episode161 元奴隷達の刻印術式の調整

 それから数日が経過して、俺達は目的地である岩山にまで辿り着いた。


「着いたわよ」


 エリサが馬車を停めた場所の先には洞穴があった。

 どうやら、ここで奴隷達の面倒を見ることにしたようだ。


「それにしても、思っていたよりも早かったわね。ここに着いてから待つことになると思っていたけど、その前に合流するとは思っていなかったわ」

「まあそれまでに合流できるように急いだからな」


 俺、シオン、アーミラの三人は必要な物を作り終えたところで別行動を取っていたので、合流したのは数時間前だ。

 奴隷達を護送するだけであればエリサだけでも十分だからな。その間、俺達は別行動をしてリグノートで暗躍していた。


「それで、何故ここで面倒を見ることにしたんだ?」

「ここには少量だけど湧水している場所があるのと、特に資源となる物も無くてほとんど人が来ることが無いからよ」

「なるほどな」


 確かに、それなら囲うのには最適な場所なので、中々良さそうだな。


「それで、この後はどうするつもりなんだ?」

「彼らには戦闘についてのことを教えるわ」

「そうか。結局、戦闘についてのことを教えることにしたんだな」

「ええ。彼らの要望でそうすることにしたわ」

「彼らの要望で? 意外だな。元いたところに帰してくれとでも言うと思ったが」


 前の生活に戻りたいと思って元いた場所に帰してくれと言うと思っていたので、戦闘について学びたいと言うとは意外だ。


「孤児だから、別に戻る場所も無いのよ」

「こいつらは全員孤児なのか?」

「ええ、そうよ。確認してみたけど、全員攫われた孤児みたいよ。まあその方が何かと都合が良いし、それも当然と言えば当然だけど」

「言われてみればそうだな」


 孤児であれば探されることは無いし、比較的従順で扱いやすいだろうからな。実験体として使うのには何かと都合が良い。


「だが、大丈夫なのか? 刻印術式は体に負担が掛かるのだろう?」


 刻印術式は体に負担が掛かるらしいからな。あまり使わない方が良いように思える。


「刻印術式なら負担が軽くなるように調整しておいたわ」

「そうなのか?」

「ええ、移動中に彼らの刻印術式を見て調整しておいたわ。だから、この後は確認のために少し訓練をするわよ」


 どうやら、ここに来るまでに術式の調整は済ませていたらしく、この後はその確認を行うつもりのようだ。


「分かった」

「シオン、アーミラ、リメットはテストをする数人以外の奴隷と一緒に洞穴に行って、ここで生活するための準備をしておいてくれるかしら?」

「分かったよ」

「はーい」

「分かった」


 そして、三人は奴隷達を引き連れて洞穴の中に入って行った。


「それじゃあエリュとあなた達はこちらに来てくれるかしら?」

「「分かった」」

「「分かりました」」


 他のメンバーが洞穴に向かったところで、俺達は少し離れたところにある開けた場所へと向かう。

 今回連れて来たのは十五から十七歳の三人の少女で、その内一人は人間、二人は獣人ビーストだ。


 奴隷は二十人だが、全員年齢は十三から十八歳で、その内男は八人、女は十二人だ。

 その種族の内訳は人間六人(男二人、女四人)、獣人ビースト十三人(男六人、女七人)、エルフ一人(女)となっている。


 エルフが少ないのは単に数が少ないからだろう。人間や獣人ビーストと比べると圧倒的に数が少ないからな。

 それに対して獣人ビーストが多いのは、獣人ビーストは身体能力が高く戦闘能力が高いからだと思われる。


「ここなら良さそうね。それじゃああなた達はエリュと戦ってもらうわ」

「俺が戦うのか?」

「ええ、そうよ。レジスタンスのときは私が教えたし、今度はあなたの番よ」

「それは構わないが、俺で良いのか? 教えるのであれば俺よりもエリサの方が良いと思うが?」


 教えるのであれば俺よりも魔力に関しての知識があるエリサの方が適任だからな。俺よりもエリサが相手をした方が良いように思える。


「今回は何か教えるわけじゃないから大丈夫よ」

「そうか」


 まあそれなら問題無いか。


「私は刻印術式がちゃんと機能しているかを確認するわ」

「分かった」


 どうやら、エリサは刻印術式が機能しているかどうかの確認に集中するので、俺に戦って欲しかったようだ。


「では、全員纏めて掛かって来い。相手になるぞ」

「はいっ!」

「分かった」

「よろしくお願いします」


 そして、俺が構えると、彼女達も俺の方を向いて構えた。


「武器は使わないのか?」


 三人とも臨戦態勢を取っているが、全員、武器を持っていなかった。


「はい。闘技場でも使ったことが無いので」

「そうか」


 どうやら、闘技場では武器を使ったことが無いので、武器を使わない戦い方しか知らないようだ。


「それでは行きます!」


 そして、話が済んだところで獣人ビーストの二人が素早く接近して来た。


(基本的な魔力強化はできるようだな)


