episode46 敵意を向ける者
後処理が終わったところで、俺達は馬車のある場所へと戻って来た。
レッサーワイバーンの死体は全てレーネリアの空間魔法で収納したので、特に荷物は無い。
「結構早く終わったし、今日中に帰れそうだね」
アリナが一息つきながら言う。彼女が一番動いていたので、その分疲労しているのだろう。
「そうだな。……このまま何も無ければだがな」
このまま問題が起きなければ今日中に街まで帰ることができそうだ。
だが、周囲から何者かの視線を感じるのだ。一つはエリサの連れだという人物で間違い無いのだが、それとは他に複数の視線を感じる。
「縁起の悪いことを言わないでくださいよ」
ミリアはそう言うものの、その悪いことが起こりそうな状態だからな……。
「そう言われても、敵意のある視線が向けられているからな」
「え?」
やはり、気付いていなかったようだ。
「っ!? どの方向?」
すぐにアリナが切り換えて周囲を警戒しながら聞いて来る。
「東方向から十五前後、南東方向から二つほどだな」
一つだけある西方向からの視線はエリサの連れだと言う人物で間違い無いので、問題の視線は他の方向からするものだ。
「レリア、何人いるか分かる?」
「東に十五人、南東に二人ですね」
俺が感じた視線の数も大体そのぐらいだったが、やはり正確に分かる魔力探知は便利だな。
「盗賊の可能性が高そうだね。みんな、いつでも対応できるようにしておいて」
アリナも俺と同じ答えを出したようだ。すぐに全員に指示を出す。
「その盗賊に関して分かっていることはあるか?」
俺達はその盗賊に関しての情報を持っていないので、アリナに聞いてみる。
「規模は三十人から五十人で、実力者はいないと思われるということらしいよ」
「実力者と言われてもだな……」
そう言われても、その実力者というのがどの程度のものなのかが分からない。
「実力者というのは冒険者ランクで言うと、大体Bランク以上ぐらいの実力を持つ者のことよ」
その疑問に答えたのはエリサだった。
「そうなのか。説明助かった」
とりあえず、一言礼だけ言って警戒に戻る。
「そこまで警戒しなくても、あなた達なら問題無く倒せる相手よ」
「そうなのか?」
確信を持って言っているようだが、何を根拠にそう言っているのだろうか。
その根拠を少し聞いてみることにする。
「ええ。冒険者ランクで言うと全員F、Eランクぐらいの実力ね。南東にいる二人はボウガンを持っているけど、全員近接系で魔法使いもいないわ」
「分かるのか?」
「魔力を隠している気配は無いし、魔力の強さや流れなんかを見れば分かるわ」
どうやら、彼女ほどになると魔力を見ただけでそういうことが分かるらしい。
「……来ます!」
レーネリアが声を上げた直後、東方向から隠れていた者達がこちらに向かって走って来た。
いずれも武器を持った柄の悪い男で、最近この辺りに出没するという盗賊と見て間違い無いだろう。
「オラオラ! 金目の物を置いて行きな!」
先頭にいた男がその場で剣を振り回しながら言った。
ここで他の盗賊達を見てみると、短剣に剣、大剣に斧と計四種類の武器を使っていた。
「私は適当に観戦しておくわね」
エリサはそう言って馬車の荷台に腰掛けた。
どうやら、彼女は今回も観戦するつもりのようだ。
「それで、どうするんだアリナ?」
ひとまず、リーダーであるアリナに指示を仰ぐ。
「もちろん、戦うよ。みんな構えて」
「分かった」
アリナの指示に従ってそれぞれ武器を出して構える。
「素直に渡す気は無いようだな。だったら奪い取ってやるまでだ! お前ら、行くぞ!」
「うおおぉぉーー!」
そして、その一声と共に盗賊達が一斉に襲い掛かって来た。
「二人は下がってて。ステア、行くよ」
「分かってるよ」
アリナとステアが前線に躍り出る。
「まずはお前からだ。おらぁ!」
最前線にいた剣を持った盗賊がアリナ斬り掛かる。
「甘いよ!」
「ぐわっ!」
