episode63 新生活
「ふっ……はっ……」
「はっ……ええぃ!」
今はいつものように大剣の素振りでトレーニングしているところだ。ここには訓練所のような場所があるので、そこでトレーニングをしている。
「ふぅ……エリュ、ちょっと休まない?」
「そうだな」
トレーニングを始めてからだいぶ時間が経ったので少し休憩することにした。ベンチに座って隣に大剣を立て掛ける。
「そういうことは欠かさないのね」
ちょうど休憩に入ったところで、エリサが部屋に入って来る。
「こちらでの生活には慣れた?」
「まあな」
こちらに来てから二週間ほどが経過したので、こちらでの生活にももう慣れた。
こちらでの生活リズムは午前中は訓練所で基礎トレーニングや実戦向けの練習、昼は魔法についての勉強、夜はフェリエによる魔力のコントロールの練習といった感じだ。
このような生活リズムになったのにも理由はある。
まず、こちらでやりたいことは魔力のコントロールの練習と魔法の勉強だ。それに加えて基礎トレーニングもやっておきたい。
フェリエによるトレーニングはだいぶハードで終わった後は疲れ果てて何もできないので、そのまま眠ることができる夜にした方が良いということになった。
そして、残るは基礎トレーニングと魔法の勉強だが、体力的に考えて午前中に基礎トレーニングをして、その後は体を休めつつ魔法の勉強をするのが良いということで今の生活リズムになった。
また、実戦向けの練習はエリサかアーミラかアデュークに相手をしてもらっていて、魔法に関しては一般的な魔法関連の本で学んでいる。
魔法に詳しいヴァージェスがいるので彼から学べば良いと思うかもしれないが、基本的に自分の研究にしか興味の無い彼には断られてしまった。
一応、研究成果を纏めた本は自由に読んで良いと言われたが、難易度が高い上に専門的なものが多く、まだ俺達に理解できるものではなかった。
ただ、その内容自体は分野ごとに分かりやすく纏められていたようなので、魔法に詳しくなったらかなり役に立ちそうだった。
「もうすぐお昼だからシャワーでも浴びて来たらどう?」
「む?」
そう言われて時間を確認してみると、エリサの言う通りもう昼前だった。
「それもそうだな。シオンもそれで良いか?」
「うん。それで良いよ」
今から休憩しているとかなり中途半端な時間になるので、少し早いがここで切り上げることにした。
「私は用があるからもう行くわね」
そして、エリサはそれだけ言い残すと部屋を出て行った。
「とりあえず、後片付けをするか」
「だね」
そして、後片付けを済ませたところでシャワーを浴びに風呂へと向かった。
シャワーを浴び終わったところでリビングへと向かった。
昼食にはまだ早いが、リビングで適当に時間を潰していれば良いだろう。そう思ったのだが……。
「何かみんなが集まってるね」
「そうだな」
リビングには何故か全員が集まっていた。普段は研究所に籠っているヴァージェスや『
「エリュにシオンだにゃー!」
「おわっ!?」
こちらに気付いたアーニャが俺に向かって跳び掛かって来る。
それを何とか受け止めるが、勢いを殺し切れずにそのまま押し倒されてしまった。
「ちょっと! エリュはボクのものだよ!」
シオンはアーニャの足を掴んで引き離そうとするがびくともしない。魔力強化で身体能力を上げているにも関わらずだ。
それはそうとして、ここで一つ言っておくことがある。
「別に俺はシオンのものではないのだが」
もう何度かこのやり取りをしているような気がするが、今はそれは別に良いだろう。それよりも問題はこちらだ。
「アーニャ、放してくれるか?」
俺の方からも引き離そうとしているが、力が強いのでびくともしない。
「にゃぁ? 嫌だったかにゃ?」
「別にそういうわけでは無いのだが……」
どう言えば放してくれるのだろうか。彼女の場合だと普通に言っても聞かない可能性が高いだろう。
と、そんなことを考えていたところでエリサがこちらに歩み寄って来た。
「アーニャ、放しなさい」
「……にゃ?」
「これから話が始まるから、エリュを放してこっちに来なさい」
「エリュとシオンには久々に会ったのにゃ」
いや、意味不明なのだが。全く理由になっていないのだが。
「良いから早く来なさい」
そして、エリサもシオンに加わって足を引っ張る。
「にゃー! 小難しい話は苦手なのにゃーー!」
だが、アーニャはそれに抵抗するように抱き付く力を強めた。
「リュードラン、フェルメット、手伝ってくれるかしら?」
「ああ」
「良かろう」
エリサに言われてリュードランとフェルメットも加わる。
「にゃー! そんなに強く掴まないで欲しいのにゃー!」
「それはこちらのセリフなのだが!?」
リュードランとフェルメットが加わると同時にアーニャは抱き付く力を強めている。