 闘技場で戦っていたとだけあって、三人とも基本的な魔力強化は問題無くできていた。


「はっ!」

「せいっ!」


 間合いに入った二人がそれぞれ拳での突きと回し蹴りで仕掛けて来る。


「……甘いな」


 俺はそれらを前傾姿勢になることで躱して、そのまま手の平で二人の腹を突く。

 さらに、それと同時に手の平から風魔法を放って二人を吹き飛ばした。


「うぐっ……」

「うわっ!?」


 その一撃で二人は後ろで魔法の準備をしていた人間の少女のところにまで吹き飛ばされる。


「行きます!」


 その直後、魔法の準備が整った人間の少女は火魔法を使って炎の槍を形成した。

 そして、そのままそれを俺の方に向かって飛ばして来る。


(思っていたよりも威力が高そうだな)


 その槍にはかなり魔力が込められているようで、魔力強化をしていても受けるのは危なそうだった。

 なので、俺はそれを風魔法を使って前方に高く跳んで躱して、そのまま再び風魔法を使って急降下して人間の少女に攻撃を仕掛けた。


「くっ……」

「遅いな」


 少女はそれを見て後ろに跳んで距離を取ろうとするが、動き始めるのが遅すぎた。

 俺は着地すると同時に素早く胸倉を掴んでそれを阻止して、そのまま軽く膝蹴りを叩き込んだ。


「うぐっ!?」


 その一撃で人間の少女は吹き飛ばされて、後方にあった岩に激突する。


「……三人とも大丈夫か?」


 かなり手加減したので大丈夫だとは思うが、一応、三人の様子を確認してみる。


「はい、大丈夫です」

「あたしも大丈夫だ」

「私も大丈夫です」


 確認してみたが、三人とも怪我は無いようなので大丈夫そうだ。


「……とりあえず、着替えたらどうだ?」


 三人の服は魔法装備でも無い普通の服なので、先程の戦闘で破けてしまっていた。

 獣人ビーストの少女二人の服は攻撃を受けた腹の部分が破けて穴が開いていて、さらにスカートのウエストの部分も破けて脱げてしまっていた。

 なので、下はショーツが丸出しになっている。


 そして、人間の少女は胸倉を掴まれた状態で吹き飛ばされてしまったので、服の前方が大きく破けて胸が見えてしまっていた。


「っ!」


 人間の少女はそれに気付いて、すぐに腕で胸を隠す。


「エリサ、着替えを出してやってくれるか?」

「分かったわ」


 そして、すぐにエリサは空間魔法で三人分の着替えを取り出す。


「いえ、私達にそんなに使っていただくわけにはいきませんし、このままで大丈夫です」


 しかし、獣人ビーストの少女は遠慮してそれを断った。


「あなた達はもう奴隷じゃないから、そんなに卑屈にならなくても良いのよ」

「…………」


 エリサはそう言うが、彼女達はそれを素直に受け入れられていないようだった。


「まあ良いわ。とりあえず、ルピアだけでも着替えると良いわ」

「うわっ!?」


 エリサはそう言って人間の少女の残った服を破いて無理矢理脱がすと、そのまま新しい服を押し付けた。


「そう言えば、名前を聞いていなかったな。お前達、名前は?」


 エリサが名前を出したところで思ったが、まだ三人の名前を聞いていなかった。

 なので、ここでそれを聞いておくことにした。


「私はルピアです。よろしくお願いします」

「あたしはアルフだ」

「私はレビットです。お世話になります」


 どうやら、十五歳前後だと思われる人間の少女がルピア、十七歳前後だと思われる狼系の獣人ビーストの少女がアルフ、十五歳前後だと思われる兎系の獣人ビーストの少女がレビットのようだ。


