加護が復活したと、つまりWi-Fiの電波が届くようになった感じか……誰がフリーWi-Fiスポットだっ!!)
『素晴らしいノリツッコミです失笑を禁じ得ません』
(うっせぇ!! 言ってみただけだよ!! それで本気を出さないで対象者二人、それも片方は元邪神の眷属を倒せる公算は有るのか)
『倒すだけなら問題有りませんが不殺を貫くなら厳しいかと……最低でも瑠理香さんの援護が必要かと思われます。または加護解除か……』
それは出来ない加護を解除したら目の前の二人を傷つける可能性が有るが、それ以上に加護が切れた瞬間に間違いなくこの二人は後ろの姉さん達に襲い掛かるだろう。対象者同士だから感覚で繋がっているのが分かるシステムらしい。
「どうやら……ここが過去で、あなたが戻られたのは本当のようですわねカイリ様? ならば、さっさと元の世界に帰りますわよ!!」
「俺はこっちの現実世界に残る!! そっちが勝手に呼び出した異世界だろうがっ!! いい加減にしろよ!!」
「ふぅ、なら致し方有りませんね……。マイマスター久しぶりに軽く吹き飛んで頂きます!!」
モニカが言った瞬間に顔の真横に茶色い筒状の物に導火線が付いたもの、こちらで言うダイナマイトのような物が転送されてきた。転移魔術の応用で物を転送してくる魔術でモニカの、かつての邪神の眷属が最も得意とした技だ。
「けっ!! 舐めるなよっ!! 小娘どもがっ!!」
俺は素早く爆弾を真っ二つに切り裂くと爆風から転移して逆に前に出る。だがそれを予測していたモニカと更に魔法の準備が終わっていたセリカが同時に魔法を放ってきた。コイツらいつの間に連携なんて覚えやがった。
「予測通り!! 『
「分かりました!! セリカ様!! マイマスター!! 腕の一本は頂きますから、お覚悟をっ!! 無限爆鎖っ!!」
セリカの体の動きを奪い精神の動きを遅くする魔法『永劫の操り人形』で一瞬だけ動きが遅れる。普通ならこれで動きが止まるのだが俺の魔法抵抗力なら鈍化させられるだけだ。しかし二人の狙いはそれで動きの遅れた俺に爆弾を鎖のように繋げたものが投げ込まれる。
「ちっ!! 勇者を舐めるなよ!!
俺は咄嗟に転移爆弾から身を守るために黎明の盾で防いでその場を離れた。そして後ろのルリや姉さん達が居る場所付近まで戻る。
「ちょっと瑠理香。あなたの彼氏どうなってるの!? 凄いじゃない!? ハリウッドも真っ青よ!!」
「いやなんかそう言うレベル越えて凄過ぎなんですけどルリ姉ぇ?」
「カイ~どうしよ……もう絶対に隠し切るなんて無理ぃ~!!」
本当にどうしよう……綾華さんは大丈夫そうだけどMIMIちゃん絶対に話しそう……エマさんにも俺が勇者になるとこはガッツリ見られたし……。
「さすがは七年もの間、私たちの世界を守ってきたマイマスター、即席の連携では歯が立ちませんか……」
「そうでもなくってよ? やはり勇者カイリは優しい。この状況でも私たちを可能なだけ傷つけないように戦ってますわ。そこに付け入ります!! それに後ろの方達と言う弱点も有りそうですわね?」
相変わらず狡猾な女だ。これで17歳なんだから末恐ろしい。こうなったらコイツらの知らない技で戦うしかない。俺は素早くスマホでルリにメッセージを送る。
「ルリ!! スマホを見てくれ!!」
「え? 分かった~!!」
たった今――――【ルリの歌を聞かせてくれ】
たった今――――【喜んで私の勇者様♪】
それを確認するとスマホを
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