episode80 ヴァルトとアーミラの能力
あれから修行を続けながら二週間が経過した。今日もいつものようにフェルメットに相手をしてもらっている。
「はっ……」
俺はフェルメットに向けて槍で連続突きを放つ。槍のリーチの長さをしっかりと活かして間合いを保ちながら一方的に攻撃をする。
だが、彼女はそれらを全て簡単に回避していく。
もう少し速度を上げたいところだが、下手に隙を見せると反撃されてしまうので、このままの間合いと速度を保ちながら攻撃する。
「っえぇぃ!」
そこにシオンが横から斧で攻撃を仕掛ける。
しかし、その攻撃は尻尾で受け止められてしまった。
さらに、その直後に俺の攻撃を掻い潜って接近して来る。
(それと同時に後方に魔法か)
すぐに距離を取りたいところだが、後方には何かしらの魔法が構えられている。
何故それが分かるのかと言うと、その魔力を感じ取ったからだ。フェルメットとの修行である程度はそういうことも分かるようになってきたからな。
魔力領域を展開すれば正確に感じ取ることができるらしいが、まだそれは習得できていない。
まあ正確に言うと魔力領域の展開は自体はできるのだが、かなり集中する必要があるのでその間は他のことができない。
フェルメットは当たり前のように魔力領域を展開した状態で戦闘しているが、これには相当な技量が必要なので、残念ながら俺達にはまだできない。
「よっと……」
俺はバックステップの直後に槍を後方に向けて地面に刺して、フェルメットの顔を狙って蹴り上げる。
その攻撃自体は避けられてしまったが、それは想定内だ。これは牽制でメインの狙いはそれでは無いので問題は無い。
メインの狙いは足を振り上げた勢いで上に跳ぶことだ。
そして、俺は狙い通りに勢いのままに上に跳んだ。
「ほう?」
直後、後方に仕掛けられていた魔法陣から闇魔法で形成された鞭が飛び出して来る。
それを槍で弾きつつ、魔力を槍状にして放つ風属性と光属性の複合属性の魔法で反撃をする。
さらに、シオンも斧による攻撃と火属性と雷属性の複合属性の魔法による攻撃を同時に加えた。
俺の魔法攻撃にシオンの直接攻撃と魔法も加わって、三つの攻撃が同時にフェルメットを襲う。
だが、彼女は魔法攻撃を腕で弾いて受け流し、シオンの斧による一撃を手で受け止めることでそれらを全て回避した。
「だいぶ成長しているようじゃな」
「っ!?」
「うわっ!?」
直後、フェルメットの足元に巨大な魔法陣が出現したかと思うと、地面に吸い寄せられるように叩き付けられた。何と言うか重力が強くなったような感じだ。
少し前のめりになっていたシオンは前方に倒れている。
「今日はこのぐらいにするかの」
「そうだな」
「だね」
空を見ると、既に日がだいぶ落ちていて、夜になりかけていた。今日はこのぐらいで切り上げるのが良いだろう。
「エリサ達は今日帰って来るんだったよね?」
「ああ」
エリサ達は今日帰って来る予定だ。今日の朝、エリサから夕方頃に帰るという内容のメールも届いたので、少なくともエリサは今日帰って来るだろう。
そう言えば、まだ言っていなかったが、端末にはメールの機能もある。
「では、戻るとするか」
そして、フェルメットはそのまま洞窟に戻ろうとする。
「……その前に魔法を解いてくれないか?」
だが、先程の魔法をまだ解いていないので重力が強いままだ。
動けないわけではないのだが、かなり動きづらい。
「そうじゃったな」
そして、一言そう言うと、魔法陣が消滅して重力が元に戻った。
「これで
「ああ」
これなら問題無く動くことができる。
それはそうと、先程の重力を発生させた魔法は何の魔法だったのかが少し気になるな。
「その魔法は何だったんだ?」
「これは闇魔法の一種で、一定範囲の全てを引き込む魔法じゃな」
どうやら、あの魔法は闇魔法だったらしい。
それは良いのだが……。
「一定範囲の全てと言ったが、自身も対象か?」
「ああ、当然じゃ」
……それだとあまり役に立たなくないか?