「そうか。とりあえず、ルピアは服を着たらどうだ?」


 ルピアはエリサから受け取った服を手に持ったまま丁寧に礼をしながら名乗っていて、まだ着替えていなかったので上半身は裸のままだった。


「そうですね」

「と言うか、そもそも何故、上を着けていないんだ……」


 他の二人もそうだが、下は穿いているが上は着けていないようだった。


「奴隷だったから扱いはこんなものよ」


 それに答えたのはエリサだった。

 まあ確かに奴隷だと基本的にあまり扱いは良くないだろうからな。案外そんなものか。


「この後はアルフとレビットの二人と模擬戦をしてくれるかしら?」

「ルピアとは良いのか?」

「ええ。やっぱり、彼女は対人戦でなくても大丈夫そうだから、模擬戦をするのはその二人だけで良いわ」

「そうか」


 まあ見たところ、ルピアは魔法使いのようだからな。

 刻印術式の調整具合の確認をするのであれば、模擬戦をしなくとも適当に魔法を撃つだけで確認できるだろうし、それで問題無いか。


「エリュは反撃するのはほどほどにしておいてくれるかしら?」

「分かった」


 まあこれはあくまで刻印術式の調整具合の確認だからな。

 あまり反撃し過ぎると一方的な展開になるので、エリサの言う通りにあまり反撃しないようにすることにする。


「それで、お前達は着替えなくても良いのか?」


 話をしている間にルピアは着替え終わっていたが、アルフとレビットはまだ着替えていなかった。


「まあ本人がそれで良いのなら別に良いのじゃないかしら? 普通の服しか無いからどうせすぐに破けると思うし、着替えてもあまり意味は無いと思うわ」

「それもそうか」


 魔法での攻撃を受けたりすればすぐに破けるだろうし、破ける度に着替えていると度々着替えることになるだろうからな。本人がこのままで良いというのであれば、このまま模擬戦を始めることにする。


「では、どこからでも掛かって来い。相手になるぞ」

「分かった」

「それでは行きます!」


 そして、アルフとレビットの二人は一斉に攻撃を仕掛けて来た。


「はっ!」

「せいっ!」


 二人はその拳と蹴りで素早い連撃を仕掛けて来る。

 俺はそれを必要最低限の動きで躱したり、腕で弾いたりして凌いでいく。


(やはり、それなりに戦闘能力はあるようだな)


 戦闘についてのことは学んでいないはずだが、刻印術式による強化もあってそれなりに戦闘能力は高いようだった。


(と言うか、明らかに戦闘慣れしているな)


 改めて戦ってみて分かったが、二人は明らかに戦闘に慣れていた。

 推測にはなるが、二人は地下闘技場での戦闘歴が比較的長いと思われる。


「だが、甘いな」

「おわっ!?」


 アルフの回し蹴りをしゃがんで躱して、軸足に足払いを掛けて転倒させる。


「……お前もだ」


 さらに、レビットの拳での突きを右肩を引いて体を軽く捻ることで躱して、そのまま右腕全体を使って突きを放つ。


「ごふっ……!?」


 喉を突かれたレビットは吹き飛ばされて、跳ねながら地面を転がっていく。


「これはついでだ」

「っ!?」


 さらに、転倒しているアルフの足を掴んで、レビットに投げ付ける。


「っと……」


 だが、アルフは空中で体勢を立て直して着地したので、レビットにぶつかることは無かった。


「そこそこ戦えるようだが、対人戦には慣れていないようだな」


 地下闘技場では魔物としか戦ったことがないのか、対人戦には慣れていないようだった。


「エリサ、まだやるのか?」

「ええ、もう少しお願いするわ。アルフ、レビット、次はあれを使ってくれるかしら?」

「分かった」

「分かりました」


 二人はエリサにそう言われて集中すると、身体に刻まれた刻印術式が光り始めた。


「はああぁぁっ!」

「っええぇぇい!」


 すると、魔力が解放されて二人の体中に溢れんばかりの魔力が満ちた。


「エリサ、これは?」

「見ての通り、刻印術式を使って魔力をブーストした上で解放したのよ」

「大丈夫なのか?」


 どう見ても体に負担が掛かりそうだが、大丈夫なのだろうか。気になるのでエリサにそのことを聞いてみる。


「長時間使わなければ大丈夫よ」

「……そうか」


 つまり、長時間使うと危ないということか。


「そんなに気にしなくても大丈夫よ。長時間使ったとしても大きく疲労するのと、筋肉痛になるだけだから」

「まあそれなら大丈夫か」


 どうやら、致命的なデメリットは無いようなので、ひとまず問題は無さそうだ。


「そろそろ良いですか?」

「ああ、良いぞ。どこからでも掛かって来い」

「それでは行きます!」


 そして、俺が許可したところで、アルフとレビットは二人同時に仕掛けて来た。


「っ!?」


(速い!)


