第26話 【アリラジ ネタバレ】和泉ゆうなと紫ノ宮らんむ、暴れすぎ問題 2/2

「――では質問です。『ゆらゆら★革命』ってネーミングは、どうやって決めたの?」


「はい! 『ゆらゆら』の方は、私が提案しましたっ!! ゆうなの『ゆ』と、らんむ先輩の『ら』で……『ゆらゆら』になるじゃんって!」


「なんで、ゆらゆら?」


「え……えっと、特に意味はなくって……語感、ですかねっ!」



 和泉いずみゆうなの天然な回答に、掘田ほったでるが笑い声を上げる。


 うん。いいと思う。その考えてない感じ……ゆうなちゃんっぽい!



「『革命』は、私が提案しました。ユニットの目標を聞かれたときに、真っ先に思いついたのが――『アリステ』界に革命を起こす、だったので。その目標を忘れず走り続けられるよう、ユニット名に刻みました」


「理由、重っ!? らんむらしいけど、ストイックさが尋常じゃないね……」



 掘田でるのツッコミはもっともだけど、その重さもいっそ――らんむちゃんっぽくて。


 ゆうなちゃん&らんむちゃんのユニットって考えたら、これ以上ないネーミングだなって思う。



「ちなみに二人のマネージャーさんから、リーク情報です……ゆうなは最初、らんむの『ら』と、ゆうなの『ゆ』で、『ラー油』! ……って言ってたと」


「ぎゃー!? なんで言っちゃうんですか、マネージャーさーん!?」



 その裏話を暴露したマネージャーさん、さっきから後ろで晩酌してるよ。



「じゃあ、次の質問……はぁ。『ゆらゆら★革命』は、どうして結成されることになったんでしょーか」


「なんでそんな、やる気ない感じなんですか!? 番組中ですよ、掘田さん!!」


「や、だってさぁ……この後のフォローすんの、わたしだよ? 石油アイドルが、なんで火消ししなきゃいけないのかって話よ」


「上手いですね、掘田さん」


「なんで他人事のテンションなのよ、らんむ!? 二人とも同罪だからね、もぉ!」



 キレ芸の人みたいになってきたな、掘田でる。


 この人のファンはどう思ってるんだろ……こういう苦労人なところも魅力なのかな?



「んじゃ、ゆうなちゃんから、言っちゃってくださーい。はい、どーぞ」


「え、これ自分で言うんですか!? ――はい。えっと。私が『アリラジ』の中で、たーくさん……可愛くって格好良くって、世界で一番大好きな『弟』を話題にしまくったからですっ!!」



 ぶほっと、俺は思わず噴き出した。


 収録に立ち会っていたはずの鉢川はちかわさんも、後ろで「げほげほっ!」と、むせはじめた。


 まぁ何回聴いても、この発言のインパクト、やばいだろうしな……。



「『一緒に寝てる』『宇宙で一番愛してる』『結婚したい』――などなど。『弟』に関する失言連発で一躍有名になった、和泉ゆうなちゃんですが……」


「え、失言で有名になったんですか私!?」


「はーい、進行中なんで待ってくださーい……で。そんな失言アイドルのゆうなちゃんに対して、牙を剥いたのが――紫ノ宮しのみやらんむ。『アイドルという仕事を宇宙一愛している』『アイドルという仕事と結婚してる』など、持ち前のストイックさ全開に、意味不明な論理展開でゆうなちゃんと番組中でバチってきました」


「……意味不明ではないですが。アリスアイドルの声優になった以上、この仕事と添い遂げる覚悟を持ち、戦い続けることは必然――」


「はーい、進行中なんで静かにしてくださーい……と、こんな風にそれぞれ、『弟』と『アイドル』への偏愛を抱えた二人の声優ですが! この二人のやり取りが、なんとネットで反響を呼びまして。この水と油のような二人によるユニット――『ゆらゆら★革命』が結成となったわけです……はぁ」



「ちなみに収録の後、でるから『のみましょ』ってさそわれてー。終電までのんだー」


 変な裏話が後ろから聞こえてきた。


 まぁお酒でも呑んで、ストレス発散しなきゃやってらんないだろうしな。


 どんどん応援したくなるよ、掘田でる……。



          ◆



「――はい。あっという間に、お別れの時間ですー……ってわけで。大阪での初ライブを終えて、沖縄でのインストアライブを間近に控えた二人。意気込みを一言ずつ、お願いしまーす」



 番組もいよいよクライマックスというところで、掘田でるが二人に最後の振りをした。


 それに対して、まずは紫ノ宮らんむが応じる。



「では、私から……このたびは貴重な機会をいただき、ありがとうございます。意味不明な論理、という点に引っ掛かりはありますが。私はこれからも、アイドルという仕事に命を賭す覚悟です。ついてくる覚悟のある人だけ――ついてきてちょうだい。私は高みに向かって、必ず飛翔するから……楽しみにするといいわ」



