episode45 観戦
しばらく歩いたところで、レーネリアに制止させられた。
どうやら、探していたレッサーワイバーンが見付かったらしい。
「この先にいます」
「全部で何体いるか分かる?」
アリナがその詳細を尋ねる。
「全部で十体ですね」
どうやら、十体もいるらしい。単体でもあれほどの戦闘能力があるというのに、あれが十体もいるのか……。
「意外と多いね。うーん……」
そう言うとそのまま考え込む素振りを見せる。
作戦でも考えているのだろうか。ひとまず、その様子を見守ってみる。
「行けそうか?」
流石にこの数は厳しいのだろうか。少し聞いてみる。
「ただ倒すだけなら問題無いんだけど、この数だと二人まで見てる余裕が無さそうかな」
問題は俺達のことまで見る余裕が無いということだった。
そうなると、俺達は安全なところで待機して、観戦するのは諦めた方が良さそうだな。
「二人のことは私に任せてくれれば良いわ」
そこで口を開いたのはエリサだった。
「でも、大丈夫? レッサーワイバーンと戦ったことはある?」
アリナがエリサに対して戦闘経験について尋ねる。
言われてみれば、エリサが戦っているところを見たことが無いので、彼女の実力がどの程度なのかが不明だ。
「それなら大丈夫よ。レッサーワイバーンぐらいなら問題無いわ」
「うーん……そうは言ってもね……本当に大丈夫?」
そう言われても、実際にその実力を見せてもらったわけでは無いので、全面的に信用することができないのだろう。
実力の無い者にこの役目を任せるわけにはいかないので、慎重になっているようだ。
「それじゃあ試してみる?」
エリサがそう言って構える。
「たぶん大丈夫だと思いますよ」
だが、そこでレーネリアが割って入るようにして言った。
「そうなの?」
「魔力を抑えて隠しているので正確な実力は分かりませんが、少なくともレッサーワイバーン程度であれば簡単に倒せるぐらいの実力はあると見て間違い無さそうです」
どうやら、魔力を抑えて実力を隠しておくということが可能らしい。
「レリアがそう言うのなら大丈夫かな。それじゃあエリュとシオンはエリサに付いていてもらって」
「分かった」
「分かったよ」
言われた通りにエリサの方に付く。
「それじゃあみんな行くよ」
「おっけー。サクっと片付けちゃうよ」
「はいっ!」
「ええ、行きましょう」
そして、方針が決まったところでレッサーワイバーンのいる方向へと向かった。
少し歩いたところで、レッサーワイバーンの群れを発見した。
数えてみると、事前に言っていた通り、ちょうど十体いた。
「俺達はこの辺りで待機させてもらう」
ひとまず、俺達はエリサと共に観戦できる位置で待機する。
「いつも通り私が最初に行くから、みんなお願いね」
アリナが剣を掲げてパーティメンバーを鼓舞するように言う。
「こっちはいつでも行けるよ」
ステアが両手に短剣を構える。
「はいっ! 行きますよ!」
ミリアがそう言ってアリナとステアに補助魔法を掛ける。
「こちらもいつでも行けます」
レーネリアが魔法を詠唱して詠唱待機状態で構える。
詠唱待機状態というのは詠唱を完了させておいた状態を維持しておいて、いつでも魔法を放てる状態にしておくことだ。
ただ、上手く魔力のコントロールをしないと術式が霧散したり、暴発してしまうので、意外と難しい。
だが、レーネリアはいとも容易くやってみせている。
そして、準備が整ったところで、アリナが剣と盾を持ってレッサーワイバーンの群れに突っ込んで行った。
「っっええぇぇーーい!」
叫び声を上げながら一番近くにいたレッサーワイバーンに斬撃を放つ。
「グルァァァーーー!?」
その斬撃は容易くレッサーワイバーンの鱗を斬り裂いた。
続けて、斬り裂いた部分から心臓部を狙って突きを放つ。
すると、その一撃は正確に心臓部を捉えて一体目のレッサーワイバーンを仕留めた。
(やはり、魔力強化の精度が俺達とは違うな)
俺達では柔らかい皮の部分を傷付けるのがやっとだったが、アリナは簡単にその皮を斬り裂いている。
「グルギャァァーー!?」
その直後、槍状の細い炎が三体のレッサーワイバーンの心臓部を貫いた。
もちろん、それを放ったのはレーネリアだ。同時に三つの魔法を使ったのも関わらず狙いは正確で、全て心臓部を捉えていた。
(火力もさることながら魔力のコントロールの精度も非常に高いな)
そもそも、同時に魔法を使うこと自体が難しいのに、それらを全て詠唱待機状態にしておいた上で放った魔法の狙いも正確だ。
魔力のコントロールの精度の高さが窺える。
「グルアアァァーーー!」
ここでレッサーワイバーン達がやられっ放しでは終わらないと言わんばかりに反撃に出る。
「グルァーー!」
威嚇するように叫び声を上げてアリナを左翼で殴り付ける。
それに対してどう対応するのかと思ったら、なんと彼女はそれを盾で真正面から受け止めた。
かなりの威力のはずだが、ほとんど押されることなく受け止めている。
「そんなもの……効かないよ! ええぃ!」
そして、その左翼をそのまま押し返した。
「グオッ!?」
攻撃を押し返されたレッサーワイバーンは態勢を崩す。
「隙ありだよ」