 だが、その速度は想定を遥かに超えるものだった。

 俺は何とかそれに反応して、上に跳んでそれを躱す。


(威力もかなりあるな)


 アルフの一撃は俺の後方にあった岩に直撃して、攻撃が直撃した岩はバラバラに砕け散っていた。


「はっ!」


 だが、これで終わりではなかった。すぐにレビットがこちらに跳んで来て攻撃を仕掛けて来る。


「っ……」


 それを魔力を集約された両腕で受けて防ぐが、そのまま吹き飛ばされて地面に叩き付けられてしまった。


「行くぞ!」

「行きます!」


 もちろん、二人はその隙を逃したりはしなかった。

 すかさずこちらに接近して、追撃を仕掛けて来る。


「っと……危ないな」


 俺はタイミングを合わせて起き上がりながら、後方に跳んでそれを躱す。


「今度はこちらから行くぞ?」


 このまま向こうが仕掛けて来るのを待っても良いのだが、今度はこちらから仕掛けてみることにした。


「手加減はしてやる。対応してみせろ」


 俺は魔法陣を十個ほど展開して、火魔法による火球を二人に向けて飛ばして、それと同時に風魔法を使って素早く二人に接近する。


「くっ……魔法か。だが、その程度……」

「効きません!」


 だが、二人は火球を避けずにそのまま受けた。


(案の定、効かなかったか)


