episode151 リグノートへの立ち入り方法
無事にレグレットに入国した俺達は予定通りにリグノートの近くにある森に向かった。
「もう夜だな」
「だね」
もう夜になっている上に、生い茂る木々によって月光も遮られているので、森の中は真っ暗だ。
「それで、この森のどこで待つ予定なんだ?」
この場所にしたということは待つのに最適な場所があると思われるので、ひとまずその場所を聞いてみることにする。
「この先に小さな洞穴があるからそこで待つわ」
「分かった。では、案内は頼んだぞ」
思った通り待つのに良い場所があったようだ。
もちろん、俺達はその場所を知らないので、このまま案内してもらうことにする。
「ええ、こっちよ」
そして、そのままエリサに案内されて、洞穴のある場所へと向かった。
洞穴に入ったところで、エリサの空間魔法で繋いだ別次元の空間で待つことにした。
別次元の空間で待つのであればわざわざ洞穴に入る必要は無いように思えるが、分かる者であれば近付けば空間の存在は分かるので、できるだけ目立たない安全な場所に入口を作った方が良い。
なので、人が通ることの無いこの洞穴に入ってからこの空間に入った。
「さて、このまま待っても良いのだけど、今の内にこれから向かう街、リグノートについてのことを説明しておくわね」
「ああ、頼む」
二人の到着は明日になるので、今の内にリグノートについてのことを説明してもらうことにした。
「リグノートはレグレットの首都で、知っての通りルートライア家とエンドラース家とハイスヴェイン家の三家の争いのメインの舞台になっているわ」
「らしいな」
「リグノート自体はエンドラース家とハイスヴェイン家の二家がメインになって治めているわね」
「ルートライア家はどうなんだ?」
「ルートライア家はリグノートの近くにあるリグサイドを治めているわ」
「リグサイド?」
ここで聞いたことの無い街の名前が出て来る。
まあそもそもの話をするとリグノート以外の街のことを知らないので、聞いたことが無いのは当然なのだがな。
「リグサイドはリグノートの東にある小さめの街よ。リグノートから馬車で三~四時間程度で着くぐらいに近い場所にあるわ」
「本当に近いな」
距離にすると五十キロメートルほどになると思われるので、街にしては他では見られないぐらいに近い位置にある。
「元々は奴隷なんかを働かせるための強制労働施設だけがある場所だったらしいけど、都合が良かったからそのまま産業の中心にしようと、そこを中心に街が形成されたらしいわ」
「なるほどな」
どうやら、この街はリグノートの近くに作られる形で後からできた街のようだ。
「話を続けるけど、リグサイドはルートライア家が治めていて、主に強制労働施設を管理しているわ」
まあ元々は強制労働施設だったらしいからな。それも当然と言えば当然だろう。
「と言うか、そもそも何故、強制労働施設をリグノートに作らなかったんだ?」
そもそもの話をすると、リグノートに強制労働施設を作らずに外部に作った理由がよく分からない。
リグノートに作れば生産した物をそのまま送ることができるし、そちらの方が都合が良いように思える。
「その理由はいくつかあるけど、まず一つは単純に作る場所が無かったことね。大きな空き地があまり無かったから、外に作るということになったらしいわ。ちなみに、この場所にしたのは湧水地があって監視の生活に都合が良かったかららしいわ」
どうやら、一つ目の理由は単に土地が無かったからのようだ。
「そして、もう一つの理由は反乱があった際にも危険が及ばないようにするためよ」
確かに、奴隷などを働かせるための強制労働施設となると反乱が起きる可能性もあるからな。上流階級の者が多く住んでいるリグノートの街にとってはそれは大きな問題だ。
「だから、戦力のあるルートライア家にリグサイドを任せたらしいわ」
「なるほどな」
反乱が起きた際に制圧できなければ困るからな。それを確実に制圧できる戦力がある家に任せるのは当然か。
「ちなみに、ルートライア家はその実績が認められて一気に伸し上がったらしいわよ」
「そうか」
まあ街一つをうまく治めたとなれば、それなりに評価されるだろうからな。それを足掛かりに伸し上がることも可能だろう。
「そんなルートライア家だけど、今ではリグノートの貴族の中でもトップクラスの戦力を保持しているわ」
「らしいな。問題はそんなトップクラスの戦力を保持しているルートライア家をどう潰すかだが……まあ今は置いておくか」
そのルートライア家をどう潰すかが問題だが、今すべきことはイヴリアの保護なので、一旦その話は置いておくことにする。
「ところで、街に入るときは普通に正面から入るようだが、出るときはどうするつもりなんだ? 普通に門からイヴリアを連れて出ることはできないと思うが?」
門は張られていると思われるので、彼女を連れて門から出ることは難しいとだろう。
なので、何か策を考える必要がある。
