第27話 【沖縄】修学旅行を楽しもうと思うんだけど【初日】 1/2

 十一月中旬。


 まだまだ先だと思っていた四泊五日の修学旅行が――早いもので、今日からはじまる。



ゆうくーん! 早く早くー!!」


 玄関の方から、結花が急かしてくる。



「戸締まりしてるから、ちょっと待ってー。っていうか結花ゆうか、忘れ物とか大丈夫?」


「だいじょーぶ! もう昨日から五回は、忘れ物チェックしたもんねーだ!!」



 どんだけチェックしてんの?


 もう声色からして、めちゃくちゃはしゃいでるのが伝わってくる結花に――なんだか笑ってしまう。



 戸締まりの確認を終えて、俺は玄関へ移動する。


 ポニーテールに眼鏡に制服という、いつもの学校仕様にもかかわらず……溢れ出る『楽しみオーラ』を抑えられていない、にこにこ結花がそこにはいた。



「結花……顔がにやけすぎ」


「え? し、仕方ないじゃんよ! だって修学旅行だよ? 修学旅行! もー一回も寝なくてもー♪ しゅーがくりょーこーうー♪」



 小学生でも、そこまでなんないだろってくらいの、はしゃぎよう。


 楽しみなのは俺も一緒だし、結花が楽しそうなのはいいことなんだけどね。


 まぁ、でも……みんなと集合した途端、学校仕様に切り替わるんだろうな。



「よし。じゃあ、出掛けようか」


「うん! 遊くん、一緒に楽しい修学旅行にしようねっ!! もちろん――インストアライブも、頑張るからね!!」



 そう――これから俺と結花が向かうのは、沖縄。



 四泊五日の修学旅行を、全力で楽しむこと。


 そして、四日目に開催される『ゆらゆら★革命』のインストアライブにも参加して……それを成功させること。


 それが結花の目標。



 修学旅行とライブの両立とか、正直めちゃくちゃ大変なことを言ってるよなって思うけど……結花が頑張りたいって言うんなら、俺は全力で応援するだけだ。



 だって俺は、結花の未来の『夫』で。


 結花が演じるゆうなちゃんの、一番のファン――『恋する死神』なんだから。




「うおー! すっげぇ!! 遊一ゆういち、飛行機だぞ飛行機!」


「あははっ! 倉井くらい、ウケるー!! 飛ぶ前から、テンション上がりすぎじゃん?」


「うっせぇな、二原にはらは。いいだろうが、こういうのは――楽しんだもん勝ちなんだよ!」



 飛行機に乗って、出発を待っていると。


 隣に座ってるマサと、後ろの席に座ってる二原さんが……なんか盛り上がりはじめた。


 そして、二原さんの隣に座ってる結花は――びっくりするくらいの無表情で、窓の外を眺めている。



 家を出るときのテンションは、どこに消えたの?


 切り替わりが凄すぎて、本当に別人じゃないかって思っちゃうんだけど。



 そんな結花は……スマホに繋いだイヤホンをつけている。


 多分だけど、結花が聴いてるのは――『ゆらゆら★革命』の曲。



 ……紫ノ宮しのみやらんむが同じ状況に置かれたら、絶対に修学旅行をキャンセルする。


 実際に彼女はそう発言していたし、その信念を捻じ曲げることがないってのは――普段の和泉いずみゆうなとのやり取りで、よく分かっている。



 だけど、和泉ゆうなは――綿苗わたなえ結花は。


 そんな紫ノ宮らんむとは違う信念を持って、修学旅行とライブを両立するって決意した。



 それからの結花は、絶対にライブを成功させてみせるって意気込んで、日々レッスンに明け暮れていた。


 修学旅行でレッスン時間が削れる分、自分でトレーニングしなきゃとも言ってたっけ。



 和泉ゆうなも、紫ノ宮らんむも――どちらも間違ってないと思う。


 相反する考えの二人ではあるけど……真剣なのは、どちらも一緒だから。



『――まもなく、離陸いたします。シートベルトをしっかりとお締めいただき――』



「おい、遊一! いよいよだぞ!! 俺たちは、沖縄の地へと飛び立つんだ!」


「お前、小学生かよ……ちょっと落ち着けって、マジで」


「おーい、綿苗さーん。そろそろ飛ぶよー……って、手の動き可愛すぎじゃね?」



 二原さんの指摘を聞いて振り返ると――機内モードで音楽を聴きながら、なんか手首でリズムを取ったり、軽く振り付けのような動きをしたりしてる結花がいた。



「……なに、佐方さかたくん? じろじろ、見ないで」


 俺と目が合うと、結花は片耳だけイヤホンを外して、冷たい口調で言った。


 多分、イメトレしてるところを凝視されて恥ずかしかったんだろうけど……はたから見たら、恐ろしいほどの塩対応っぷりなんだろうな。


 二原さんは「いいじゃん、減るもんじゃないしー」なんて、笑いながら絡んでるけど。




 そんな高揚した空気の中――俺たちの乗った飛行機は、沖縄へ向けて飛び立った。

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