だが、その盗賊はあっさりとアリナの盾突きで突き飛ばされた。
その突き飛ばされた盗賊が後ろにいた二人の盗賊に当たって怯む。
「えいっ!」
「ぐはっ……」
そして、三人纏めて一文字に斬り裂いた。
「まだまだ行くよ!」
アリナはそのまま襲い掛かって来る盗賊達を一人ずつ撃退していく。
アリナが最前線に立って、その少し後ろでステアが臨機応変に動くといった感じの陣形だ。
どうやら、基本的には抜かれないことを重視して動いているようだ。
「……シオン」
「うん」
ここで俺はシオンと共にゆっくりと歩いて前に出る。
「二人とも危ないですよ!」
ミリアが引き止めるように言う。
だが、俺達は止まらない。そのままゆっくりと敵に近付く。
「ミリア、補助魔法を」
レーネリアがミリアに指示を出す。
「分かりました」
指示を受けたミリアがすぐに俺達に補助魔法を掛ける。
すると、俺達の身体が一気に軽くなった。
(これが補助魔法か)
補助魔法を掛けられると明らかに動きが軽くなった。これがあるかどうかでだいぶ変わるな。
「……助かる」
呟くように一言礼を言っておく。
「オラァ! 死ねやぁ!」
そのとき、前衛の二人を突破して来た剣を持った盗賊が俺達に襲い掛かって来た。
「……消えろ」
そこに俺は右手に持った短剣で一文字に斬撃を放ち、その盗賊の頭を斬り飛ばした。斬り飛ばした頭が地面を二回跳ねて転がる。
そして、残った胴体がゆっくりと前方に倒れた。
遠慮は必要無い。こいつらは
「シオン」
「うん」
これだけで俺の意図は察してくれたらしい。俺は前方に、シオンは右前方に疾走する。
「ちょっと! 二人とも!?」
驚くステアの横を通り抜けて前線へと躍り出る。
そして、前方に短剣を投げて刀に手を掛けた。
「ぐああぁぁーー!」
短剣が額に直撃した盗賊が崩れ落ちる。
「こいつ……お前ら! こいつを畳んじまえ!」
盗賊達のリーダーと思われる男が指示を出す。
すると、俺に向かって五人の盗賊が一斉に襲い掛かって来た。
「オラァ!」
「死ねぇ!」
五人が武器を振りかぶって一斉に襲い掛かって来る。
「…………」
その向かって来た五人を纏めて居合斬りで胴体を真っ二つに斬り裂く。
すると、その強烈な斬撃で軽く突風が巻き起こった。その風で何人かの盗賊がバランスを崩して尻餅を着く。
「な!?」
それを見て盗賊達が驚いて怯む。
だが、俺はそれを見逃すほど甘くは無い。すぐにそこに追撃を加える。
「ぎゃー!」
「ぐわー!」
元々練度が低い上に怯んでいるので烏合の衆も同然だ。
俺は怯んだ盗賊達を刀で次々と斬り伏せていく。
「お前ら! 撤退するぞ!」
その状況を見たリーダーと思われる男が指示を出す。
すると、盗賊達は一斉に撤退を始めた。
一応、その程度の統率力はあるらしい。
「逃がすかよ」
だが、見逃してやる気は無い。すぐに刀を納刀して短剣に手を掛ける。
しかし、アリナに手を掴まれてそれを止められてしまった。
「……何故、止める?」
アリナに視線を移して尋ねる。
「もう戦意は無いんだし、これ以上は良いでしょ」
「…………」
前方に視線を戻すと、盗賊達は撤退していなくなっていた。
「エリュー! こっちは片付いたよー」
そこに別行動をしていたシオンが戻って来た。
そう、シオンと別行動をしたのは、南東にいたボウガンを持っている盗賊を片付けてもらうためだ。
不意を突いて遠距離から攻撃されると面倒だったからな。
「そっちも片付いたみたいだね」
「……ああ」
転がっている盗賊達の死体に視線を移しながら言う。
そして、シオンもそれに釣られるように盗賊達の死体に視線を移した。
「あれ? 人数が足りないね。取り逃がしたの?」
シオンが死体の数を数え直しながら聞いて来る。
「ああ。ちょっとな。…………」
「どうしたの、エリュ?」
「いや、何でも無い」
そう言いつつアリナの方に視線を移す。
「…………」
しかし、アリナは無言のままだ。
俺とアリナとの間に気まずい空気が流れる。
