episode149 霧の領域の基地でのレーネリア
霧の領域の基地に案内されたレーネリアはそこにいたメンバーに歓迎されて、のんびりと過ごしていた。
「おはようございます」
「はい、おはようございます。朝食ならできていますよ」
レーネリアが起きて一階の居間に向かうと、そこにはフェリエが用意した朝食が並べられていた。
「そのようですね。数名見当たらない方がいますが、呼んで来ましょうか?」
そこにいるメンバーを確認すると、全員は揃っていなかった。
地下に籠っているヴァージェスやまだ部屋にいたフィルレーネはともかくとして、ネフィアも見当たらない。
「いえ、その内来ますので、その必要はありません。これもいつものことですので、お気になさらず」
「そうですか。それでは、お先にいただきますね」
「ええ、どうぞ」
そして、フェリエにそう言われたところで、レーネリアは席に着いて朝食に手を付けた。
「皆さんはいつもこんな感じなのですか?」
「そだよー」
レーネリアのその質問にはアーミラが答えた。
「そうなのですね。ところで、このお肉はワイバーンのお肉ですか?」
ここでレーネリアは食べている肉が何の肉なのかが気になったのか、手を止めてそんなことを尋ねた。
「そうですよ。お気に召していただけましたか?」
「ええ、とても。ワイバーンは狩って来たのですか?」
「そうですよ。狩ったのは私ではありませんが」
もちろん、これは外で狩って来た物だ。ここに住んでいるメンバーであればワイバーン程度なら簡単に倒すことができるので、わざわざ買う必要は無い。
「それがどうかしたのですか?」
「いえ、こんな高価な物をいただいてしまっても良いのかと思いまして」
普通に普段の食事といった感じで食卓に出されているが、ワイバーンの肉は高級品だ。
もちろん、レーネリアはそのことを知っているので、かなり遠慮気味にしている。
「気にしなくて構いませんよ。そのぐらいであればいつでも獲って来れますから」
「そういうことでは無いのですが……」
「別に気にしなくて良いのに。これだって高級品じゃん」
アーミラはそう言ってデザートとして食卓の中央に置かれている果実を一つ手に取ると、それをレーネリアに手渡した。
「これは……どこかで見たことがある気がするのですが……」
確かにどこかで見たことがあるので、どこで見たのかを思い出そうとするが、すぐに思い出すことはできなかった。
そして、思い出せないまま数秒が経過する。
「これは霧想の果実だよ。知ってるの?」
アーミラはレーネリアがこの果実のことに心当たりがあると思っていなかったのか、意外そうな様子を見せながらそう尋ねる。
「霧想の果実……思い出しました。霧の領域の固有種の木に生る果実で、ルミナさんがポーションの素材として使っているのを見たことがあります」
レーネリアはアーミラに果実の名前を言われてそのことを思い出した。
そう、彼女がこの果実を見たことがあったのはルミナがポーションの材料として使っているのを見たことがあったからだ。
霧想の果実は霧の領域の固有種の木に生る魔力を宿した果実で、高性能なポーションの材料になる果実だ。
もちろん、危険地帯である霧の領域の固有種な上に栽培も困難なので、非常に高価だ。
「食べてみたら? 甘いよ」
「……それでは遠慮無く」
そして、レーネリアはアーミラに勧められて果実を齧った。
「……っ!?」
すると、強い甘みと共に彼女に一気に魔力が流れ込んだ。
この果実に魔力が込められていることは知っていたが、魔力が一気に流れ込んで来るとは思っていなかったので、想定外の事態に驚き戸惑ってしまう。
「あ、言い忘れてたけど、一気に魔力が流れ込んで来るから気を付けてね」
「……そういうことは先に言っていただけませんか?」
その様子を見て思い出したかのように注意して来るが、食べてから言われても遅い。
「それに、人によっては危険なのでは?」
この果実を食べると、それなりの量の魔力が一気に流れ込むので、あまり魔力の扱いが得意でない者が食べると危険な可能性がある。
流石に許容できる魔力量をオーバーすることは無いだろうが、危険な可能性があることに変わりは無い。
「うん。魔力の扱いに慣れてない人が食べると流れ込んだ魔力を制御できずに暴走することもあるから危ないよ」
「……それを分かった上で食べさせたのですか?」
「……あれ? 怒ってる?」
「怒ると言うほどではありませんが、注意はしておいて欲しかったですね」
別にこの程度であれば問題無く制御はできるが、予め言っておいてくれれば心構えができた。
「でも、レーネリアなら余裕でしょ?」
「それはそうですが、そういう意味では……」
「……そのぐらいにしておけ。どうせ言っても変わらん」
ここでアデュークが視線を下に向けたままそこに口を出す。
「ちょっと! それってどういう意味!?」
「さあな。自分で考えてみたらどうだ?」
アーミラはそれを聞いてアデュークに突っ掛かるが、彼はそれを軽く受け流す。
「ただいま戻りました」
