episode283 機構天使vsフェルメット

「……来たの」


 機構天使が来たことを感じ取ったフェルメットは鎌を手に取って立ち上がった。


「……生命反応を確認。抹殺します」

「できるかの?」


 フェルメットは鎌を構えて、掛かって来いと言わんばかりに挑発する。


「…………」

「――斬」


 先に動いたのは機構天使の方だった。

 機構天使は両腕に魔力の刃を形成して、フェルメットに向けて超速の斬撃を放つ。


「妾もやるとするかの」


 フェルメットは鎌を回しながら振り回して攻撃を受け流して、隙を見て反撃する。


「その程度かの?」

「――最大出力にて加速」


 ここで今の速度では対応できないと判断した機構天使は、速度に特化した態勢に切り換えた。


「――神速」


 一切の無駄を排除して、手数だけを重視して放たれた斬撃は次の斬撃へと繋がっていき、流れるように斬撃を放ち続ける。


「速くはなったが、それだけでしかないの」


 確かに速くなりはしたが、フェルメットにとってはその程度のことでしかない。

 フェルメットもそれに合わせて速度を上げて対応していく。


「――そこじゃ」


 ここでフェルメットは鎌を引いて魔力を込めると、一気に振り抜いてカウンターの一撃を見舞った。


「――防御」


 機構天使はそれを腕で受けて防ぐが、勢いを殺し切れずに弾き飛ばされてしまう。


「次は妾から行かせてもらおう」


 フェルメットはその隙を逃す気は無いと言わんばかりに、空間魔法を使って機構天使の後方に転移すると、そのまま鎌を一文字に振り抜いた。


「――対応」

「できるかの?」


 そして、そのまま鎌を振り回して、今度はフェルメットが攻める側に回った。


「ほれ、どうじゃ?」

「…………」


 フェルメットの攻撃は大振りではあるが、その速度は非常に速く、流れるように放たれる斬撃に隙は無い。

 加えて、その威力も高いので、下手に受けることもできなかった。


「手も足も出ぬようじゃな!」


 ここでフェルメットは一瞬の隙を突いて、魔力を込めた袈裟斬りを放つ。


「――回避」


 だが、それは空間魔法で転移することで回避されてしまった。


「――殲光」


 機構天使は接近戦は不利だと判断したのか、そのまま空間転移も交えて光魔法で攻撃する。


「遠距離なら勝てると思ったかの?」


 フェルメットは速度を重視した雷属性と闇属性の複合属性の黒い雷を放って、転移直後の機構天使に攻撃を仕掛ける。


「――!」


 速度を重視した魔法なので、高速で転移する機構天使にも難なく当てることができていた。


「――対象を最大レベルの脅威と判断。リミッター解除。一気に仕留めます」


 機構天使は通常の出力では倒せないと判断したのか、リミッターを解除して限界以上に魔力を解放する。


「ようやく本気かの? まあリミッター解除はかなり負担が掛かるようじゃからの。最終手段なのも仕方が無いといったところか」


 リミッター解除は強力ではあるが、かなり負担が掛かるので、余程の相手でない限りは使って来ない。

 なので、最終手段としてここまで温存していたのも、当然のことと言える。


「――神速」


 魔力を解放した機構天使は今度は行けると思ったのか、素早く接近して接近戦を仕掛けた。


「良かろう。相手になるぞえ」


 フェルメットは歓迎すると言わんばかりにそれを鎌を使って迎撃する。


「――虚風」

「ふっ……」


 そして、そのまま互いに至近距離で攻撃をぶつけ合う接近戦となった。

 機構天使の魔力の刃とフェルメットの鎌がぶつかり合って、その度に衝撃波が発生する。


「――そこじゃ」


 ここでフェルメットは機構天使が放った縦振りの一撃を鎌を半回転させて受け流すと、そのままもう半回転させてコアを狙って攻撃した。


「――反攻」


 機構天使はそれを後方に右手を引きながら身を反らしてギリギリで躱すと、そのまま引いた右手に魔力を込めて、フェルメットの心臓を狙って突きを放つ。


「はっ……」


 フェルメットはそれに蹴りをぶつけて攻撃の軌道を変えると、空いている左手に魔力を込めて、コアを狙った一撃を放った。


「防御――」

「甘いの」

「――!」


 機構天使はそれを魔力障壁で防ぐが、フェルメットはそのまま左手から魔法を放った。

 既に爪での一撃で罅が入っていた魔力障壁はその魔法によって砕けて、黒い炎が機構天使を包み込む。


「爆ぜよ」


 そして、その黒い炎が爆発を起こして、機構天使を吹き飛ばした。


「――斬」


 だが、機構天使もただでやられはしない。

 吹き飛ばされながら魔力の斬撃を飛ばして反撃する。


「効くわけがなかろう」


 しかし、そんな攻撃が当たるはずもなく、あっさりと躱されてしまっていた。


「まだくぞえ?」


 フェルメットは魔力を纏って、黒いオーラを放ちながら接近すると、そのまま鎌を振り下ろした。


「――対応」

「遅いの」


 機構天使はそれを腕で受けて防ぐが、後手に回っている時点で遅い。

 フェルメットが振り回す鎌を防いでいくが、完全に押されてしまっている。


「――離脱」


 機構天使はリミッターを解除してなお接近戦は不利だと悟ったのか、光魔法を使って攻撃しながら空間魔法で転移して距離を取った。


「――殲光」


 そして、そのまま大量の魔法陣を展開して、光魔法による攻撃を放った。


「数が多いの」


 威力はそこまで高くはないが、問題はその数だった。

