episode135 シオンvsワイバーン
シオンはワイバーンを追い掛けて西方向へと向かっていた。
「うーん……確か、こっちに行ったはずだけど……見付からないなぁ……」
しかし、空を見てもワイバーンの姿はどこにも見当たらなかった。
「空にいないってことは地上にいるのかな? 上から探してみよっかな」
そして、そう考えたシオンは風魔法で上に跳んで、上からワイバーンを探してみることにした。
「ピィーーッ!」
だが、上に跳んだところで、近くを飛んでいたアイスウィングが襲い掛かって来た。
「邪魔だよ!」
「ピィ……」
シオンは素早く両手に短剣を装備すると、それを投擲して二体のアイスウィングを撃ち落とす。
「ワイバーンは……あそこかな?」
邪魔者を片付けたところで西の方を見ると、砂埃が舞い上がると共に何本もの木が倒れているのが確認できた。
「とりあえず、あそこに行ってみよっかな」
そして、そこにワイバーンがいると踏んだシオンはその場所へと向かった。
「……いたね」
その場所に向かうと、思った通りにそこにはワイバーンがいた。
シオンにしては珍しく、今は風魔法を使って浮いた状態で上から様子を見ているところだ。
「やっぱり、冒険者がいたみたいだね」
ワイバーンの周囲を見てみると、複数の血溜まりがあるのと人間の頭が転がっているのが確認できた。
この森にいるのは冒険者だけのはずなので、冒険者のものと見て間違い無さそうだった。
「……グル?」
ここでワイバーンはシオンの存在に気が付いて、彼女にちらりと視線を向けた。
「グルルアァァーー!」
そして、シオンに向かって咆哮して威嚇する。
「それじゃあ行こっかな」
だが、当然そんなもので怯むことは無い。シオンはそれを気にすること無く風魔法を使って急降下して、ワイバーンに接近する。
「行くよ!」
まずは牽制のために二本の短剣を投擲する。
そして、すぐに刀に手を据えて、居合斬りの構えを取りながら降下した。
「グルッ!」
ワイバーンは投擲された短剣をバックステップで躱すと、そのままシオンに向けて口から雷魔法によるビーム状の雷撃を放った。
「それは読めてるよ!」
だが、シオンにもその程度は読めていたので、ちゃんと対策をしていた。
シオンは詠唱待機状態にしておいた風魔法を使って、横方向にサッと移動してそれを躱す。
「斬るよ!」
そして、間合いに入ったところで、居合斬りを放った。
「グルッ!」
しかし、そんな単純な攻撃が当たるはずも無く、風魔法を使った高速の横っ飛びで躱されてしまった。
魔力を込めた居合斬りによって高威力の斬撃が飛ばされて、軽く地面を割りながら木々を砕いて吹き飛ばしていく。
「うーん……当たれば終わりだったんだけどなー……」
そして、そんなことを言いながら鞘の術式を起動して投擲した短剣を回収して、刀を納刀して次に備えた。
それに対してワイバーンは先程の一撃を見て慎重になっているのか、距離を取ったまま様子を見ている。
いくら硬い体皮を持っているとは言っても、流石に先程の一撃は耐えられない。
なので、ワイバーンからすると絶対にあの攻撃を受けるわけにはいかなかった。
「そっちから来ないのならこっちから行くよ!」
動く様子の無いワイバーンを見たシオンは先に仕掛けることにした。
先程と同じように短剣を投擲して牽制しながら接近する。
「グルッ!」
ワイバーンはそれを後方に退きながら躱して、大量の魔法陣を展開して雷魔法で雷弾を飛ばして迎撃しようとした。
「遅いよ!」
シオンは風魔法を使って低姿勢で駆けて、それらを全て躱していく。
そして、隙を見て風魔法を使って跳んで、高速で接近した。
「グルッ!」
しかし、ワイバーンは風魔法を使って上の方に飛んで行ってしまった。
「逃がさないよ!」
だが、シオンは風魔法を使って飛ぶこともできるので、上空に逃げてもそれに付いて行くことが可能だ。
シオンは風魔法を使って飛んで、すぐにそれを追い掛ける。
「グルアッ!」
当然、ワイバーンもそれを黙って見過ごすようなことはしない。