そこにアリナの後方で様子を見ていたステアが素早く接近して、短剣で眼に向けて斬撃を放つ。
「ギィアアァァーー!」
その斬撃は右眼を捉えて、右眼を斬られたレッサーワイバーンが大きく怯んだ。
「アリナ、任せるよ」
ステアはそう言って後方に高く跳んで道を空ける。
「任された!」
アリナはそう言うと剣と盾を地面に突き立てて手放して、大剣を鞘から抜いた。
そして、そのまま大剣を後方に引いて構えつつ接近して、大振りの一撃でレッサーワイバーンの頭を斬り飛ばした。
「アリナ、受け取って」
直後にステアが地面に突き立てられた剣と盾を引き抜いて、アリナに投げ渡す。
装備を渡されたアリナは手早く大剣を鞘にしまって、そのまま剣と盾を受け取って装備する。
(かなり連携が取れているな)
お互いに動きが噛み合っている良い連携で、もう半分が片付いてしまった。
パーティを組んでいるとだけあって、かなり慣れているな。
「グルァ!」
だが、レッサーワイバーンはまだ半分残っている。
ここで二体のレッサーワイバーンがアリナに向けて火球を放った。
アリナは盾で防いでいるが、外れた火球が他のメンバーを襲う。
そして、その内の一つが一直線に俺達のいるところへと飛んで来た。
「こっちに飛んで来るよ!」
シオンが騒がしく声を上げるが、普通に避ければ良いだけなので慌てる必要は無い。
ひとまず、射線から外れるために移動しようとしたが、そのときエリサが俺達を庇うように前に立った。
「全く、騒がしいわね」
エリサはそう言って右手を前に突き出す。
そして、何をするのかと思ったらその手の平で火球を受けて、そのまま火球を握り潰してしまった。
「おー! 何か炎が消えちゃったよ!」
シオンが驚いた様子で声を上げる。どうやったのかは分からないが、あの火球を簡単に防いでしまった。
それは良いのだが……。
「と言うか、大丈夫なのか?」
流石にあの火球を直接手で受けて無事では済まないと思うのだが、大丈夫なのだろうか。
「ええ、この程度なら何の問題も無いわよ」
そう言って右手の手の平を見せてくるが、火傷の跡一つも無い。
「今回は観戦しに来たのでしょう? 戦闘はまだ終わってないわよ」
「そうだな」
そう言われて戦闘の方を見てみると、アリナがレッサーワイバーンの頭部に剣を突き立てて一体を仕留めたところだった。
「行きます!」
どうやら、レーネリアの魔法の準備が整ったらしい。前衛のアリナとステアが射線が通るように左右に別れる。
そして、そこにレーネリアの魔法が再び炸裂した。先程と同様に槍状の細い炎が三体のレッサーワイバーンの心臓部を貫く。
「グルル……グルァッ!」
だが、ここで最後の一体が戦況の不利を悟ったのか、逃げ出すように飛び上がってしまった。
「あー! 逃げるなー!」
ステアが飛び立ったレッサーワイバーンに向かって叫ぶが、気にすることも無くどんどん上空へと上がっていく。
「全く……仕方が無いわね」
そう言うと、エリサは爆風を巻き起こしながら上空に跳び上がった。
一跳びで上空二十メートル近い高さまで跳び上がったが、それでもレッサーワイバーンのいる高さには届かない。
そこからどうするのかと思ったら、なんとそこからさらにもう一度跳び上がった。空中にも関わらずだ。
そして、そのままレッサーワイバーンの上を取って、闇魔法と思われるもので右手に真っ黒な闇を纏って、叩き付けるように頭部を殴り付けた。
攻撃を受けたレッサーワイバーンは勢い良く落下して、そのまま地面に叩き付けられる。
「…………」
レッサーワイバーンの様子を確認してみるが、もう動くことは無さそうだ。
そして、ここで上空に跳び上がっていたエリサが下りて来て着地した。
「手間掛けさせるわね」
「いやー、助かったよエリサ。あのまま逃げられていたら面倒なことになっていたよ」
ステアが謝意を込めて言う。
「ありがとう、エリサ。助かったよ」
「ありがとうございます、エリサ」
続けてアリナとレーネリアも一言礼を言う。
「本当に強かったんですね」
ミリアが感心した様子で言った。
エリサが戦闘をするところは初めて見たが、レッサーワイバーンを一撃で倒せるほどの実力はあったようだ。
「ねえねえ、あの空中でジャンプするのってどうやってやったの?」
シオンが興味津々な様子で尋ねる。
確かに、それは少し気になるな。
「あれは多分、風魔法だと思いますよ」
その質問に答えたのはレーネリアだった。
「ええ、そうよ。知っていたのね」
「ええ。私も練習しているので」
一見そんなに難しいことはしていないように見えるが、あれだけ魔力のコントロールに長けたレーネリアが練習するほどに難しいらしい。
「そんなに難しいのか?」
「ええ。ある程度狙った方向に跳ぶのであれば難しくは無いのですが、正確に狙った方向に跳ぼうと思ったら、加減を少しでも間違えると思った方向に飛べないので」
どうやら、ああ見えて加減が難しいらしい。
「さて、話はそのあたりにして、みんな後片付けをするよ」
そう言えば、まだ後片付けが残っていたな。
そして、リーダーであるアリナの指揮の下でレッサーワイバーンの死体の後処理を進めた。
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