episode148 敵対勢力の捜査状況の調査
それから特に何事も無く二日が経過した。今日もいつものように全員で揃って朝食を摂っている。
「……少し良いかしら?」
と、朝食を摂っていたところでエリサがルミナに話し掛けた。
「何かしら?」
「レーネリアを預かる件についてだけど、こちらは受け入れる準備ができたわ」
何の話かと思ったら、話はレーネリアの件に関してだった。
どうやら、昨日、食料を買い込んでいたのは受け入れの準備……と言うより、基地に戻るための準備だったようだ。
基地は場所が場所なだけに食料の調達が難しく、定期的に街で買い込む必要があるからな。昨日の買い物はそのためのものだったようだ。
「そう、分かったわ。レーネリアは準備できているかしら?」
「はい、いつでも行けます」
「分かったわ。それじゃあ今日出発するので良いかしら?」
「構いませんよ」
どうやら、早速、今日から行くことにしたようだ。
「エリサもそれで良いわね?」
「ええ。それじゃあ朝食が済んだら向かいましょうか」
「そうね。レーネリアは朝食が終わり次第荷物を纏めると良いわ」
「分かりました」
「それで、誰が向こうに送るんだ?」
とりあえず、今日行くことが決まったのは良いが、問題は誰が基地まで送るのかだ。
動きがあったときにも対応しやすいように誰かはこちらに残した方が良いだろうからな。
残すとしたらエリサかアデュークが良いだろうが、ここはエリサに決めてもらうことにする。
「私がこちらに残るわ。アデュークとアーミラでレーネリアを送ってくれるかしら?」
「分かった」
「分かったよ」
どうやら、エリサが街に残ることにしたようだ。
「では、俺はお前達が出る前に周囲の状況を見て来る」
「周囲の状況ですか?」
それを聞いたミリアが首を傾げながらそう聞いて来る。
「ああ。敵対勢力の動きを確認しておきたいからな」
敵対勢力の動きは見ておきたいからな。場合によっては少し動くことも考えなければならない。
「と言うことで、俺は様子を見て来る。洗い物を頼めるか?」
一足先に朝食を食べ終えた俺は早速、調査に向かうことにした。
なので、適当に俺の分の洗い物を頼んでおく。
「それじゃああたしがやっとくよ」
「頼んだ。では、行って来る」
そして、洗い物をミィナに任せたところで、俺は外へと向かった。
外に出たところで、早速、周囲の様子を探ってみることにした。
注意を向けていることを悟られないように気を付けながら周囲に注意を向けて気配を探る。
「……いるな」
気配を探ってみると、店の周辺を監視している敵対勢力だと思われる人物はすぐに見付かった。
(勢力は一つだけでは無いようだな)
監視をしているグループは一つだけでは無く、複数あることが確認できた。
それがどの勢力なのかは分からないが、それは今はどうでも良いことなので気にしないことにする。
(このまま俺を尾行するつもりのようだな)
様子を探ってみると、俺の行動を監視していることが分かった。
だが、その点は特に問題無いので、そのまま門へ向かうことにした。
「ここまで付いて来たようだな」
そのまま歩いて門に向かったが、思った通り監視者達はここまで付いて来ていた。
(ここで連絡しておくか)
ひとまず、店にいるメンバーに連絡して状況を伝えることにした。
近くのベンチに座って端末を取り出して、エリサの端末と通信を繋ぎ店にいるメンバーと通信する。
「とりあえず、状況を伝えるぞ」
「ええ、お願いするわ」
「思った通り、店と門は見張られているな」
店の方が見張られているのはもちろんのことだが、門の方も見張られていた。
「そうなのね。それで、私達はどうするのが良いのかしら?」
「外套を纏って街を出るぐらいで良いぞ。監視には気付かない振りをしておいてくれ」
隠す素振りを見せつつも、分からせるぐらいがちょうど良いからな。このぐらいにすれば良い感じになるはずだ。
「分かったわ。あなたはどうするのかしら?」
「俺はこのままここで待機する」
「そう。それじゃあ三人を向かわせるわね」
「ああ」
そして、話を終えたところで端末をしまって、そのままベンチに座ったまま三人が来るのを待った。
そのまましばらく待っていると、黒い外套を纏ったレーネリア、アデューク、アーミラの三人がやって来た。
「……来たな」
「来たよー。あれから何かあったー?」
「いや、特に何も無いぞ。こちらのことを監視しているだけで、動く気配も無いしな」
三人のことをここで座って待っていたが、監視者はこちらのことを見ているだけで動こうとはしなかったからな。
