第15話 俺の許嫁と俺の悪友が会話をしたら、まさかの展開に……? 1/2

「おい、遊一ゆういち! 見てくれよ、これ!!」


 昼休み。

 自分の席に突っ伏してうたた寝していたら、なんかテンション高めなマサが話し掛けてきた。


 何かと思って顔を向けると――マサは不思議な踊りを、踊った!


 えーと……素人目に見ても、たいしてうまくないんだけど。なんなの、急に?



「……はぁ、はぁ……見たか、遊一!?」


「死を悟った、まな板の上の鯉の真似?」


「ちげぇよ馬鹿! どう考えても、『ゆら革』の『ドリーミング・リボン』の振り付けだったろ!! ついにマスターしたんだよ……俺はこうしてまた一歩、らんむ様と同質の存在へと近づいたわけだ」


「全宇宙のらんむちゃんファンに謝れよ、お前……」



 そんな感じで、いつもどおりのくだらない会話を交わしていたら。



「……楽しそうね」



 ふいに、とてつもない圧を感じさせる声が、後ろから聞こえてきた。


 振り返ると、そこに立っていたのは――綿苗わたなえ結花ゆうか


 長い黒髪をポニーテールに結って。眼鏡を掛けて。


 まったく表情を変化させることなく、じっと俺を見下ろしてる……学校結花だった。



「わ、綿苗さん……ど、どうしたの?」


「お……おい、遊一! お前こそ謝った方がいいやつだろ!! なんか知らねぇけど、絶対にお前が悪い!」


「なんでだよ!? 俺は特に、何もした覚え――」


「…………やっぱり、楽しそうね」



 さっきまでより、さらに結花の声に力が入ったような気がする。


 え、マジで俺……なんかした?

 普通に昼飯を食べて、机で半分寝落ちそうになって、その後はマサとしょうもない話をしてただけなんだけど。


 っていうかむしろ、下手くそな『ドリーミング・リボン』を踊ったマサの方を糾弾してくれない?



「ねぇ、佐方さかたくん……時間ある?」

「え……あ、あるけど……?」



 結花の真意が分からなくて、おそるおそる答える俺。


 そんな俺に対して、結花は――くいっと、アゴで廊下の方を指すと。


 淡々と言った。



「――表に出てくれない?」




 そして俺は、結花に言われるがまま……ひとけのない、階段のそばの死角に来た。


「ゆ、ゆうくんごめんね? 急に呼び出しちゃって……」

「いや、大丈夫……普通にみんな、俺がガチめの叱責を受けると思ってるだろうから」



 ――表に出ろや。


 なんて、つり目がちな学校結花が無表情に言ったら、マジギレしてるとしか思わないからね。



「それで、一体どうしたの?」

「んっとね。この間も言ったとおり、私……もっとクラスのみんなと仲良くなりたいんだ。お堅い綿苗結花のまま、高校生活が終わっちゃうのは……嫌だなぁって」



 ああ。その話なら、覚えてるよ。


 結花としては、もっとクラスのみんなと話せるようになって――笑顔で高校を卒業したいんだよね。



「そう決心したから、この間だってほとんど絡んだことない女子グループに交ざってたじゃない。結花なりに頑張ってたと思うけど」

「……全然だよぉ」



 俺の言葉が地雷だったのか、結花はずーんと沈み込む。

 そして、上目遣いにこっちを見て。



「みんなが優しいから、なんとかなったけどさ。あのときの私、明らかに挙動不審だったもん」


「そりゃあ、挙動はかなりおかしかったけど……」


「そういうのを、もっと直したいの。みんなとスムーズにお話しできるように……だから! 遊くんに手伝ってもらって、倉井くらいくんと話してみようって思ったんだ!!」



 ――――はい?

 よりによって、なんでマサに白羽の矢が立ったの?



「ほら、倉井くんって遊くんといつもお喋りしてるじゃん? そんな学校での遊くんを、私は『可愛いなぁ』『笑顔が格好いいなぁ』『好きー』って思いながら、一日に何百回も見てるじゃん?」


「ちょっと待って。そんな前提条件、知らないんだけど?」


「そんな感じで、遊くんをいーっぱい見てるから――倉井くんが遊くんと、どんな感じで話してるかは分かるんだ。それに、修学旅行も同じ班だったし……他のクラスメートよりは、喋りやすいんじゃないかなぁって!」



 ……それはどうかなぁ?

 ちゃんと理由を説明されても、まったく腑に落ちやしない。


 とはいえ、結花のことだ。一回そう決めたからには、止めたって無駄だろうしな。



「まぁ、うまくいくか分かんないけど……そんなに言うんなら、俺と結花とマサで、雑談でもしてみる? 俺と結花の関係がバレないくらいのレベルで、だけど」


「うんっ! やってみよう! よーっし、倉井くんとのお喋り――頑張るぞぉ!!」



 やたらと張りきってる結花だけど。


 なんとなーく……嫌な予感がしてならない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る