彼女は何事も無いかのように動いていたので、自身は対象外かとも思ったが、そんなことは無かったらしい。
「教えてやろうか?」
「……暇があればな」
「そうか。では、今度こそ戻るぞ」
「ああ」
「分かったよ」
そして、そのままフェルメットと共に洞窟に戻った。
洞窟に戻ると、いつものようにフェリエに出迎えられた。
「お疲れ様でした。今日もいつも通りで良いですか?」
いつも通りで良いかどうかというのは、先に水浴びをするのかどうかということだろう。
「ああ」
「着替えは用意していますので、そのまま向かってください」
「分かった。シオン、行くぞ……む?」
水浴びに向かおうとしたそのとき、端末にメールが届いた。
確認すると、それはエリサからのメールだった。
「エリサからみたいだね」
「ああ。とりあえず、確認するか」
「だね」
早速、内容を確認してみる。
『とりあえず、アーミラとヴァルトと合流したわ。日が落ちるまでには到着するわ』
どうやら、三人は合流してこちらに向かっていて、もうすぐ到着するようだ。
「三人とももうすぐ着くみたいだね」
「そうだな。三人が帰って来る前に水浴びを済ませておくか」
「だね」
そして、水浴びをしに奥の部屋に向かった。
「帰って来たようじゃな」
水浴びを終えて中央の部屋で三人のことを待っていると、フェルメットが唐突にそんなことを言い出した。
そう言われて入口の方に注意を向けると、そこから三人分の足音が聞こえた。
どうやら、エリサ達が帰って来たようだ。
「ボク行くね」
「ああ」
シオンが出迎えに向かう。
「私も行ってきます」
それにフェリエも続く。
そして、二人が扉の近くにまで行ったところで、エリサが扉を開けて部屋に入って来た。
「帰ったわよ」
「お帰りー」
「お帰りなさい」
シオンとフェリエが三人を出迎える。
「夕食の用意はできていますが、どうしますか?」
「そうね……先に水浴びをさせてもらうわ」
「分かりました。それではその間に夕食の準備をしておきますので、ゆっくりとして行ってください」
「分かったわ。アーミラ、行くわよ」
「うん」
そして、二人は水浴びをしに奥の部屋に向かおうとした。
「…………」
だが、ここで俺とアーミラの目線が合った。
その様子から察するに、あのことをまだ気にしているらしい。
「何と言うか、その……先々週は悪かったな」
「…………」
謝罪するがアーミラからの返答は無い。
「アーミラ、いつまでも引き摺っていないで許してあげなさい」
エリサがアーミラの肩を掴んで、俺に対して正面を向くように彼女の向きを変える。
「……今回だけだからね」
「ああ」
そもそも、俺が原因でこうなったわけでは無いのだが、それは言わないことにする。確実に話が
「さて、早く水浴びをして夕食にしましょう。行くわよ」
「うん」
そして、二人は水浴びをしに奥の部屋へと向かった。
ひとまず、この件は解決と言ったところか。
「ボク達はどうする?」
「どうすると言われても待つしかないだろう。フェリエ、配膳を手伝おうか?」
ただ何もせずに待っていても仕方が無いので、夕食の配膳を手伝うことにする。
「まだ時間はありますし大丈夫ですよ。座って待っていてください」
「そうか、分かった」
だが、その申し出は断られてしまった。まあこれもいつものことなのだがな。
結局、やることが無くなってしまったので、フェリエに言われた通りに座って待つことにした。
それから少ししたところで水浴びが終わって、そのまま夕食となった。
「それで、どうだったのじゃ?」
フェルメットが三人に今回の成果を尋ねる。
「とりあえず、最低限必要な物は集められたわ」
エリサはそう言って空間魔法で集めた素材を取り出す。
「雲海の白鉱に天雷竜の核、それに蒼天の花弁もあるようじゃな」
「ええ。蒼天の花弁が無事に見付かって良かったわ」
見たところ、半透明な白い鉱石が雲海の白鉱、半透明の黄色い球体が天雷竜の核、透明な花弁のような物が蒼天の花弁のようだ。
「少し見させてもらっても良いか?」
「ええ、良いわよ」
どれも見たことが無い素材でそれなりに貴重な物なので、この機会に細かく見てみることにした。
まずは雲海の白鉱を手に取って見て回す。
雲海の白鉱は半透明の白い鉱石で、それなりに魔力が籠っているようだった。
見たところ、他の物質がほとんど混ざっていないようなので、製錬せずにそのまま使うこともできそうだ。
次に天雷竜の核を手に取る。
天雷竜の核は直径十センチメートルほどの大きさの半透明の黄色い球体で、近くで良く見てみると内部では光を放つ細い折れ線が絶えずに発生していた。
それはまるで雷が走っているかのようだった。持っているだけで感電してしまうのではないかとすら思ってしまう。
そして、最後に蒼天の花弁を手に取る。
大きさは二センチメートルほどで、名称通り花弁のような見た目ではあるが、触ってみると花弁のように柔らかくはなかった。何と言うか、何かエネルギーのような物が集まってできた結晶のようだった。
また、非常に強い魔力が込められていて、これほどまでに強い魔力が込められている素材を見たのは初めてだ。