 思った通りその攻撃は効いていなかったが、目的は牽制なので特に問題は無い。そのまま接近して二人に接近戦を仕掛ける。


「はっ……」

「はあぁっ!」

「せいっ!」


 そして、二対一の接近戦となって拳と蹴りの応酬になった。


「そこだ!」

「ぐっ……。はっ!」

「っ……」


 普通に押し切れると思ったのだが、二対一で不利なのに加えて、思っていたよりも二人の動きが速いので、一方的な展開にはならなかった。

 まあ本気を出せば普通に押し切れそうだが、一方的になってしまうと模擬戦の意味が無いので、それは止めておくことにする。


「せいっ!」

「っ!」


 ここで俺はレビットの蹴りを避けられずに、攻撃を受けて吹き飛ばされてしまった。


「今度はこっちから行くぞ!」

「私も行きます!」


 すかさず二人はこちらに接近して仕掛けて来る。


「そう簡単に行くと思うなよ?」


 だが、こちらもそのまま受けてやるつもりは無い。

 俺は吹き飛ばされながら空中で体勢を立て直して、そのまま火魔法による炎壁を展開する。


「そんな物……はっ!」

「せいっ!」


 しかし、二人は止まらずにその勢いのまま炎壁を蹴破った。


「っ! いない!?」


 だが、炎壁を破った先に俺の姿は無かった。

 と言うのも、俺は炎壁を展開すると同時に上に跳んでいたからだ。


「っ!?」

「うわっ!?」


 さらに、炎壁を突破した直後に強烈な風が吹き上がって、二人は大きくバランスを崩した。

 もちろん、これは俺が仕掛けておいた物だ。

 そう、俺は炎壁を展開すると同時に、その場に踏むと起動する風魔法の術式を仕掛けておいたのだ。


「……燃えろ」


 そして、バランスを崩した二人に向けて、上から火魔法を使って巨大な火球を放った。


「うぐわっ!」

「うわっ!」


 火球は着弾点で爆発して、爆炎が二人を包み込んだ。


「……大丈夫か?」


 地上に下りたところで、二人の様子を確認しに近付く。


「このぐらいなら大丈夫だ」

「私も大丈夫です」


 煙が晴れたところで二人の状態を確認してみるが、二人とも怪我は無く無事なようだった。

 まあ怪我をしないように威力は抑えたからな。それも当然と言えば当然だ。


「そのようだな。……とりあえず、二人とも着替えたらどうだ?」


 二人とも怪我が無いのは良いのだが、服が全て燃えて全裸になっていた。

 なので、まずは二人には着替えてもらうことにする。


「……いや、別にこのままでも良いぞ? どうせまた服は無くなりそうだしな」

「服が勿体無いですし、このまま続けてくれと言うのであれば従います」

「……では、二人とも早く着替えろ。エリサ、着替えを出してくれ」

「分かったわ。二人ともこれに着替えなさい」


 エリサはすぐに着替えを取り出して二人に渡す。


「良いのか?」

「二人とも奴隷気質が抜けていないわね。今回はこれで終わりだから、二人とも着替えると良いわ」

「分かった」

「分かりました」


 そう聞いた二人は素直にエリサから着替えを受け取って着替える。


「それじゃあ洞穴に戻りましょうか」

「ルピアは良いのか?」


 アルフとレビットの刻印術式の調整具合は確認し終わったが、ルピアはまだ終わっていない。

 なので、彼女の刻印術式の調整具合を確認しておかなくても良いのかどうかを聞いてみる。


「彼女は後で見ることにしたから、今は良いわ」

「そうか。では、行くか」


 そして、アルフとレビットとの模擬戦が終わったところで、洞穴に戻った。






 洞穴に戻ると、そこでは洞穴内で生活する準備が進められていた。


「準備は順調なようね」

「そのようだな」


 見たところ、準備は順調に進んでいるようで、この調子ならもうしばらくすれば準備は終わりそうだった。


「あれが水源か?」


 洞穴の奥の方を見てみると、割れ目からちょろちょろと水が出て来ている場所があった。

 その下には大きな容器が置かれていて、そこに流れ出た水が溜められている。


「ええ、そうよ。見ての通りそんなに量は多くないから、あまり無駄遣いしないようにしてくれるかしら?」

「ああ」


 全員で二十五人とそれなりに人数が多いからな。水の量は決して多いとは言えないので、無駄遣いはしないように意識しておくことにする。


「お前達、戻ったか」


 ここで俺達が戻って来たことに気が付いたリメットがこちらに駆け寄って来た。


「そちらは問題無かったかしら?」

「ああ、順調だ。もうしばらくすれば準備は終わると思うぞ。ただ……」

「何かしら?」

「風呂を作ってるシオンの方が少々時間が掛かってるな」


 どうやら、風呂を作っているのはシオン一人だけのようで、少々手こずっているようだった。


「それはエリュに用意してもらうつもりよ」

「俺に?」

「ええ。錬成魔法あなたが一番得意でしょうから、あなたに作ってもらうわ」

「分かった」


 エリサの言うように、この中では俺が一番錬成魔法が得意だからな。ここは俺が作ることにする。


「それで、どうすれば良いんだ?」

「適当な大きさの窪みを作ってくれれば良いわ。人数が多いから、それも考えた大きさにしてしてくれるかしら?」

「分かった。どこに作るんだ?」

「あの扉の先よ」


 エリサが示した方を見てみると、そこには扉が設置されていた。

 その扉は明らかに新しい物で、俺達が模擬戦をしている間に設置された扉のようだった。


「分かった。では、行って来る」


 そして、俺は風呂を作りにその部屋へと向かった。






 扉を開けると、そこには棚が置かれた小さな部屋があった。

 棚の上にはいくつか籠が置かれている。


「ここは脱衣所か」


 見たところ、この部屋は脱衣所のようだった。

 ここは目的の部屋では無いようなので、そのままさらにその先にあった扉の先に向かう。


「こんなところにいたのか」

「うん。扉を設置してたからね」


 目的の部屋に向かうと、そこにはシオンがいた。

 どうやら、先程の脱衣所を作ったのはシオンだったようだ。


「確かに、この部屋であれば風呂を作るのにはちょうど良さそうだな」


 部屋は幅と奥行きは十メートル、高さは五メートルほどの大きさで、大人数用の風呂を作るには十分な大きさだった。


「それで、エリュはどうするつもりなの?」

「地面を均してタイルを設置する。タイルは窪みを作った際に出た物を石材として使うぞ。シオンも協力してくれ」

「分かったよ」


 風呂なのでタイルを敷きたいところだが、この凸凹した地面だと設置できないからな。地面は錬成魔法を使った変形で均すことにする。


「シオンは地面を均してくれ。俺は窪みを作る」

「分かったよ」


 そして、その後はシオンと協力して風呂を作っていった。

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