第15話「陰キャに優しいギャルとかいう幻想そろそろ止めませんか?」




 校門に着くとスキルなんて使わなくても分かってしまった。凄い睨まれてます。だって……エリ姉さん完全に俺の腕に抱き着いてるじゃないですか!!電車内では絶対に嘘だと思ったけど「痴漢が怖いなぁ」とか棒読み&無表情で言って来て俺を壁役にして自分はドアの前で待機して、到着すると今度はすぐに駅から出て行くから慌てて追いかけて気付けば俺の左腕にガッチリ抱き着いている……すごくイイ匂いがして、柔らかいです。


「ほらほら、どうだ? お姉ちゃんとの仲良し登校だぞ? もっと盛大に喜んでも良いんだぞ?」


「そりゃ姉さんとこうして登校出来るのは嬉しいけどさ……周りの視線とかが凄くて気にならない?」


「そうか? 私はそこまで気にならないがな? ふふっ」


 そうでした。この姉には認識阻害がかかっているアイテム渡したんでした!!そもそもユリ姉さんの話じゃエリ姉さんは視線に敏感らしい、やっぱり武道とかやってると、こっちの世界でも気配とか感じ取れるようになるんだな。向こうはそれがスキルって形で明確に分かるから良かったけど、こっちはそれが無いからな。


「エリ姉さんは人気者なの自覚してる? しかも先週までそこまで仲良くなかった義弟と一緒に登校してるんだから注目の的なんだよ?」


「そうか? 先週お前と一緒に武道場まで来た時から視線が減った気がしてな。それが無くなったから、お前と登校してみたかったんだ。やはりこのシャツは凄いな。洗い置きが無いから明日はまた、昔のものを……」


「ああっと、姉さん、実はそれ通販でさ!! 今日、たぶん夕方頃に届くから、それを着てけば良いと思う。それと姉さんは洗い置き込みで何枚くらい欲しい? 注文しておくからさ」


 そうか、土日を挟んで忘れていたけど、あのTシャツは一枚しか作ってない……俺は咄嗟に嘘をついたけど、これは計算の範囲内だ。なぜなら姉さんには部活が有る。そして俺はワームホールで悠々と帰れる。その間にスキルでTシャツの予備を量産すれば良い。はいはいヌルゲーヌルゲー♪


「ふむ、四から五枚あれば安心はできるかな……しかし通販か。なら私が自分で通販した方が――「実は送料とか手数料とかの関係で他にも一緒に注文したい物があってさ、ユリ姉さんの物とか!! だから俺に任せてよ!!」


「ほう、ユリ姉ぇの物ねぇ……この土日の間に随分と仲良くなったな? その辺りは、今夜詳しく聞かせてもらうからなっ!!」


「アハハ……あ、じゃあ姉さん、俺は上の階だから!! じゃあね!!」


 そう言って俺はエリ姉さんと別れて二つ上の階へ上る。この学校は三年が一階から二階で、二年が三階、一年が四階と言う感じになっている。一階に特別教室が集中しているからこのような構成らしい。





(おかしい……菊の花さん復活してるんですけど……)


 俺の机の上には二年に進級してから約二ヶ月弱鎮座していたが、先週には跡形も無く消滅させた『菊の花さんIN花瓶』が復活していた。俺の席はまさに教室の中央の席で教室に入った瞬間に一目瞭然だった。そして、そのまま俺の後ろの席の奴を絶対にコイツが主犯だろ?と、思って見た。


「あのさぁ……風美……?」


 ま、やる事はいつも通りで皆が見てる前で消滅魔法を使う。これはマジックと金大好き君に言ってるからクラスメイトも分かっているのか少しざわざわした後に平穏を取り戻していた。そして恐らくは原因の方にクレームを入れようと振り向く。


「凄い……やっぱり――」


 見ると風美は茫然としていた。なぜかいつもの取り巻き連中は居なくて、そいつらの席を見ると金大好き君と女子は居たけど、前回最後まで残っていた二人の席は空席のままだった。風邪かな?