「片付いたようね」
と、ここで馬車で観戦していたエリサが歩いてこちらにやって来た。
「まあ、一応な」
「もう依頼は終わったんだし、街に戻ったらどう? 今から戻れば今日中に戻れるはずよ」
気まずい空気を察したのか、話を振って流れを変えようとして来る。
「それもそうだね。みんな、後処理だけして帰るよ」
アリナが切り換えて指示を出す。
だが、それを遮るようにエリサがアリナの前に立った。
「死体は私か片付けておいてあげるわ。日が落ちる前にさっさと帰ると良いわ」
どうやら、死体はエリサが片付けておいてくれるらしい。
「良いの?」
アリナが確認のために聞き返す。
「ええ、それぐらいは構わないわ」
「そう。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうね」
どうやら、方針は決まったようだ。
「それじゃあみんな帰るよ」
「分かったよ」
「分かりました」
「はい、分かりました」
そして、後処理をエリサに任せてそのまま馬車に乗って帰路についた。
しばらくするとエリュとシオン、『
盗賊達の死体とエリサだけがその場に残される。
(もう良いわよ)
エリサは魔力探知で辺りに誰もいないことを確認したところで、魔法で交信して彼女を呼んだ。
「確かに、そうじゃな」
呼ぶと彼女はすぐに空間魔法で転移して来た。
「それで、どうだった? フェルメット」
早速フェルメット、彼らに連れと言っておいた者に尋ねる。
「そうじゃの……お主の言う通り、中々面白そうな者ではあったな。ニシシ」
フェルメットが相変わらずの不敵な笑みを浮かべながら言う。
「お主はどう思うのじゃ?」
フェルメットは魔法を使ってその場で五十センチメートルほど浮き、足を組みながら聞き返す。
「そうね……気になることは多いけど、まだ底が見えないといった感じね」
「ほう?」
「盗賊達と対峙したときは明らかに雰囲気が違ったし、それに伴って魔力のコントロールの精度が大幅に上がっていたわね」
以前に見た彼らはこのような様相は見せなかった。
少なくとも、以前に見たときはその力の全てを出していなかったようだった。
そもそも、本気を出すまでもない相手だったことには間違い無いが、そういう問題では無い。
「そうじゃな。して、それをどう見る?」
「魔力のコントロールの精度が上昇したのは、集中力の上昇によるものと見て間違い無さそうね。となれば、気になるのは何故、盗賊と対峙したときにあれだけ集中力を発揮したのかという点だけど……」
「まあ結局そこじゃろうな」
どうやら、彼女も同じようなところ辿り着いていたらしい。
「その点に関してあなたはどう思うの?」
今度はエリサが聞き返す。
「結局のところは意志の問題じゃな。妾の見立てによるとあやつらの過去に関係している、と言ったところかの」
「あなたもそう思うのね」
(私もそう思ったけど、彼女がそう言うのなら間違い無さそうね)
「して、あやつらは次はどう動くと見る?」
「そうね……盗賊の討伐依頼を受けて来るでしょうね」
まだ依頼にはなっていなかったが、依頼が出されるのは時間の問題だ。
そして、先程の彼らの様子からすると、依頼が出されればその依頼を受けると見て間違い無い。
「そうか。では、妾は奴らの拠点近くであやつらが来るのを待つことにするかの」
「今日みたいに観察するつもり?」
目的はほぼ分かり切っているが、一応聞いてみる。
「当然じゃ。妾は先に向かっておくが、お主はどうするのじゃ?」
「私は彼らの様子を見に行くわ。思った通りに動くとは限らないしね」
「そうか。それにしても、同じ魂を持つ二人か……ニシシ。やはり、興味深いの」
フェルメットはそう呟くと、
「さて、私も死体を片付けないとね」
そして、彼女が飛び立って行ったところで、エリサは盗賊達の死体の処理に手を付けた。
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