 パチパチパチと、拍手の音が収録現場から聴こえてくる。


 そして次は――和泉ゆうな。



「はい! えっと……皆さん応援、ありがとうございますっ!! あと『弟』も――このラジオは絶対聴かないで! って言ってるので、ぜーったい聴いてないはずですけど……おかげでユニットデビューしたよー!! やっほー!」


 めっちゃ聴いてるけどね。



「……らんむ先輩には全然及ばない、ひよっこ声優な私ですけど。仕事に命を賭ける! ――みたいな、すっごい信念とはちょっと違いますけど。私は身近な人も、遠くにいるファンの人も、みんなが笑ってる顔が見たいです。そんな笑顔が、少しでも増えてくれたら嬉しいなって……そう願いながら、声優を続けてます。だからこのユニット活動も――全力で頑張ります! みんなで一緒に……笑いましょうー!!」



 ――修学旅行に行きながら、ライブにもきちんと参加しますっ!!



 声優としての思いも、最初で最後の修学旅行っていう大切な想い出も……どちらも大事にしたいから、頑張るって誓った結花ゆうか


 そんな覚悟に溢れてる、『アリラジ』での挨拶に……俺はなんだか、目頭が熱くなるのを感じた。



「それじゃあ、今後も『ゆらゆら★革命』の活躍に、ご期待くださいね! それでは今日はこの辺で!! お相手は……」


「紫ノ宮らんむと」


「和泉ゆうなと!」


「掘田でるでしたー。皆さん、まったねー!!」



―――――――――――――――――――――――――――――――



『今すぐリタイア! マジカルガールズ』のブルーレイが大好評発売中なのです。


 最終巻の初回生産版には、ミニドラマ『漆黒の雨、涙に宝石』を収録。


 わらわの持ってる魔術書の再現版が特典に付いて、驚愕の四桁――六・〇・三・〇。


 さぁ、わらわたちの最後の活躍――刮目して見よ、なのです!



 買わない方には、神が裁きの鉄槌を。


 嗚呼、神の子は――いつの日も、孤独。



          ◆



「――――うん、そーそー。え? いーよ、きいてみるねー」


 ふぅ……と、すべてを聞き終えた余韻に浸っている俺の後ろで。

 なんか鉢川さんが、誰かと電話をしてる声が聞こえる。


 そして、ふらふらと足もとがおぼつかない鉢川さんが――自分のスマホを差し出して。



「はい、ゆーいちくんっ! おでんわでーす!!」


「電話? っていうか、晩酌で酔いすぎじゃないですか!? あ、またアルコール度数が二桁のお酒!! 鉢川さんって、意外と私生活ポンコツですよね!?」


「うるちゃい……わたしは、ひとねむりしまーす……」



 スマホを無理やり俺に渡すと、ワンルームの端っこの方に寝っ転がる鉢川さん。自宅とはいえ、自由だなこの人……。


 まぁいいや――取りあえず、俺は電話に出た。



「はい、もしもし?」


『――決して私は、ゆうくんを許しません』



 それは……呪いの電話だった。


 さっきまで『アリラジ』で聞いていた声と、同じはずなのに――魂を凍らせるような、恐ろしい怒りを感じる。



「……まさかとは思いますが、結花さんでしょうか?」


『……まさかとは思いますが。久留実くるみさんのおうちに上がり込んで、禁止されてるはずの「アリラジ」を隠れて聴いていたのは、遊くんさんでしょうか?』


「な、なぜそれを……というか、どうしてここにいるって分かったの……!?」


『酔った久留実さんから、お電話をいただきました』


「なんで!? 言っていいことと言っちゃいけないことの区別がつかないタイプの酔っ払いだな!! これじゃあもう、同じ手が使えないじゃないか!」


『……それが遊くんさんの、最後の言葉ということで、よろしいでしょうか?』



 一瞬――眼鏡を掛けた結花の、冷たい表情が頭をよぎった。


 だけど口調は家のもの。


 学校結花でも家結花でもない、新たな『怒り結花』の登場に……背筋が凍る。



「だ、だけどね結花? 冷静に考えて? 俺はゆうなちゃんの一番のファン――『恋する死神』だよ? そんな俺に、『ゆらゆら★革命』の番宣ありの神回を聴かせないとか……よくないと思うんだよ!」


『……今度こそ、遊くんさんの最後の言葉、ということでよろしいでしょうか?』


「怖い怖い! ごめんなさい、ごめんなさい!! 言い訳して申し訳なかったです!」



 さすがに気迫負けした俺が、電話口で謝り倒していると。


 結花は、深いため息を漏らしてから――大声で言ったのだった。




『遊くんの……スーパーばーか!』

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