「あのさ、風美さ~ん? 聞いてる?」


 なんかボソボソ一人で呟いてる風美、ここで改めて彼女を見てみよう。目の色は平均的な日本人の焦げ茶色で、顔は悔しいけど美少女だ。頭は少し金に近い茶髪でもう金髪と言ってもいい髪色、実はこれは地毛で元々は黒かったらしい。まだ中学の仲が良かった頃に聞いた話だと小さい頃の習い事でプールにほぼ毎日通っていたら、自然とこの色になってしまったらしい。プールの塩素が原因で明るい色になったとか。


「あ……な、何よっ!!」


「あれをマジック魔法で消すのだって面倒なんだから止めてくれ。ほんとに、もう勘弁してくれよ。てかイジメカッコ悪いからな?」


「うっさい、明日からはしないわよ!! 今日は試したい事があっただけよ!!」


 えぇ……まさか俺のマジック見たかったのかな?コイツ、そう言えば高校デビューする前の二人での陰キャ時代は図書室の隅っこで二人でボードゲームとかマジックの練習とかしてたな……。


「はぁ、勘違いしてるようだけど!! 私はまだ諦めてないからね!! あんたみたいな陰キャに負けっ放しなんて私のプライドが許さないんだから!!」


「えぇ……放っておいて下さい。マジで……」


「い・や・よっ!! 今日は何かみんなチョーシ悪いみたいだけど、明日みんなが復活したら覚悟しておく事ね……」


 担任が入って来るとホームルームで最近近くの商業ビルが大爆発して倒壊したので危険だから近寄らないように言われる。ま、あれを爆破したの俺なんですけどね。だって……サークラしたかったんだもん……反省はしてない!!


「あ~それと、土曜日に体育の田中先生の車に偶然、隕石が落ちて来ました!! おかげで田中の車に風穴が空きました。ざまぁ……BMなんて見せびらかすから罰当たったんだよ……じゃなくて、人間に当たらなくて良かったですが……皆さんも隕石には気を付けましょう」


 あ、そう言えばエリ姉さんをエロい目で見てた奴二人に死なない程度で、ランダム魔法『天罰覿面何が出るかな?』を使っておいたんだ。忘れてたわ。時限式だから姉さんが帰宅した後に発動するようにしておいたから良かった。万が一巻き込まれたら大変だったからね。それと担任の黒い何かが漏れているな……。この間の教師もだったけどやはり教員はブラックなんだな……。





 そして昼休み、俺は結界を張ってご飯を食べようとしていたのだが……。


「何で風美さんが俺の前の席に座って飯食ってるんすかね? せめて前向いてご飯食べてくれませんか? 俺の机の上に置かんで下さい」


「今日はいつものメンバーが居ないから、仕方ないからボッチのあんたと食べてあげようって私の心遣い分からないの? そんなんだから今も陰キャなのよ?」


 陰キャ煽り止めて下さい。陰キャにだって人権は、ありまぁす!!どうしよう人権ある事の証明がされなさそう……。それにしても何が狙いなんだろうか?いまさら俺に何の用なんだよ……。


「陰キャなんで分からないっすね~。てか他のメンバー二人も居るだろ?」


「それは……だって……金田は男子だし、二人で食べるのは何か違うでしょ? 誤解とかされたく無いからさ……あと陽菜の方は隣のクラスに……用があるからって……言うからさ」


 あ……つまり、昔のように風美も今はボッチに戻ってるのか……あの頃は二人で寂しく放課後過ごしてたなぁ……でも、金田は金が好きなだけでそこまで悪い奴じゃないから一緒に食べれば良いのに……。ま、ここで俺が一々そんな助言とかしてやる気は無い。今更『もう遅い』ってね?ユリ姉さんに借りた小説の中にそんなのあったから覚えちゃったよ。


「ふぅ、じゃあ、俺は勝手に食べるから……どうぞ」


「ふんっ! じゃあ勝手にするわよ。それにしても土曜のビル爆発って凄かったよね? 秋山は動画とかもう見た? ヤバいわよ?」


 うわっ……コイツえらく普通に来やがった。何だよ少し笑ってるし……何なら顔も少し赤いし……しかし騙されないぞ……俺は心でそう言いながら昨日のユリ姉さんとの会話を思い出していた。




――――昨日、秋山家のリビング――――



 ちょうど食後のまったりタイム、母の夕子は洗い物と洗濯など、二番目の姉の絵梨花は一番風呂と言って一緒にポロを連れ入浴中だった。ちなみにポロはお風呂は苦手で言う事を聞かなくなるので、毎回みんな洗うのを嫌がる。だから自動的に快利の仕事になっていた。しかしこの間の餌やりを忘れた絵梨花が今回は率先してやると言い出し、こうして今リビングのソファーには長女の由梨花と快利の二人と言う状況になっていた。


「どうだった? 私のカレー?」


「美味しかったよ。すんごい懐かしい味だった。少し甘かったけどね?」


「ふ~ん、そっか快利も辛口食べれるようになったんだ? そっか……」


 正直感動で泣きそうな元勇者なのだが、ここで泣いたりしたらカッコ悪いので泣かない、彼は男の子なのだ。そして由梨花の胸をチラチラ見るのを忘れない。だってチラ見の許可をもらったからと彼は言うだろう。だって男の子だから。


「快利、さすがに露骨過ぎよ……私や絵梨花は良いけど他の子にもそんな調子じゃ今に訴えられるわよ? 電車の中で目が合ったらバトルじゃなくて通報されるのが今の世の中なのよ?」


「大丈夫だよ姉さん。そもそも親しい女子なんて居ないし……あ、でも絡んで来るのは一人居るんだけどね……」


「え? あんたまさか同級生の女子と普通に喋れているの?」


 女の影を察知すると即座にお姉ちゃんチェックが入るのは姉妹揃ってのさがなのか即座に根掘り葉掘り聞いて来た由梨花に対して、快利は今まで言えなかった高校生活について話し出した。


「と、まあそんな感じで今まで黙ってたんだけど、実はイジメを受けててさ……」


「そうだったのね……ほんとゴメンね快利、家だけじゃなくて学校にも居場所が無かったのね。本当に、私は……なんてことを……」


「姉さん。それは、もう言いっこ無しだから。それに今は結界張ってるからノーダメだしイジメも止めたから平和なもんだよ。相変わらずボッチのままだけど……」


 そしてその後も色々と口が滑って風美の事を話していた。彼女と中学は同級生だった事、図書委員で卒業直前までは仲が良かった事、そして最近は撃退したり、その後に家まで送ったり、狙われている(勇者感覚)と言う趣旨を姉に話していた。


「ふ~ん……そっか……」(ちょっと待って、そいつ明らかに快利狙ってるじゃない!! イジメは流石に酷いけど、それ以外はどう見てもツンデレを越えた好きな子イジメるタイプのやり過ぎ系の女の所業よ!! 私は知ってるわ!! だってこの間ラノベで読んだから!!)


 この姉の情報源が残念なのは変わらないが、実は意外と当たってしまっているのが恐ろしい、事実はラノベより奇なり、などと言われる日がいつか来るかもしれない。


「快利、私が助言してあげるわ。そいつは高校デビューした陽キャなのね?」


「うん。そうだよ。やっぱり大学デビューして盛大に失敗したニワカ陽キャだった姉さんなら何か分かるの?」


「それは言わないで……快利は私の失敗談ほとんど知ってるから一つだけ、私はソフィーが陽キャっぽいのに陰キャな私に優しくしてくれたからホイホイ付いて行ったわ……だって友達欲しかったし……でもね、それが罠だったのよっ!!」


 そして由梨花はソファーから立ち上がると、くわッと目を見開いて言った。今日までの思いのたけを叫んでいた。


「陰キャに優しいギャルなんて幻想よ!! そんなの二次元の限られた場所にしか居ないのよ!! 快利、覚えておきなさい!! 現実リアルでは陽キャとか優しいギャルなんて私たち陰キャの敵なのよ!! 近付いて来た時は基本、罠よっ!!」


「さすがユリ姉さん!! 経験談から来る失敗談だから凄い説得力あるよ!! 俺もしっかり胸に刻んだよ!!」


「ありがとう……快利……私、泣いていいかしら?」


 少し落ち込んでいる姉の頭を撫でるとパシってはたかれた快利。やはり彼女の義姉としての最後の意地で年下扱いはダメらしい。と、昨晩こんな事があった。由梨花の教育もまた絵梨花並みに完璧だった。ダメな方面で……。しかし異世界生活が長くこちらの世界では異性との接点が義理のお姉ちゃん二人と言う快利には、この事を見抜くなど不可能だったのだ。そこだけは理解してあげて欲しい。



――――現在、教室――――



(そうだ。つまり風美が俺に安易に近づいて陽キャ的なムーヴをして来ているのは……罠だ。そもそもコイツは暗殺者の疑いも有るからな)


 俺は昨晩のユリ姉さんの言葉を思い出していた。そして元勇者の性質上、俺は未だに風美に対してもハニートラップからの暗殺も警戒している。だってあんな女ばっかだったもん異世界生活!!仲良くなったら毒か爆弾だったからね!!


「どうしたの? 秋山?」


「別に……ビルなんてよく爆発するんじゃないのか?」


 テキトーに相槌を打つ。何を話していたんだっけ?そうだユリ姉さん助ける時に俺がサークルクラッシャーになった時の話だ。でもビルを一つ吹き飛ばしたくらいで何でそんな大騒ぎに……あれ?