 放たれた魔法の数は百や二百どころの話ではなく、視界を眩いばかりに白く埋め尽くしている。


「じゃが、その威力では話にならんな」


 ここでフェルメットは闇魔法を使って黒い球体を形成すると、それを前に突き出した。


「闇に飲まれよ」


 すると、機構天使の放った魔法弾がその球体に吸い込まれた。

 直接触れた魔法弾はもちろんのこと、近くを通過しようとした魔法弾も引き寄せられて吸い込まれていく。


「魔力の肥大化を検知」


 さらに、その球体は魔力を吸い込むごとに大きくなって、魔力が強くなっていた。


 フェルメットが使っている魔法は、周囲の魔力を吸収して、それをそのまま自身の魔力に変換するというものだった。

 もちろん、魔力が強すぎる場合は吸収し切れないが、今機構天使が使っている魔法は量を重視した威力の低い魔法なので、問題無く吸収することができる。


「その程度の魔力の魔法じゃと、数が多くとも無意味じゃな」

「――転移」


 このまま攻撃し続けても意味が無いことを理解したのか、機構天使は空間転移して距離を詰める。


「そううまく行くと思ったかの?」

「――!?」


 だが、ここで想定外の事態が発生した。

 機構天使は黒い魔力の球体の前に転移して、球体を破壊しようとしていたのだが、転移する座標がズレてフェルメットの横に転移してしまっていた。


 もちろん、これはフェルメットが仕掛けたものだ。

 彼女はその強力な魔力で空間の魔力を無理矢理引き寄せることで、転移先を強引に変更していた。


「逃がさぬぞえ」


 さらに、断絶境界付きの結界を張って、機構天使の逃げ道を断つ。


「一気に終わらせるかの」


 そして、増大した黒い球体の魔力を全て鎌に込めて、込められるだけの魔力を込めた全力の一撃を放った。


「防御――!」


 機構天使は魔力障壁を張った上で腕で受けて防ぐが、それでも完全に止めることはできない。

 魔力障壁はあっさりと砕けて、鎌を振り抜いた先に魔力の爆発が連続して発生する。


「消し飛ぶがい」


 さらに、斬撃を当てた際に仕掛けた術式が起動して、機構天使を中心にして大爆発が起こった。

 火属性と闇属性の魔力による黒い爆炎が広がって、砕けた地面や岩が舞い上がる。


「ふむ、耐えたか」


 大きなクレーターができるほどの攻撃だったが、機構天使は持ち前の耐久力で耐え切っていた。


「損傷大。戦闘への大きな影響があると思われます」


 だが、直接攻撃を受けた両腕が破壊されてしまっていた。

 加えて、コアを守る装甲もボロボロになってしまっている。


「流石の耐久力といったところじゃが、もう勝負は決したようなものじゃな」


 ただでさえフェルメットが優位だったのに、両腕が破壊されては勝負は決まったようなものだった。


「――対象を抹殺します」


 しかし、機構天使の意思は変わらない。

 すぐに魔力で両腕を形成すると、そのままフェルメットに接近して攻撃を仕掛けた。


「これ以上はやるだけ無駄じゃが、まあ良かろう」


 フェルメットは鎌を構えて、それを迎え撃つ。


「はっ!」

「――!」


 そのまま鎌と魔力の刃がぶつかり合う接近戦になるが、魔力で形成した腕ではフェルメットの攻撃を防ぐことはできない。

 鎌での攻撃を魔力で形成した腕で受けようとするが、腕を消されて攻撃を受けてしまう。


「話にならんの」


 両腕を破壊されただけでなく、全体的に損傷があったので、動きが明らかに鈍っていた。

 なので、フェルメットにとって今の機構天使は最早敵ではなかった。


「まあ仕方が無いかの」


 フェルメットはもう楽しめるのもここまでかと、少し落胆した様子を見せるが、決着が早まっただけだと気を取り直す。


「長く生きていると何かと暇を持て余すのじゃが、また一つ楽しみが減りそうじゃな」


 遠慮無く全力をぶつけることができる相手との戦い。

 それも楽しみの一つではあったが、これでそれも最後になりそうだった。


「さて、終わりにしようかの」


 フェルメットは鎌に魔力を込めて上に投げると、そのまま機構天使に接近して、爪を使った斬撃で接近戦を挑む。


「――対抗」

「遅いの」


 その戦闘能力の差は歴然だった。動きが鈍っている機構天使はフェルメットの速度に付いて行けずに、一方的な展開が続く。


「封ぜよ」


 そして、隙を突いて機構天使の首の部分を掴むと、そこから闇属性の魔力によって形成された鞭のような物が巻き付いた。


「――転移、不可」


 機構天使は空間魔法を使って脱出しようとするが、当然のように空間魔法を封じる術式が仕込まれていたので、転移することができなかった。


「これで終わりじゃ」


 ここでフェルメットは落下して来た鎌を掴むと、それをそのまま振り下ろして機構天使のコアを貫く。


「…………」


 すると、機構天使が纏っていた魔力が霧散して、その活動が完全に停止した。


「……終わったの」


 機構天使の活動が停止したことを確認したフェルメットは、少し寂しそうにしながら刺さった鎌を引き抜く。


「……まあこれもいつか訪れることじゃったからな。気にすることでも無いかの」


 何事にもいつか終わりは訪れる。

 フェルメットはそんな当然の条理を噛み締めながら、鎌を片付ける。


「さて、合流するとするかの」


 そして、無事に機構天使の討伐を終えたフェルメットは、機構天使の残骸を回収してから他のメンバーに合流しに向かったのだった。

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