まあ門ぐらいであれば強行突破することもできるだろうが、あまり目立つようなことは避けたいので、それは最終手段だ。
「
「
東側の門がメインである正面の入り口なので、裏門と言うのであれば西門のことになるが、裏口というのは聞いたことが無い。
「ええ。裏口というのは北西の裏市街にある出入り口のことよ」
「裏市街?」
「裏市街は裏組織の者が集まっている市街地よ。裏口はその市街地の中にあるわ」
どうやら、言い間違えたりしたわけではなく、裏門と裏口は別物のようだ。
「裏口はどんな感じになっているんだ?」
「壁に穴が開いていて、簡易的な門が設置されているわ。正式な入り口じゃないから、通るのに身分証は必要無いわね」
思っていた通り、裏口は正式な入り口では無いようだ。
「裏口から入るという選択肢は無いのか?」
「裏口は見張られているし、さっきも言った通りに裏市街は裏組織の者が集まっているから、できれば避けたいわね」
「そうか。…………」
(危険だと言わないあたりは流石だな)
普通であれば危険であることを理由に避けると言うはずだが、エリサはそうとは言わなかった。
今回はアーミラもいるというのはあるが、やはり実力者なだけはあるな。
「……何か言いたいことがあるのかしら?」
「いや、何でも無い。気にするな。ところで、一つ気になっていたのだが、空間魔法で転移して出入りするという選択肢は無いのか?」
空間魔法で転移して壁を通り抜けてしまえば、門を通る必要も裏口を通る必要も無くなるからな。これが一番楽で安全な方法に思える。
「リグノートの街の壁には断絶境界が張られているから、それはできないわ」
「断絶境界?」
「空間魔法で通り抜けることができない特殊な魔力の壁のことよ」
「そんなものがあるのか」
空間魔法が使えれば楽だったのだが、残念ながら対策されているらしい。
まあ空間魔法を使っての侵入が可能なのであれば、最も楽で安全なその案を真っ先に出しているはずだからな。その時点でその方法は使えないと気付くべきだったか。
「まあ断絶境界を壊して空間魔法で出ることもできるけど、それはそれで騒ぎになるから止めておきたいわね」
「壊したら騒ぎになるって言うけど、バレないようにこっそりと壊せないの?」
ここでそれを聞いたシオンがそんな質問をする。
確かに、シオンの言う通りに人がいない隙を見計らって断絶境界を壊してしまえば、空間魔法で出ることも可能なはずだ。
「断絶境界には魔力が流れていて、壊されるとその部分には魔力が流れなくなるから壊されたら簡単に分かるわ。それに、断絶境界を壊せるほどの魔法に関しての知識がある者がいるとなると、厳戒態勢が敷かれる可能性が高いし、今後に支障が出るから止めておいた方が良いわね」
イヴリアを保護して終わりならそれでも問題無いが、その後はルートライア家を潰すために動かなければならないからな。
話を聞いた感じだと、この案は一番止めておいた方が良さそうだ。
「となると、やはり街に入る際は普通に門から入って、出る際は裏口から出るというのが良さそうだな」
結局のところ、門から入って裏口から出るという最初にエリサが出した案が一番良さそうだった。
「それにしても、随分と街のことに詳しいな」
もちろん、調べてはいるのだろうが、そうだとしても詳しすぎるぐらいだ。
「ほとんどはルミナから聞いたことよ。彼女は元々この街にいたというのもあるけど、伝手も多いから色々と詳しいわね」
「なるほどな」
確かに、ルミナであれば――今も使えるのかどうかは分からないが――エンドラース家の伝手とイヴリアからの情報があって、レグレットのことに関してはかなり詳しいはずだからな。彼女から聞いたというのであれば納得だ。
「とりあえず、街への出入りの方法は決まったが、街ではどう合流するつもりなんだ?」
街への出入りの方法は決まったので、次は街での合流方法についてを考えることにする。
「基本的には場所を聞いてこちらから直接その場所に向かうつもりよ。もちろん、彼女を探しているルートライア家の配下の者に気付かれないように細心の注意を払うわ。そして、合流した後は速やかに街を出るつもりよ。ただ、状況によっては多少動きを変えることもあると思うから、臨機応変に行くつもりでいてくれるかしら?」
「分かった」
「分かったよ」
「明日二人と合流したらすぐにリグノートに向かうから、それまではゆっくりすると良いわ。それじゃあ私はもう休むわね」
「ああ」
そして、話が終わったところで、エリサは寝室へと向かった。
「俺達ももう休むか」
「そうだね」
「では、シオンは寝室に行って寝巻に着替えて来い。二人とも着替えが終わったら呼んでくれ」
「分かったよ」
エリサに続いてシオンも寝室に向かう。
「とりあえず、俺も着替えるか」
そして、寝巻に着替えてシオンに呼ばれたところで寝室に向かって、そのまま眠りに就いた。
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