と、ここで魔物の世話を終えたネフィアが居間に戻って来た。
「朝食ならできていますよ」
「いつもありがとうございます。それではいただきますね」
そして、ネフィアも席に着いて、朝食を摂り始めた。
「あ、今日は栽培している霧想の果実が採れたのですね」
「そうですよ。味わって食べてくださいね」
「はい。最後にデザートとしていただきますね」
「……霧想の果実の木を栽培しているのですか?」
その会話を聞いたレーネリアはそのことが気になったのか、フェリエにその詳細を尋ねた。
「ええ。地下で栽培していますよ」
レーネリアには見せていなかったが、地下には自給用の小さな菜園があり、そこで霧想の果実の木も栽培している。
「栽培は困難だと聞きましたが?」
彼女も栽培についての詳しいことは知らないが、栽培は困難だとは聞いている。
「そうですね。ですが、ここでなら比較的簡単に栽培できます」
「そうなのですか?」
「ええ。ここであれば生育に必要な魔力は十分に確保できますので」
そもそも、霧想の果実の木は霧の領域の固有種だということもあるが、生育に必要な魔力量が多いので普通の場所ではうまく育たない。
だが、特殊魔力地帯であるここであれば問題無く育つので、比較的簡単に栽培することができる。
「そうなのですね。……ルミナさんへの手土産に何個か持って帰ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、お好きなだけどうぞ」
霧想の果実は本来であれば高級品なのだが、基地に住んでいるメンバーにとってはそれは割とどうでも良いことだったので、あっさりと承諾された。
「ところで、街への食材の買い出しは定期的に行っているのですか?」
「そだよー」
その質問にはアーミラが答えた。
「買い出しはエリサかアデュークかアタシが行ってるよ」
もちろん、買い出しに行っているメンバーは普通に街を出入りすることができるいつもの三人だ。
「ワイバスにはいつも買い出しのために?」
「ワイバスで買い出しをするのは基本的には何かのついでかな。食材の買い出しだけが目的のときはアールカイドのアストアに行くし。食材に関してはあっちの方が良い物が揃ってるしね」
食材に関しては農業が盛んなアールカイドの方が良質で値段も安いので、買い出しだけが目的の場合はアストアに向かっている。
距離的にはワイバスよりも遠いが、騎乗用の魔物がいるので、その点はさほど問題は無い。
「確かに、その方が合理的ですね」
「でしょー?」
「自慢気に言うことでは無いだろう」
ここでアデュークはぼそっとそう言うが、アーミラに睨まれたせいなのか、それ以上は何も言わなかった。
「レーネリアさん、何か気になることがあるのですか?」
ここでレーネリアが何かを気にしていることに気が付いたネフィアが、そのことについて尋ねた。
「いえ、ワイバスに残した他のメンバーが大丈夫なのかと思いまして」
レーネリアの気にしていたことは、ワイバスに残っている他のメンバーのことだった。
「エリサもいるし何も連絡が無いってことは大丈夫じゃない? 何かあったら連絡して来るだろうし」
「それもそうですね」
アーミラの言う通りに連絡が無いということは、特に問題は起きていないということだ。
なので、向こうのことを気にする必要は無い。
「ところで、いつまでこちらにいる予定なのですか?」
「期間は決まっていません。呼ばれたら戻るつもりです」
「そうなのですね。何も無いところですがゆっくりしていってください」
「ええ、お願いします。ところで、一階の奥には従えられた魔物がいましたが、あれらは全てあなたが従えたのですか?」
ここでレーネリアは気になっていた魔物についてのことをネフィアに尋ねた。
「従えたと言うより懐いたと言うのが正しいですね」
「あれだけの数の魔物が懐いたのですか? 珍しいですね」
魔物は基本的に懐くことは無いので、そもそも懐くこと自体が珍しい。
なので、それがあれだけの数がいるとなると驚くのも当然だ。
「そうですよ。みんな良い子ですし、後で紹介しましょうか?」
「そうですね……どうせすることもありませんし、お願いします」
基本的に外出することもできない場所で時間はあるので、後で魔物達を紹介してもらうことにした。
「ところで、朝食後のドリンクはいかがですか? 色々と取り揃えていますよ」
と、ここでキッチンで洗い物をしているフェリエが食後のドリンクが必要かどうかを聞いて来た。
「どんなものがあるのですか?」
「そうですね……こちらに来て選んでみてはどうですか?」
「それが良さそうですね。朝食が済んだところで、そちらに向かいます」
口頭で説明してもらうよりも、実際に見せてもらった方が分かりやすいので、後で見せてもらうことにした。
「しばらくはゆっくりできそうですね」
そして、レーネリアはその後も霧の領域の基地での時間をのんびりと過ごすのだった。
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