ワイバーンはシオンから逃げながら大量の魔法陣を展開して、風魔法と雷魔法を使って風弾と雷弾を飛ばす。
「……一旦退こうかな」
このまま追い掛けるという選択肢もあったが、シオンは冷静にその判断を下した。
風魔法を使って横方向に大きく移動して弾幕から外れると、そのまま地上に降りていく。
風魔法を使って飛ぶことができるとは言ってもその制御が完璧にできるわけでは無いし、流石にワイバーンが相手だと空中戦は不利だ。
なので、一旦地上に降りて様子を見てみることにしたのだ。
「……降りて来そうに無いね」
地上から様子を見てみるが、ワイバーンも空中戦の方が自分にとって有利であることを分かっているのか、降りて来ようとはしなかった。
「やっぱり、空中戦をするしかないみたいだね」
ワイバーンに降りて来る意思が無い以上、空中戦をするしか無さそうだった。
もちろん、地上から遠距離攻撃をしても避けられるのは明白なので、その選択肢も無い。
「……ふぅ……それじゃあ行こっかな」
そして、一息ついたところで、風魔法を使って跳んでワイバーンに接近した。
「グルルアァァーー!」
当然、ワイバーンもそう簡単に接近させてはくれない。風魔法と雷魔法を使って風弾と雷弾を飛ばして迎撃しようとして来る。
「さて、ここからが本番だね」
シオンは風弾と雷弾を避けたり斬って打ち消したりしながら、確実にワイバーンとの距離を詰めていく。
「一気に行くよ!」
ここで隙を見て魔力を込めて斬撃を飛ばすと、それを追うようにして一気にワイバーンに接近した。
ワイバーンは風弾と雷弾を飛ばして来ているが、飛ばした斬撃によってそれらは打ち消されているので、斬撃の後を追うと安全だった。
「グラアァァーー!」
だが、ワイバーンはその斬撃に向けて、口から雷魔法によるビーム状の雷撃を放って来た。
その雷撃によって斬撃は打ち消されて、斬撃を貫いた雷撃はその後ろにいたシオンに向かう。
「……遅いよ」
だが、既にそこにシオンはいなかった。
そう、シオンは雷撃が放たれた時点でその攻撃範囲から外れておいて、雷撃を放っている間に一気に距離を詰めていたのだ。
そして、シオンは遂にワイバーンに刃が届く位置にまで接近することに成功した。
「やっと届いたね。それじゃあ始めよっか」
「グルァッ!」
そして、そのままシオンとワイバーンによる空中での近接戦になった。
「行くよ!」
シオンはそう言って空間魔法で槍を取り出すと、そのまま喉を狙って突きを放つ。
「グルッ!」
ワイバーンはそれを翼骨で受けて防ぐと、すぐに足の爪で反撃する。
「当たらないよ!」
だが、シオンはしっかりと槍のリーチを活かして距離を保ちながら攻撃しているので、その攻撃は届かない。
「えいっ!」
「グルッ!」
そして、シオンは槍での突きや薙ぎ払いで、ワイバーンは翼での薙ぎ払いと魔法で攻撃して、互いの攻撃がぶつかり合う。
シオンは翼での薙ぎ払いを後方に退いて回避して、魔法を薙ぎ払いで打ち消しながら隙を見て突きを叩き込んでいく。
戦況はシオンが押している展開で、このまま行けば押し切れそうな勢いだった。
「グルルァァーー!」
ワイバーンもそのことが分かっているのか、ここで勝負に出て来た。
足元に魔法陣を展開すると、自身の周囲に小さな雷がバチバチと発生して、さらに風が自身を中心にして渦巻くように発生する。
(よく分からないけど、離れた方が良さそうだね)
何をして来るのかは分からなかったが、何か大きなことをしようとしていることは間違い無かった。
危険を察知したシオンはすぐに降下してワイバーンから離れる。
「グルルアァァーー!」
そして、シオンが離れたところで、ワイバーンの周囲に爆風と共に強烈な雷が発生した。
「離れて正解だったね」
かなり高火力な魔法なのは見て明らかで、直撃すればただでは済まなかった。
なので、下手に攻撃を仕掛けずに離れたのは正解だった。
「そろそろ終わらせるよ!」
ここでシオンも一気に勝負を仕掛けることにした。
ワイバーンの真下あたりにいるシオンは槍に魔力を込めて、それをワイバーンに向けて投擲した。