「蒼天の花弁という名称ではあるが、これは本当に花弁なのか?」
ひとまず、これの正体が何なのかをエリサに聞いてみる。
「いえ、違うわ。花弁のような見た目だからそう呼ばれているだけで、実際は魔力の結晶体よ」
思った通り、花弁では無かったようだ。
「先程これが見付かって良かったと言っていたが、それほどまでに稀少な素材なのか?」
「ええ。浮遊大陸固有の素材で、生成される量が少なくて稀少な上に、小さくて透明だから見付けづらいのよ」
「なるほどな。と言うか、よく見付けたな」
大きさが二センチメートルほどしかない上に透明なので、簡単には見付けることができない。
それこそ砂漠で一本の針を見付け出すようなものだ。
「まあ素材の特性上、魔力の強い場所にしか生成されないから、ある程度探す場所を絞ることができるわ」
「場所を絞れても中々見付からないのではないか?」
「……だから大変なのよ」
「なるほどな」
どうやら、この素材を集めるのにはかなり苦労したらしい。
「実際、費やした時間のほとんどは蒼天の花弁集めだしね」
アーミラが軽くため息をついて
「それもかなりの量を要求されたからな。分身体も総動員することになったぞ。……ふむ、美味いな」
ヴァルトが今日の夕食のメインディッシュであるワイバーンの肉を口に入れながら愚痴るように言う。
だが、そんなことよりも気になったことが一つ。
「……分身体? 分身できるのか?」
気になったのはヴァルトの分身体を総動員することになったという発言だ。
「ふむ、できるぞ。見せてやろうか?」
「ああ、頼む」
折角なので、見せてもらうことにする。
ヴァルトは席を立って空いている場所に右手の人差し指を向けると、指先から赤い液体が出て来て一か所に集まり始めた。
そして、ある程度溜まったところで液体を出すのを止めた。
「その液体は何なんだ?」
「血だ。では、そろそろゆくぞ?」
そう言うと、血が人の形を形成して色付いていき、ヴァルトの姿になった。
全く同じ姿をしていて、見た目では区別が付かないほどだ。
「おー! 凄ーい!」
「最早、見分けが付かないな」
「これってボク達にもできるの?」
「無理だな」
シオンが俺達にもできるのかどうかを聞くが、即答でできないと言われてしまった。
「えー……何で?」
「ヴァルトとアーミラはハーフである魔物の特性から血を操ることができるわ」
エリサが話に入って来て説明する。
「そうなのか?」
「ええ。アーミラ、ちょっと良いかしら?」
「うん」
アーミラが先程ヴァルトがしたのと同じように右手の人差し指を前に出すと、そこから赤い鎖が出て来た。
そして、それを自在に操って見せる。
「見ての通り、自身の血液を自在に操ることができるわ」
「そのようだな」
これは応用が利くかなり便利な能力だな。
だが、ここで気になることが一つ。
「血液は大丈夫なのか?」
これだけ血液を使うと、すぐに血液が無くなってしまいそうだが大丈夫なのだろうか。
「血液を圧縮して体内に留めているから大丈夫よ」
「なるほどな」
言われてみれば、ヴァルトの分身体は彼自身と同じ大きさと容姿をしているので、普通に血液を使って分身体を作ろうとしても血液が足りない。
「もう戻して良い?」
「ええ、良いわよ」
エリサが返答したところで、血液で形成した鎖がアーミラの指先に吸い込まれるようにして消えて行った。
さらに、ヴァルトが自身の分身体に触れると、こちらも吸い込まれるようにして消えて行った。
「戻すこともできるのか」
「そうだよ」
つまり、回収することさえできればデメリット無しに使えるということか。
「さて、そろそろ明日の予定の話をするけど、良いかしら?」
「ああ」
どうやら、エリサが何か話があるらしい。全員が席に戻り、話を聞く態勢を取る。
「明日の予定だけど、一度セントポートに戻って不要な素材を売却するわ。今日の夜に素材の選別をするから手伝ってくれるかしら?」
「それは構わないが、セントポートにはエリサ一人で行くのか?」
「いえ、エリュかシオンにも付いて来てもらうわ。冒険者ギルドで売却する予定だから、冒険者であるあなた達に付いて来てもらった方が都合が良いから」
「分かった、俺が行こう」
シオンだけで行かせるのは少々不安なので、ここは俺が行くことにする。エリサがいるので大丈夫だとは思うが、念のためだ。
「ボクも付いて行ったらダメ?」
「どちらか一人で十分だが……まあ別に問題は無いか。エリサ、それで良いか?」
「ええ、別に構わないわよ。それじゃあ明日は私とエリュとシオン、それと念のためアーミラにも付いて来てもらうけど良いかしら?」
「ああ」
「アタシもそれで良いよ」
と言うことで、セントポートに向かうのは俺、シオン、エリサ、アーミラの四人となった。何と言うか、結局いつものメンバーだな。
「それじゃあ方針は決まったし、早く夕食を終えて素材の選別をしましょうか」
「そうだな」
そして、その後は早々に夕食を済ませてから全員で素材の選別を行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます