episode57 新たなる出会い
「着いたわよ」
エリサはそう言うとミストグリフォンをゆっくりと降下させて着地した。
どうやら、ようやく目的地に着いたらしい。
あの後も何度か戦闘になったが、いずれもフェルメットが瞬殺したので問題無くここまで辿り着くことができた。
それは良いのだが……。
「何も無いように見えるのだが?」
辺りを見渡すが、目の前に高さが三十メートルほどの崖があるだけで、他には特に何も見当たらなかった。
「だよね。エリサ、ここで合ってるの?」
「ええ、ここが目的地で合っているわ。そこで見ていて」
「見るって……何をだ?」
「すぐに分かるわ」
エリサはそう言って崖の前に立つと、崖に向かって手をかざした。
すると、崖が割れて左右に開き、縦十メートル、横七メートルほどの大きさの入り口が現れた。
「おー! 凄ーい! これどうなってるの?」
「それはヴァージェスにでも聞くと良いわ」
「ヴァージェス?」
聞いたことの無い名前だな。恐らく、彼女達の仲間なのだろうが、一応聞いてみることにする。
「これを作った本人よ。魔物に見付からない内に早く入るわよ」
「ああ」
「分かったよ」
そして、エリサとフェルメットの二人に続いて中へと足を踏み入れた。
中に入ると、そこは石造りの城の内部のような造りになっていた。石レンガでできた広い通路が続いている。
「こんなところに隠しているとはな」
「外には魔物がいるから、こうでもしないとここには住めないのよ」
「なるほどな」
確かに、外には強力な魔物がいるので、家を作ってもまともに住むことはできないだろう。
と言うより、家を作ったところで簡単に破壊されてしまう。
「それで、こんなところに居住場所を作っているんだね」
「そういうことよ」
「それで、この廊下は……む?」
と、そのとき廊下の奥の方から一人の少女が駆け寄って来た。
「帰ったのですね。お帰りなさい」
現れたのは十五歳前後と思われる少女だった。
少女は薄い黄色い瞳をしていて、後ろで下ろされた緑色のツインテールは長さが腰のあたりまである。
そして、その頭部には竜のものと思われる角が二本あった。
「キィッ!」
ここで出迎えて来た少女に向かってミストグリフォンが飛び付いた。
「うわっ!」
「キィッ♪」
抱き付くように飛び付いたミストグリフォンは人懐っこく頬擦りする。
「キーラ、くすぐったいよ」
そう言いながら少女はミストグリフォンを撫でる。
(キーラ?)
一瞬誰かと思ったが、恐らくこのミストグリフォンの名前だろう。
「キーラ、そろそろ離れなさい。ネフィアが動けないでしょう」
エリサがキーラに近寄って離れるように促す。
「キィ……」
それを受けてキーラは少し悲しそうな鳴き声を上げて少女から離れた。
そして、しょんぼりとした様子で足を折り畳んで座る。
「後で相手してあげるから先に戻っててね」
「キィッ♪」
そして、嬉しそうに鳴き声を上げると通路の奥の方に消えて行った。
「相変わらずだいぶ懐いておるようじゃの」
「えへへ……私の取り柄はそれぐらいしか無いですから。ところで、そのお二人は?」
その少女が俺達のことを聞いて来る。
「俺はエリュ。エリュ・イリオスだ」
「ボクはシオン。シオン・イリオスだよー」
ひとまず、簡潔に自己紹介をする。
「私はネフィア。ネフィア・リューメトラです」
ネフィアと名乗る少女はそう言って丁寧にお辞儀をした。
「昨日、連絡しておいたと思うのだけど、聞いていなかったのかしら?」
「そう言えば、昨日言っていましたね。と言うことは、そのお二人が昨日言っていた方ですね」
「ええ、そうよ」
どうやら、ここのメンバーには俺達のことは伝わっているらしい。話が早くて助かるな。
それはそうと、シオンが何かを気にした様子でネフィアを見ていた。
何を気にしているのかが気になるので、少し聞いてみることにする。
「どうした、シオン?」
「いや、ちょっとね。……ねえねえ、その角って何なの?」
シオンがネフィアに近寄って興味深そうに角を眺める。
どうやら、シオンが気にしていたのはネフィアの角だったようだ。
「わっ!? えっと……」
だが、それに対してネフィアは困惑していた。
「シオン、止めてやれ。どう見ても困っているだろう」
俺はすぐにシオンを引き離す。
「えー……見るぐらい良いじゃん。ねえねえ、そのかっこいい角もっと見せてよ!」
「えっ……かっこいい? そ、そうですか?」
「……? どうした?」
何故だかは分からないが、ネフィアは頬を少し赤く染めて嬉しそうにしている。
「いえ、何と言うかそうやって褒められたのは初めてだったので」
「そうなのか?」
「そう言えば、あなた達は
「
「
「そうなのか」
エリサは俺達が見たことがあるかのように言ったが、少なくとも覚えている限りでは見たことが無い。
街で見掛けないほどなので、少数の種族なのだろうか。
まあ調べれば分かることなので後で調べてみるか。
と、そんなことを考えていたところで、エリサが俺の耳元で小声で囁いて来た。
「
どうやら、エリサが説明してくれるようなので、自分で調べる必要は無さそうだ。
「私は彼らをみんなに紹介して来るけど、二人はどうする?」
「私は魔物達のお世話をしてきます」
「妾は適当に休ませてもらう」
「そう、分かったわ。それじゃあ私が案内するから二人とも付いて来て」
「分かった」
「分かったよ」
そして、エリサに案内されて廊下の奥へと向かった。
最初に案内されたのはリビングダイニングキッチンだった。リビング側はソファーやテーブル、本棚などが配置されていて、くつろげる空間になっている。
そして、ソファーには座っている男性が一人と寝そべっている少女が一人いた。
男性の方は二十代だろうか。黒髪で暗い赤色の瞳をしている。
そして、少女の方は十五歳前後だろうか。胸元まであるロングヘアの髪は白色に僅かに緑がかったライトシアン色で、髪先は白色になっている。
エメラルドグリーンの瞳をした美しい少女で、美少女という言葉が良く似合う。
また、背中が大きく開いた白いワンピース風の服を着ていて、その背中には僅かに緑がかった白色の竜の翼と尻尾が付いていた。恐らく、
「帰ったか」
こちらに気付いた男性が声を掛けて来る。
「ええ、ちょうどね」
「その二人が昨日言っていた奴らか?」
「そうよ」
「ほう……」
その男性が立ち上がってこちらを注意深く見て来る。
「……盗賊か暗殺者と言ったところか?」
そして、少ししたところで察したように言った。
「……さあな」
「……まあ良い。そんなことに興味は無いからな。俺はアデューク。アデューク・ヴァーテッドだ」
こちらの素性には興味が無いらしく、そのことに気を留めずに自己紹介をして来た。
「俺はエリュ。エリュ・イリオスだ」
「ボクはシオン。シオン・イリオスだよ」
こちらも軽く自己紹介をする。
「それで、そこに寝そべっているのは?」
それよりも気になるのはソファーで寝そべっている少女だ。
自ら動く気が無さそうなので、エリサに彼女のことを聞いてみる。
「彼女はフィルレーネよ。……あなたも起きて自己紹介しなさい」
エリサは少女の元に歩み寄って、寝そべっているフィルレーネを起こす。
そして、起こされた彼女はむくりと起き上がると、こちらを向いて口を開いた。
「……私はフィルレーネ。フィルレーネ・ミュートリオン」
彼女はそれだけ言うと再びソファーに寝そべった。
「こんなのだけど、これでも戦闘能力はかなり高いわ」
「そうなのか?」
「ええ。見ての通り、普段はやる気の無い感じだけど。さて、次は地下に行くわよ。付いて来て」
「ああ」
「分かったよ」
そして、エリサに案内されて今度は地下へと向かった。
俺達はエリサに案内されて、地下にやって来た。そこには一直線に廊下が続いていて、いくつかの部屋があった。
「奥にあるのが研究所で他は大体物置よ」
「研究所?」
「ヴァージェスの研究所よ。彼が一人で勝手に研究をしているわ」
「研究って何の研究をしているの?」
「魔法の研究よ。詳細を聞きたいのなら本人に聞くと答えてくれるでしょうけど、今のあなた達に理解できる内容ではないと思うから聞くだけ無駄でしょうね」
確かに、魔法に関してはまだ初級者だからな。あまり難しい話をされても分からない。
「行くわよ」
「ああ」
「うん」
そして、そのまま奥にある研究所へと向かった。
研究所に入ると、そこには研究所らしく色々な物が置かれていた。見たことのある物から用途不明のよく分からない物まで様々なものが置かれている。
そして、奥の方にはマントを羽織った一人の人物がいた。
「何だ、エリサか」
そう言ってその人物がこちらを振り向く。
その人物、いや人物と言っても良いのだろうか。その人物(?)は骸骨だった。スケルトンとでも言うべきなのだろうか。骨格自体は人間のものだが、胸部の真ん中あたりに紫色に輝く球体がある。
(何なんだ、あの球体は?)
あの球体が何なのか気になるところだが、考えても答えは出て来ないので考えるだけ無駄だろう。
「彼らを連れて来たわ」
「彼ら? ああ、昨日言っていた奴らか。色々と気になることはあるが、今は忙しい。後にしてくれ」
そして、彼はそう言うと作業に戻って行ってしまった。
色々と気になることがあると言っておきながら、こちらのことに興味が無さそうな様子だ。
「……彼は忙しいみたいだから代わりに私が紹介するわね。彼はヴァージェス・ノルフォード。大体いつも地下で魔法の研究をしているわ」
研究に戻ってしまったヴァージェスに代わってエリサが紹介する。
「……今は他のことに興味が向いているだけで、あなた達のことに興味が無いというわけでは無いはずよ」
「そうなのか?」
「ええ。基本的に自分のやりたいことだけをするような感じだから」
確かに、何と無くそんな感じの印象は受ける。
「何と無くだけど、研究のためだったら何でもするみたいな感じはするよね」
「実際、ここに来る前はそんな感じだったらしいわよ」
「そうなんだ」
どうやら、思った通りの人物だったらしい。
それはそうとしてだ。
「彼は何者なんだ?」
「別の大陸のある国で王族直属の魔術師だったらしいわ。元々は人間だったそうだけど、色々とあってあの姿になったそうよ」
「色々と?」
「まあそのことについてはその内話すわ。次に行くわよ。付いて来て」
「ああ」
「分かったよ」
そして、エリサの後に続いて研究所を後にした。
一階のリビングへと向かうと、そこにはここに住んでいるメンバーが集まっていた。
もちろん、その中には知らない人物も何人かいる。
まあその内の二人……いや、二体は魔物なので、人物と言っても良いのかは分からないが。
「あら、わざわざ集まってくれたのね」
「ああ。その方が良いと思ってな。地下にいるヴァージェス以外は全員集めておいた」
そう言っているのは人間ではなくドラゴンだった。
彼は全身が黒い鱗で覆われていて、大きな黒い翼に肉質の尻尾を持ち、身長は三メートル以上あった。人間の基準で言うと大きいのかもしれないが、ドラゴンの基準で言うと小型に分類される大きさだ。
「そうだったのね。助かるわ。それじゃあ順番に良いかしら?」
「ああ。では、まず俺から行かせてもらう。俺はリュードランだ。これからよろしく頼む」
最初に自己紹介をして来たのは先程のドラゴンだった。
見た目に反して、と言うと失礼かもしれないが、意外とフレンドリーだ。
「次はアタシね。アタシはアーミラ・ヴァサレス。二人ともよろしく!」
次に自己紹介をして来たのは十三歳前後と思われる
その金髪は胸元まで長さがあるセミロングヘアで、背中には可愛らしくちょこんと小さな
また、瞳の色は赤い色をしていて、彼女のその風貌はヴァンパイアを思わせる。
また、服装に目を向けると、フリルやリボンがあしらわれた白や暗めの赤、金色に近い黄色を基調としたロリィタ風の服はスカート丈のほとんど無い長袖のワンピースのような形状で、それに黒のタイツを合わせている。
その服装からは見事に少女らしさが引き立てられていて、ファッションにこだわっていることが良く分かる。
それだけでなく、どれも動きやすい作りになった魔法装備なので、実用性も兼ね備えているようだ。
「次は我だ。我はヴァルト・アージェック。よろしく頼むぞ」
次に自己紹介して来たのは十三歳前後と思われる
紺瑠璃色の髪に赤い瞳をしていて、背中には大きな
「私はフェリエ。見ての通りのフェアリーよ」
次に自己紹介をして来たのは人間に蝶のような翅を持った見た目の魔物、フェアリーだった。
人間で言うと十五歳前後のように見えるが、身長は一メートルほどしかない。人間の基準で言うと相当小さいかもしれないが、フェアリーなのでこれぐらいが普通だ。
また、翅は緑色で肩のあたりまで長さのある金髪にエメラルドグリーンの瞳をしている。
「一応、私も改めて自己紹介しておくわね。私はエリサ。エリサ・フィラマティーよ」
そして、最後にエリサが自己紹介をして締めた。
「既に聞いているかもしれないが、俺はエリュ。エリュ・イリオスだ」
「ボクはシオンだよ」
既に伝わっているとは思うが、一応改めて自己紹介をしておく。
「それで、この後はどうするつもり?」
自己紹介が終わったところで、エリサがこの後の予定を聞いて来る。
「そうだな……ひとまず、荷物を整理しておきたいな。個室があるとありがたいのだが、空きはあるか?」
「個室の空きならあるから好きなところを使うと良いわ。個室は二階よ」
「ああ、分かった。シオン、行くぞ」
「うん」
そして、シオンと共に二階に行こうと階段に向けて歩みを進めた。
「その前にちょっと良いかしら?」
だが、そこでエリサに呼び止められた。
「何だ?」
「後一か所だけ案内しておきたい場所があるから、先にそこに行ってからで良いかしら?」
「ああ、構わないぞ」
別にこちらは急ぎでは無いからな。後回しにしても問題無い。
「分かったわ。……ネフィア、あなたにも来てもらって良いかしら?」
「良いですよ」
「それじゃあ三人とも行くわよ」
「はい」
「ああ」
「うん」
そして、そのままエリサとネフィアの後に続いた。
「着いたわよ」
向かった場所は多数の魔物がいるかなりの広さのある部屋だった。
魔物ではあるが、敵意は一切感じられないので、襲われる心配は無さそうだ。
「ここは?」
「見ての通り、魔物達の部屋よ。ここで魔物達の世話をしているわ」
あたりを見回すと、見たことのある魔物から見たことの無い魔物まで様々な魔物がいた。
よくこれだけの数の魔物を手懐けたな……。
と、そう思ったそのとき、三体の魔物がこちらに近寄って来た。
「キィーッ!」
「グルォーン!」
「グルルル……」
近寄って来たのはミストグリフォンのキーラとワイバーンと見たことの無い巨大なドラゴンだった。
巨大なドラゴンは体長が八メートルから九メートルほどもあり、その全貌を視界に収めることができない。こんなに大きな生物を間近で見るのは初めてだ。
「良い子にしてた? キーラ、リュークス、ザッハート」
「キィッ♪」
「グオーン♪」
「グルッ!」
そして、ネフィアがそれを迎え入れる。どうやら、ワイバーンの名前がリュークス、巨大なドラゴンの名前がザッハートのようだ。
「何でこんなに魔物がいるんだ?」
「何だか私ってよく魔物に懐かれるんですよね。それで、気付いたらこんな数になっていたんですよ」
質問に答えたのはネフィアだった。
どうやら、懐いた魔物を連れ帰っている内にこれだけの数になったらしい。
「そうなのか。ところで、この巨大なドラゴンは見たことが無いのだが、何の魔物なんだ?」
「リトルバハムートですよ」
「そうなのか」
この巨大なドラゴンはリトルバハムートという魔物らしい。これのどこが「リトル」なんだと言いたくなるが、恐らく普通のバハムートよりも小型なのだということなのだろう。
リトルバハムートでこの大きさだと普通のバハムートがどれだけ大きいのかが気になるところだが、今気にするようなことでは無いだろう。
「それでエリサ、案内しておきたかった場所はここのことだな?」
「ええ、そうよ。それじゃあ二階に向かいましょうか」
「ああ」
「だね」
そして、エリサに先導されて二階へと向かった。
「さて、荷物の整理はこんなところか」
「だね」
空き部屋に案内された後は家具を運び込んで荷物を整理した。
エリサにも手伝ってもらったので、荷物の整理は早く終えることができた。
改めて思うが、やはり空間魔法は便利だ。
「それで、この後はどうするの?」
ここでエリサがこの後の予定を聞いて来る。
「適当にのんびり過ごす予定だ。まだ怪我も完治していないしな」
まだ怪我は完治していないので、ここは安静にしておくのが良いだろう。
なので、この後は部屋でゆっくりと過ごす予定だ。
「そう言えば、アリナとの戦闘で怪我をしているのだったわね。でも、歩き回ることぐらいは問題無いでしょうし、基地内を見て回っておくと良いわ」
確かに、これからここで生活していくので、施設を把握しておく必要があるだろう。
「それもそうだな。シオン、行くぞ」
「うん」
そして、その後はシオンと共に基地内の施設を見て回って、午後の時間を過ごした。
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