さらに、それと同時に風魔法を使って素早くワイバーンに接近する。
「グルッ!」
投擲した槍は躱されてしまったが、その間に距離を詰めることはできた。
シオンはそのまま刀に手を据えて、居合斬りの構えを取る。
「斬るよ!」
そして、魔力を込めた居合斬りで斬撃を飛ばした。
「グルァッ!」
だが、高火力を出せる居合斬りはワイバーンもかなり警戒をしているので、そう簡単には当たらない。
ワイバーンは右翼を引いて体を捻って、必要最小限の動きでそれを躱す。
しかし、投擲された槍を躱した直後に無理に回避をしてしまったので、僅かにではあるが体勢が崩れてしまった。
「……グル?」
ここでワイバーンは違和感に気が付いた。違和感というのはシオンの放った居合斬りのことだ。
そう、どう見ても最初に見せて来た居合斬りよりも遥かに威力が低く、体皮に少し傷を付けられるといった程度の威力しか無かったのだ。
最初に即死級の威力の居合斬りによる一撃を見せられていたので、つい躱してしまったが、先程の一撃は十分に受け切れたので、体勢を崩してまで無理に回避する必要は無かった。
「……!」
だが、ワイバーンがそのことに気付いた頃にはもう遅かった。
シオンは僅かに体勢を崩したその一瞬の隙を見逃さずに闇魔法によって形成した鞭でワイバーンを縛り上げる。
そう、シオンは居合斬りを当てる気など無かった。あの居合斬りは
しかし、ワイバーンも威力の低い攻撃が来ることが分かっていれば無理な回避はしなかったし、込められている魔力量でどの程度の威力なのかをある程度推測することは可能だ。
だが、ワイバーンは込められた魔力量を見て、最初に見た一撃が来るものかと思って回避をしていた。
確かに、シオンはかなりの量の魔力を込めていた。
それにも関わらず威力が低かったのは、込めた魔力の一部だけを解放したからだ。
「終わらせるよ!」
そして、シオンは納刀したところで、再び刀に魔力を込める。
解放した分の魔力を補充するだけなので、先程よりも遥かにチャージが早い。
「グルルアァァーー!」
だが、ここでワイバーンは闇魔法による拘束を解いてしまった。
ワイバーンはBランク推奨の魔物でそれなりに強い魔物だ。
なので、この程度の魔法では拘束することはできなかった。
「グルアッ!?」
だが、ここで突然、強烈な雷撃がワイバーンを襲った。
雷撃が放たれたのは上方向、シオンが投擲した槍からだった。
そう、シオンはただ槍に魔力を込めて投擲しただけでは無かった。
実は投擲する前に槍に一定時間後に発動するように組んだ雷魔法の術式を仕掛けておいたのだ。
「……斬るっ!」
そして、シオンは雷撃で怯んだワイバーンに込められるだけの魔力を込めた居合斬りを叩き込んだ。
その斬撃によって爆風が発生して、刎ねたワイバーンの頭部が高く舞い上がる。
「ふぅ……何とか片付いたね。えっと、投げた槍は……あそこかな?」
ワイバーンが片付いたところで、まずは投げた槍を回収しに向かう。
「お、あったあった。ワイバーンの死体も近くにあるね」
槍を回収しに向かうと、ちょうど近くにワイバーンの死体もあった。奥の方には刎ね飛ばした頭部もある。
「一応、あっちも確認してみよっかな」
このままアリナ達の援護に向かいたいところだが、その前に一つ確認をしておくことにした。
槍とワイバーンの死体を回収したところで、魔力回復ポーションを飲みながら血溜まりと人間の頭があった場所へと向かう。
「これは……『
転がっている頭を確認してみると、それは『
「荷物の中には……あったね」
近くに落ちていた荷物の中身を確認してみると、その中から冒険者カードが出て来た。
「冒険者カードにも書かれてるし、間違い無いね」
その冒険者カードには『
名前の欄のファミリーネームの部分や他の欄には血が付いているので、何と書かれているのかは分からない。
「それじゃあ行こっかな」
そして、シオンはそれを確認したところで、アリナ達の援護に向かった。
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