「しないわよ……でもそっか……ふ~ん」


「何ですかね? その何か察したみたいな顔は……」


「いや、あんま驚いて無いから……何か知ってるんじゃない?」


 内心ビクッとしながら表情を変えないようにして受け流す。だけどこの元陰キャのギャルはこっちを見つめて来る……やばい可愛い……。中学の時はメガネだったけど今はコンタクトなんだよな。


「知らないよ。だいたい爆発なんて現実感無いだけだし、その映像もだいぶ加工とかされてるからな……」


「へ~? そうなん? でも加工とかってほんとぉ~?」


 なんかムカつくなコイツのこう言う態度。前はもっと、こんな感じじゃ……そうだったコイツは昔の風美じゃない、もう俺や姉さんのような陰キャの敵だったんだ。そんな事を考えてポロっとまた言っていた。


「ああ、そもそも青い爆発なん起きてないからな……緑と赤の閃光の後に白く爆発するもんだし……」


 グロウ・ブレイズ輝く聖炎は緑の炎で魔を焼き払って赤い炎で魔を浄化する、そして最後は白い爆発で全てを吹き飛ばす。そう言う魔法だ。だからこんな青い光なんて出ない。動画サイトやアプリで加工されたのは丸わかりだし……。


「ほ~……詳しいんだね? 秋山?」


「って、言うのをこの間テレビで見たんだよなぁ……そうそう。何とか効果とか科学とかそう言う番組で見た気がして……」


 そんな事を言ってる内に昼休みは終わった。午後も授業があったので寝ようしたら椅子が蹴られる。コイツ邪魔しやがって……。後ろをチラっと見るとウインクとかして来た……負けねえ!!そこから完全無視してやった。そして放課後すぐに帰るために教室を出るとキッチリ後ろから付いて来た。だから振り返った。


「あの、風美さ……今日何がしたいか分からないけど、いい加減に」


「な~に? ごっめん、私、急いでるんだけど?」


「えっ!?」


 普通に俺の後を追って来たんじゃないのか?見ると俺が一瞬止まった間に風美は素早く俺の横をすり抜けて下駄箱で靴を履き替えるとすぐに校門まで行ってしまった。何か本当に急ぎの用事があったみたいだ……は、恥ずかしい……完全に俺の勘違いじゃねえか!!何か腑に落ちない気持ちで校門前まで行くと車に乗り込もうとしている風美と目が合った。そして彼女は口だけを動かして口パクで『ば~か』と言った。


「ば~か……って、何だそれ……あぁ……最悪だ。結局遊ばれたんじゃねえか……くそっ、陰キャを弄んでそんなに楽しいのかよ!!」


 勘違いしたのも恥ずかしいし、ちょっと俺に気が有るんじゃね?とか思ったのがもっと恥ずかしい……。ああ、そうですよ!!少しだけ期待しましたよ!!最近何でも上手く行ってたからもしかしたら風美とも昔みたいに、な~んて思っていた時代が俺にも有りました。やっぱ陰キャに優しいギャルなんてこの世に居ないから!!ユリ姉さんは正しかったんだ……。


「はぁ……なんだろ……色々負けたような気分になって来た……帰ろ……でも風美は何を急いでんだろ? 家の人かな?」


 そう思った時だったスマホが揺れた。姉さん達かな?開いて見ると通知が二つ、いつの間にか入っていたユリ姉さんの通知とRUKAさんからの通知だった。最初に見る方は決まっている……ゴメン姉さん!!まずはRUKAさ~ん♪


たった今【学校終わりでこれから現場に直行です。明日のデート楽しみにしてます】


 【僕も楽しみにしてます。お仕事頑張って下さい。俺はいつも応援してます!!】

 

 そっか……RUKAさんも学校終わって今からお仕事なんだ……大変だなぁ。アイドルしながら学生もやっているんだよな……。そうだ、忘れない内に姉さんの方も通知確認しとこっと。一応見てあげなきゃ……拗ねたりしたら大変だからな……。


三十分前【さっき街中で瑠実香を見たんだけどまさか会ってないよね?】


 え?瑠実香るみかって……ユリ姉さんの元クラスメイトでエリ姉さんが懲らしめて中三で転校したって言う人だよな……。そして俺とユリ姉さんの仲を決定的に引き裂いた原因を作った人間……。その人がこの街に?

 少し心がざわついた……。明日はデートなのに少し不穏な感じがした……だから俺はその不安な思いを払拭しようとワームホールを開いてすぐに帰宅した。エリ姉さんのTシャツを用意するために……。

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