第30話 【この結婚の】父、語る【裏側で】 2/2

 そんな感じで、色んなことのあった一日だったけど。

 明日の顔合わせに備えて、早めに寝ようって流れになった。



「はぁ……マジで嫌なんだけど、勇海いさみと一緒とか」

「それは僕のセリフだよ。寝てる間に、那由なゆちゃんに何されるか分からないもの」



 今回は親父もいるので、一階を親父に割り振ることにして、消去法で那由と勇海が同室で寝ることになった。二人とも、最後までぐだぐだ文句を言ってたけどね。


 そして、俺と結花ゆうかは普段どおり……並べた布団にそれぞれ入って、電気を消した。



「……ゆーくーん」

「なぁに、結花?」



 寝転がったまま、天井を見上げていた俺に、結花がもぞもぞと近づいてくる。


 そして、ピトッとくっついたかと思うと……ぐりぐり頭を押し当ててきた。

 くすぐったいんだけど、それ。



ゆうくん、眠れない?」

「うーん……まぁ、ちょっとね。やっぱり緊張しちゃって」



 ――遊一ゆういちくん。結花が君からもらっているものは、なんだね?



 明日は、結花のお父さんとお母さんが、わざわざこちらの方まで来てくれる。


 そして、うちの家族と結花の家族で顔合わせをして、食事会という流れなんだけど……そのときこそ俺は、お義父とうさんの問い掛けに答えないといけない。



 いや……違うな。


 答えたいんだ。結花の『未来の夫』として――恥じないように。



 そのために俺は――来夢らいむと会って、中三の黒歴史と向き合った。

 親父から結婚の本当の経緯を聞いて、お義父さんの気持ちに向き合おうとした。


 お義父さんに認めてもらって、これからも結花と、笑顔で一緒にいるために。



 だけど…………。



「結花、いつもありがとうね」


「なぁに、急に? こっちこそ、ありがとうだよー遊くんっ」


「……俺さ。結花に、色んなものをもらったなって思うんだ。中三の冬にどん底に落ちたときは、ゆうなちゃんのおかげで立ち上がることができたし。一緒に暮らすようになってからは、結花のおかげで――楽しい想い出が、たくさんできた」


「えへへ……うんっ」


「だから、なんだか――申し訳ないなって、思っちゃうんだよ。結花がくれたものは、数えきれないほどあるのに。俺はなんだか……もらってばっかりだなって」


「――遊くんって、おばかさんなとき、あるよね」



 つい弱音を漏らしてしまった俺を見て、結花はくすくすっと笑う。

 そして、俺の手を握って――言った。



「お父さんが言ったこと、難しく考えすぎなんだよ。私は遊くんのおかげで、いっぱい幸せなんだもん。だから……お父さんがもしも本気で結婚に反対したって、大丈夫っ!」


「大丈夫って……どういうこと?」


「そのときは――駆け落ちしちゃうもんっ」



 ドヤ顔でとんでもないことを言う結花に――俺はつい、笑ってしまう。

 そんな俺を見て、結花も楽しそうにニコニコ笑う。



「とにかく、それくらい大好きってこと! だって遊くんは、出逢う前から私のことを支えてくれた、大切な人だもんねーだっ!!」



 …………出逢う、前から。



 ――お前は『恋する死神』……ゆうな姫を誰よりも愛し続けてきた、最強のファンだろ。


 電流のように、結花の正体を知ったときのマサの言葉が、脳内で再生された。



 それと同時に、胸の中につかえていたものが――すっと溶けていくのを感じる。



「……そっか……分かったよ、結花」

「え、遊くん? どうしたの?」



 びっくりする結花を横目に、俺は布団から跳ね起きると――ゆうなちゃんグッズで埋め尽くされた机の、一番下の引き出しを開けた。


 そして、一番奥に突っ込んでいた、黒い小箱を取り出して。




「やっと見つけたよ、結花……お義父さんに胸を張って言える『答え』を」

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