第59話 迷宮の地形調査
基礎戦闘力の試験で、ゴーレムを部屋の壁もろとも木っ端微塵に破壊したというオズは、当然のように冒険者の第二種免許を取得した。
騒然としたギルドの中、彼女は平然とした様子で冒険者カードを受付嬢から受け取る。
オズは満足気な笑みを浮かべながら、俺たちにカードを見せた。
カードの左上には「D」と記されている。
「いきなりDランクか……」
「えへへー、どう? 偉い? 偉いでしょー?」
カードを見る俺の傍で、オズは褒めて欲しそうにぴょんぴょんと跳びはねる。
褒めるとすぐ調子に乗るため、俺は絶対に褒めないが――。
「オズさん、凄いです……」
「でっしょー? もっと褒めていいよー!」
「いやマジですげぇよ。これってギルドが特例を認めたってことだろ?」
「二段階も飛ばしたってことは、特例中の特例ってことよね」
ミゼ、グラン、エリシアが口々にオズを褒める。
おかげでオズの調子は有頂天となった。
「いやぁ、なんか気分いいなー。外の人たちって優しいんだね! ボク、機関にいた頃は全然褒められなかったから、ちょっと嬉しいかも!」
「機関?」
「おっと」
おっと、じゃねぇよ。
首を傾げるエリシアに、オズは慌てて口を押さえる。
殺気を込めてオズを睨んだ。
気を抜きすぎた自覚はあるらしい。オズは冷や汗を垂らしながら、明後日の方向に視線をやる。
こういうことがあるから、機関でもオズが褒められることは滅多になかったのだ。オズを賞賛する時は、オズが傍にいない時である。
「でも、オズさんがDランクを取得してくれたおかげで、受注できる依頼も幅広くなりましたね」
掲示板の方へと向かいながら、ミゼが説明する。
「例えば、こういう少し危険な依頼も、Dランクが一人いれば他の参加者のランクは不問になるみたいです。……勿論、自己責任になりますが」
ミゼが指さす依頼を見る。
前回、俺たちが受けた依頼と同じ、魔物の討伐依頼だ。但しその依頼に記された討伐対象はオーガと呼ばれる、やや強い部類の魔物である。
「オーガ三体の討伐ね。ちょっと私たちには難易度が高いんじゃない?」
「そうですね……多分、このメンバーで行くとオズさんにばかり負担がかかってしまうと思います」
ミゼの言葉に、俺は内心で「どうだろうか」と思った。
グランはともかく、エリシアは恐らく一体くらいなら倒せるだろう。オズが協力すれば残る二体も簡単に倒せる。しかし、これでは……ミゼが危険だ。
Dランクの冒険者が一人いるとは言え、なるべく俺たちの平均的な実力に見合った難易度の依頼を受けるべきだろう。でないと危険な目に遭うかもしれない。
「ちなみにオズさんは、どんな依頼を受けたいですか?」
「うーん……どうせ受けるならしっかりお金を稼ぎたいなぁ。あと、楽しいの!」
ミゼの問いに、オズは明るい笑みを浮かべて答えた。
金が入って、尚且つ楽しい依頼。
手分けして掲示板を眺めていると――オズが声を上げる。
「あ、ねえねえ皆! この依頼はどう?」
オズの傍に集まった俺たちは、彼女が指さす依頼用紙を見た。
それを見て、ミゼが目を輝かせる。
「迷宮の探索依頼……いいですね! 是非、行きましょうッ!」
鼻息荒く、興奮した様子でミゼが言う。
そう言えば冒険者の免許をどちらにするか決める際、ミゼは迷宮に行くために第二種を取るべきだと言っていた。彼女にとって迷宮は憧れの地なのだろう。
「ふーん……迷宮の地形調査ね。いいんじゃない? これなら立ち回り次第で魔物との戦闘も避けられるし」
「だな。場所も近いし、必要な道具もギルドで用意してくれるんだろ? ってことは今からでも受けられそうだ」
エリシアとグランも賛同の意思を見せる。
「トゥエイトは?」
オズの問いに、俺は首を縦に振った。
「問題ない」
「よーし! じゃあボク、カウンターで依頼受けてくるねー!」
オズが小走りでカウンターに向かい、受付嬢に依頼用紙を渡す。
暫く待っていると、また小走りでオズが戻ってきた。
「お待たせー! 今、調査に必要な道具を準備してくれてるから、十分ほど待って欲しいだって!」
「十分か。……なあミゼ、今のうちにやっといた方がいいことはあるか?」
「そうですね……迷宮の地図を購入した方がいいかもしれません。多分、ギルドで売っていると思います」
「あ、それなら私、昨日見たわよ。確かあっちの売店にあった筈」
グラン、ミゼ、エリシアの三人が売店の方へ向かって歩く。
俺は彼らの後を追いながら、オズに声をかけた。
「いい依頼を選んだな」
「ふふーん、これでさっきのミスは帳消しね。……迷宮なら内部の構造も入り組んでるし、トゥエイトも動きやすいでしょ?」
「ああ。それにあの迷宮は俺たちにとっても馴染み深い。地の利はこちらにある筈だ」
「大戦中、何度か魔物の駆除に駆り出されたもんね。……最終層のボス、結構強かったなぁ」
口ではそう言いつつも、オズの顔はどこか楽しげだった。
どちらかと言えば好戦的な性格をしている彼女は、機関の兵士だった頃も積極的に激しい戦場へと送り込まれていた。
戦闘経験が豊富な味方がいるのは、やはり頼もしい。
少しだけ肩の力を抜いて、俺はミゼたちがいる売店の方へと向かった。
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