第19話 【急展開】和泉ゆうなの『弟』VS紫ノ宮らんむ 結果…… 1/2
目には目を、歯には歯を。
爆弾には、爆弾を……というわけで。
…………とんでもない奴、呼んだな。本当に。
長めの黒髪を、首の後ろで一本に結ったヘアスタイル。
カラーコンタクトの入っている、宝石のように青い瞳。
白いワイシャツの上に黒い礼装を纏い、黒のネクタイをタイピンで留めている、執事のような佇まい。
一見すると――すらっとした、長身のイケメンだけど。
実際のところ、この子……弟じゃなくって、妹なんだぜ?
イケメン男装コスプレイヤーにして、地元では執事喫茶でナンバーワン人気の、男装の麗人。それが中三になる結花の実妹――綿苗勇海だ。
毎度のことながら、男装のときにどうやって、あの豊満な胸を隠してるのか分かんない。
さすが、有名コスプレイヤーの技術は凄いな……。
「綺麗な顔立ちをされたお姉さまですね、思わず見惚れてしまいました。こんな美人にお会いできるなんて、光栄ですよ。僕の姉は、このとおり可愛い系ですから」
「うっさい、余計なこと言わないの」
「あははっ。照れてるのかな? そんな風に、照れ隠しに怒っちゃうところもキュートだよ。僕の可愛い可愛い、お姉さま?」
お姉さま……勇海なりに、『結花』って本名を呼ばないように気を遣ってるのかな。
まぁ、それ以外の言動での気遣いが皆無というか、無自覚に結花を『年下扱い』してるもんだから――完全に結花、イライラしてきてるけど。
「えっと、あなたは……?」
「何を言ってるんです、
歯の浮くようなセリフを延々繰り返す勇海。
…………えっと。
結花、これが「見てのお楽しみ」なテンションで考えてた『作戦』なの?
っていうか、ひょっとしてわざわざこのために、勇海を地元から呼び出したの?
思いきったことをしたな、結花……。
この口からイケメンゼリフを吐くのが癖になってる『弟』役、とてもじゃないけどコントロールできる気がしないけど。
「と、いうわけで! 久留実さんにはこの間、ご紹介しました、したんですけどっ!! えっと、らんむ先輩……この子がよく、私がラジオで話してる『弟』の、勇海です!」
「うちの姉が、いつもご迷惑をお掛けしています。今後とも、よろしくお願いしますね」
勇海は爽やかな笑みを浮かべて、挨拶すると――結花の隣の席についた。
まぁ……結花がラジオとかで語ってる『弟』って、結花のバイアスが掛かりすぎて、アニメの大人気イケメンキャラみたいな虚像に仕上がってるから。
いっそのこと、俺が出ていくより勇海の方が、説得力はあるのかもな。
『実のきょうだい』だから顔つきも似てるし、適当な友達を召喚するよりは、理に適っているといえば適ってる。
「――ああ、勇海くん。この間ぶり……だね? らんむ、この子が少し前にわたしも会わせてもらった――結花の『弟』さんだよ」
結花たちの『作戦』に乗っかって、援護射撃をしてくれる。
そんな中で。
紫ノ宮らんむは、動じることもなく――落ち着いた様子で、頭を下げた。
「初めまして、声優の紫ノ宮らんむです。勇海さん、今日は私の無理な要望に付き合っていただき、ありがとうございます」
「いえいえ。こんな素敵なお姉さまのお願いですもの。断れる男なんて、いるわけないでしょう?」
そんな紫ノ宮らんむに対して、聞いているこっちが恥ずかしくなるようなセリフを吐く勇海。
隣に座ってる結花が、めっちゃ顔をしかめてる……絶対に後で怒られるんだろうな、勇海。部屋で涙目になってる勇海の姿が、目に浮かぶわ。
「……そのように言われると、なおさら申し訳ない気持ちになりますね。そういった心持ちでしたら、お断りいただいてかまわなかったのに」
紫ノ宮らんむが、相変わらずの淡々とした口調で言った。
そんな彼女に対して、勇海は余裕ぶった微笑を向けながら、いつもの調子で返答する。
「どうしてです? 先ほどもお伝えしたように……こんな素敵な女性のお願いを受けて、駆けつけない男なんて、いるわけがないですよ」
「だけど、貴方――女性でしょう?」
――――さらっと告げられた、爆弾発言に。
さすがの勇海も一瞬、言葉を詰まらせた。
結花に至っては、口元に手を当てて、目に見えて動揺しちゃってる。
「……あからさますぎるわ。甘いわね、ゆうな」
そんな、とんでもない空気の中で。
紫ノ宮らんむは――なんでもないことのように、告げる。
「私だったら、だけど。たとえ動揺する出来事があったとしても――『演技』の最中は、それを決して崩したりしないわ。観衆を楽しませるためには、この業界で高みに辿り着くためには……どんなイレギュラーにも動じない、覚悟が必要だと思っているから」
俺の位置からじゃ、背中しか見えないけれど。
紫ノ宮らんむの気迫に……ぞくっと背筋が冷たくなる。
――マサ。逆にお前、いなくてよかったかもしれないぜ?
だって、『六番目のアリス』らんむちゃんの声優・紫ノ宮らんむは――冷静でストイックで観察力が凄くて。
……らんむちゃん以上に、らんむちゃんなんだもの。
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