彼女はかなり力が強いので、あまり強く抱き付かれると潰されかねない。
「強く掴んで欲しくないのなら早く離れなさい。リュードラン、フェルメット、行くわよ」
「ああ」
「全く……世話が焼けるの」
「止めるにゃーーー!」
三人が力を込めると同時にアーニャは抱き付く力をさらに強めた。
「ぎゃあああぁぁぁーーー!?」
想定を遥かに超える強い力で抱き付かれて、つい叫び声を上げてしまう。
「どうしたの、エリュ!?」
「痛いから放せ! 折れる! 死ぬ! 肋骨が、背骨がミシミシ言っている気がする!」
アーニャの力は非常に強く、圧死してもおかしくないほどだ。
と言うより、魔力強化をしていなければ確実に潰されている。そう断言できるほどの力の強さだ。
「落ち着きなさい、エリュ。流石に抱き付かれて圧死することは……あり
「あり
死因が抱き付かれて圧死はシャレにならない。
何とかそれは回避したいところだが、残念ながら俺の力ではどうにもならない。
「……にゃ?」
と、ここでアーニャが俺の状態に気付いたらしく、ようやく放してくれた。
「エリュ、大丈夫!?」
「大丈夫ですか!?」
そこにシオンとネフィアが心配して駆け寄って来る。
「な……何とか、な……うぐっ……」
「わー! 死なないでエリュー!」
「えっと……えっと……どうしよう!?」
シオンとネフィアはかなり慌てているようだ。俺の前で座り込んであたふたしている。
「えっと……と、とりあえず、回復魔法を掛けますね!」
ネフィアが回復魔法を掛けようと手の平をこちらに向ける。
だが、それをエリサが止めてしまった。
「大丈夫よ。回復魔法は必要無いわ」
「そう……ですかね?」
「そんなに気になるのなら診てみると良いわ」
そう言うと、エリサは俺を持ち上げてソファーまで運び、寝かせるようにして下ろした。
「それでは診てみますね」
そして、そのままネフィアに状態を診てもらうことにした。
「ひとまず、どこも異常は無さそうです。少し休めば大丈夫ですよ」
「そうか」
念のためネフィアに診てもらったが、異常は無いとのことだった。
骨に罅が入っているのではと少し心配だったが、大丈夫だったようだ。
「ごめんねなのにゃ……」
アーニャが声を落として反省した様子で謝って来る。
「悪気は無かったみたいですし許してあげてください」
「ああ。それは分かっている」
ネフィアの言う通り、アーニャに悪気は無かっただろうからな。本人も反省しているようなので、もうこのことは良いだろう。
それはそうとして、だ。
「どうしたんだ、エリサ?」
理由は分からないが、エリサが俺のことを見て笑みを浮かべていた。
「いえ、あんなに慌てたあなたは初めて見たから」
確かに、普段はこんなに慌てたりはしないが……。
「だからと言って、そんなにクスクス笑わないでくれるか? フェルメットもだ」
「ニシシ……珍しいものを見れたの」
「……人の言うことを聞いていたか?」
このままではこのことを延々と言われそうなので、話題を変えることにする。
「ところで、アーニャはいつの間に帰って来ていたんだ?」
当然のようにアーニャがいるが、昨日まではいなかったはずだ。
「昨日の夜に帰っていたわ。あなた達は昨日は早く寝たから知らなかったでしょうけど」
言われてみれば昨日は早めに寝た上に、今日は朝食を摂った後はすぐに基礎トレーニングのために部屋に籠っていたので、エリサとフェリエ以外のメンバーとは会っていなかったな。
「なるほどな。それで、何故全員が集まっているんだ?」
普段はそれぞれで行動しているので、全員が集まっているところは初めて見る。
「周辺国の情勢についての報告会よ」
「報告会?」
「ここは資源が多いことは知っているわよね?」
「ああ」
ここは特殊魔力地帯なので魔力が強く、それゆえに多くの資源が眠っている。
実際、この基地の倉庫にはこの地域で採られたと思われる稀少な素材が沢山保管されていた。
「それを狙って動く国も多いから、各国の情勢を調べて手を打っているのよ」
そう言えば、ルミナも各国がこの地域を狙っていると言っていたな。
「なるほどな。それで珍しく全員が集まっているというわけか」
「そういうことよ。折角だしあなた達も聞いていく?」
ここでエリサに報告会に誘われる。
ちょうど時間は空いているし、周辺国の情勢を知っておいて損は無いので断る理由は無いだろう。もちろん、参加だ。
「折角の機会だしな。そうさせてもらう」
「分かったわ。それじゃあ適当に空いているところにでも座って」
「分かった」
「分かったよ」
そして、全員が席に着いたところで、報告会が始まった。
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