特筆すべきようなことは何も無い。
「そうなんだ」
「では、キーラを回収して向かうと良い」
「エリュはどうするの?」
「俺はもう戻るぞ。今日はもう特にすることは無いからな」
今日はもうすべきことは無いからな。俺はこのまま店に戻ることにする。
「分かったよ。それじゃあね」
「ああ」
そして、今日すべきことを終えた俺はルミナの店に戻った。
翌朝、いつものように店にいるメンバー全員で集まって朝食を摂っていた。
「うーん……レーネリア大丈夫かな……」
アリナはレーネリアのことが心配なのか、朝食を摂りながらそんなことを呟く。
「そんなに心配か?」
「うん。アデュークとアーミラの二人で大丈夫かなって」
「まあ無事に向こうに着いたようだし大丈夫だろう」
既に霧の領域の基地に着いたとの連絡はあったからな。基地には実力者が揃っているので、安心できると言っても良いだろう。
「その『向こう』ってどこなの?」
「それは言えないな。だが、安全な場所であるとは言っておく」
まあその場所自体は危険なところにあるのだが、敵対勢力から守るという意味では安全だ。
あんな場所にあるとは思わないだろうし、見付けること自体が困難だからな。
「まああの場所ならまず見付かることは無いだろうし、万一見付かっても実力者揃いだし問題は無いだろう」
それに、あれだけ実力者が揃っているからな。万一見付かっても迎撃できるので、何の問題も無い。
「そうなの?」
「ああ。だから、安心しろ」
そう言っても何も変わらないかもしれないが、少しでも安心させるために一応そう言っておく。
「ルミナさん、レーネリアの潜伏場所は分からないの?」
「それは私にも分からないわ」
アリナはルミナにそう尋ねるが、彼女も場所を知らないので、それに答えることはできなかった。
「まあレーネリアのことは二人に任せておけば大丈夫だ。場所のことは気にするな」
「うーん……分かったよ。ところで、エリュは朝食を摂らなくても良いの?」
ここでアリナは朝食を摂っていない俺にそんなことを聞いて来る。
「ああ。朝食は酒場で摂る予定だからな」
他の全員が朝食を摂っている中、俺だけは朝食を摂っていなかった。
と言うのも、この後酒場に行く予定があるからだ。
「レーネリアに関しての情報が、どの程度知られているのかを確認しに行くのかしら?」
「ああ、そうだ。状況を見て、必要であれば情報を流すつもりだ」
エリサの言う通りにどの程度の情報が流れているのかを確認することはもちろんだが、それに加えて必要であれば情報を流すつもりだ。
「と言うことで、俺は行って来る」
「ええ、気を付けていってらっしゃい」
そして、朝食を摂る他のメンバーを尻目に俺は店の外に向かった。
外に出た後は店を見張っている監視者を撒いたところで、変装してから酒場に向かった。
監視者と言っても俺を追って来たのは一組だけだったので、それを撒く程度であれば余裕だ。
「やはり、ここが良いな」
俺が向かったのは門の一番近くにある酒場だ。
この街にある酒場ではここが一番情報が集まるからな。この街に来ている三家の配下も間違い無くここにいるはずだ。
「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」
「そうだな……レッサーワイバーンの胸肉と葉野菜のサンドイッチを頼む」
「かしこまりました」
そして、席に着いて適当な物を注文したところで、周囲に注意を向けてそれらしき人物を探す。
(……いたな)
周囲を探ってみると、それらしき人物はすぐに見付かった。
そこにいたのは二人組の男で、何か話をしているようだった。
早速、聞き耳を立てて話の内容を聞き取っていく。
「やはり、間違い無いようだな」
「レーネリアには街を出られたか」
どうやら、彼らはレーネリアに街を出られたという情報を掴んで、その裏付けを取っていたようだ。
「街を出るときに殺れなかったのか?」
「街を出てすぐに飛び立っちまったからな。それに、奴には護衛もいたしそれは無理な話だな」
「護衛は誰だったか分かってるのか?」
「黒い外套で身を隠していたが、護衛はアーミラって奴とアデュークって奴だな」
(良い感じに情報が広まっているようだな)
まあ門を監視していたグループは複数いたしな。それなりに情報は広まっていて、それぞれで情報を掴めているようだった。
「アデューク? どこかで聞いたことがあるような気がするが……気のせいか?」
「気のせいではないと思うぞ。『
「『
「そうだ。そして、そのリーダーが……」
「アデュークだったな」
そして、説明していた男が言う前にもう一人の男はそう答えた。
(アデュークが義賊団のリーダー? 初耳だな)
アデュークが義賊団のリーダーだったとは初耳だ。
思えば、俺は彼についてのことを全く知らないな。
ちなみに、ガンヴルインはレグレットの西に隣接している国で、カジノが有名な国だ。
「だが、『
「さあな。俺が知っているのは『
普通に考えれば組織が壊滅したとなればリーダーは殺されるなり捕まるなりしているだろうが、アデュークはそうなっていない。
(まあ今はこのことは置いておくか)
少々気になることではあるが、今はこの話は目的とは関係の無いことなので、置いておくことにする。
「まあ今はそんなことはどうでも良い。俺達がすべきことはレーネリアの行方を特定することだ」
「それもそうか。それで、その行き先はまだ分からないのか?」
「街を出てそのまま東の方に飛んで行ったらしいが、今のところ分かっていることはそれだけだな」
「つまり、東に行ったということか?」
「いや、東に行ったように見せかけるためのフェイクの可能性もある」
思った通り、行き先については全く見当が付いていないようだった。
まあ情報が無さすぎるからな。それも当然か。
「じゃあどうするんだ? それだと手の打ちようが無いが?」
「とりあえず、護衛の二人とエリサという人物のことについてを調べる」
「それで何か分かるのか?」
「まず、これまでの調査でその三人は関係の深い人物であることは分かっている。そして、ルミナはこの三人にレーネリアを預けたと見て間違い無いが、問題はどこで預かっているのかだ」
まあそれが分かっていれば、こんなところで調査なんてせずに動いているはずだからな。
「だが、預かる以上奴らにとって都合の良い場所のはずだ」
「つまり、どこかにある奴らの拠点で預かっている可能性が高いということか」
「そうだな。だが、奴らがどこから来たのかについてはさっぱりだ」
「調べたのか?」
「ルミナの店に出入りしている人物としてマークしていたからな。調査は進めてある」
どうやら、同居人のことに関しては既に調査を進めているようだ。
「ルミナとその三人以外で他にレーネリアの居場所を知っていると思われる者はいないのか?」
「同居人なら知っている可能性はあるが、奴は慎重だ。同居人にすら教えていない可能性はある。であれば、現状レーネリアの居場所を確実に知っているこいつらのことを調べるべきだ」
確かに、その三人であれば確実に潜伏場所を知っているということになるだろうからな。
この二人はレーネリアの居場所を確実に知っている、エリサ達三人のことを調べて潜伏場所を特定しようとしているようだ。
「そうか。それで、アデューク以外の奴についての情報は無いのか?」
「調べてはいるが、何の情報も出て来ないな」
「何も分からないのか?」
「出身ぐらいは分かっているが、二人とも出身は別の大陸の国になっているしな。特にエリサに関しては既に滅亡した国の出身になっていて、正直、調べようが無かった」
どうやら、二人のことは調べたらしいが、出身が他の大陸の国らしく大した情報は得られなかったようだ。
エリサの出身国が滅亡しているということは少々気になるが、そもそも彼らの得た情報が本当のことなのかどうかも分からないので、今は置いておくことにする。
「とりあえず、今後はこの三人のことについての調査を進める」
「と言うか、こっちに残っているエリサを取っ捕まえて場所を吐かせるのは無しなのか?」
ここで方針を聞いた男がそんな提案をする。
まあレーネリアの居場所を特定するには潜伏場所を知っているエリサを捕まえるというのが一番手っ取り早いからな。その提案は妥当なものだ。
「それができれば良いが、奴の実力がどの程度なのかが不明だ。ミストグリフォンを従えているぐらいなので実力者だと思われるし、まだ手を出すのは無しだ」
「そうか。と言うことは、しばらくは地道に調査か」
「まあそうなるな」
どうやら、彼らはしばらくは調査をするので、あまり大きく動くようなことはないようだ。
(情報を流す必要は無さそうだな)
この感じだと、それなりに情報は得られているようなので、情報を流す必要は無さそうだった。
「朝食だけ摂って帰るか」
ここで俺がすべきことは無さそうなので、その後は朝食を摂ってからルミナの店に戻った。
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