episode40 デザートバード

 準備ができたところで窪地にそのまま飛び降りる。

 窪地は十メートルほどの高さがあるが、魔力強化で身体能力を強化しているので、この程度の高さから飛び降りるぐらいなら平気だ。


 ここで一度デザートバードについての情報を整理することにする。

 デザートバードは砂漠や荒野に生息している体長が一・五メートルほどの鳥の魔物だ。

 活動範囲も同様に砂漠や荒野に限定されているので、レッサーワイバーンのように他の地域に出没することは無い。


 また、基本的に単体で行動することは無く、数体程度の群れを作って行動する。

 そして、鳥の魔物である以上、当然飛ぶので、Fランクの魔物よりも討伐は難しく、Eランク推奨の魔物に指定されている。


 素材に関しては、肉が食用になり、羽根は服の素材になる。

 そして、嘴は武器や防具の素材にならなくもないと言ったところだ。


(デザートバードに関しての情報はこんなところか)


 デザートバードに関しての情報はこのぐらいで良いだろう。

 俺達は窪地に着地したところで、討伐対象のいる中心付近に向けて一気に駆け出す。


 そして、こちらが駆け出すと同時にデザートバード達がこちらの存在に気付いた。


「こちらに気付いたようだな」

「だね」

「キィッ!」


 五体のデザートバードが一斉にこちらを振り向く。


「はっ!」


 そこに挨拶代わりに短剣を投擲するが、すぐに地を蹴って飛び立たれてしまったので当たらなかった。

 俺はすぐに他の短剣を鞘から抜いて構え直す。


「キィィーーーッッ!」


 デザートバードは俺達のことを威嚇するように、翼をバサバサとはためかせながら鳴き声を上げる。

 だが、そんなことでこちらは驚かない。そこを魔法銃で狙い撃つ。


「キィッ!?」


 頭部に銃撃を受けた二体のデザートバードが地に落ちる。

 そのまま残った三体にも続けて銃撃を加えるが、すぐに羽ばたいて上空へと移動されてしまった。


(この距離だと当てられそうにないな)


 二十メートルほどの距離を取られてしまったので、魔法銃で撃ち抜くのは難しそうだった。

 一応、シオンが撃ち落そうとしているが、全て避けられてしまっている。

 このぐらいの距離なら撃ち落とすことができるだろうと思うかもしれないが、この魔法銃は意外と弾速が遅いのと、距離に応じた威力の減衰が大きい。


 と言うのも、魔力の弾丸自体があまり安定しておらず、すぐに霧散してしまうからだ。

 術式を改良して安定性を上げられればもっと威力も射程も上げられるのだが、術式の改良は難易度が高いのでうまく行っていない。


「シオン、無駄撃ちは止めろ」


 撃つだけで魔力を消費するからな。無駄撃ちは避けるべきだ。


「でも、どうするの? この距離だと当てられないよ?」


 シオンの言う通り、この距離だと魔法銃でも攻撃を当てられない。

 もちろん、短剣を投擲しても届かない。


「ならば、向こうから降りてくるのを待てば良い」


 確かに、こちらからの攻撃が届かないが、それは向こうも同じだ。

 なので、こちらに攻撃しようと思うと降りて来る必要がある。


「そうするしか無さそうだね」


 上空に居られると攻撃が届かないので、降りて来るのを待つことにした。

 こういう場面であれば、やはり刀を使うのが良いだろう。他の武器をしまって刀に手を据えて居合斬りの構えを取る。


「キィィーーーッッ!」


 デザートバードは鳴き声を上げてその場で大きく二回羽ばたくと、翼を畳んで一気に急降下して来た。

 そのまま真下に降下して、地面に激突する直前に翼を広げて地面のすれすれを水平飛行する。


 そして、その体をドリルのように回転させながらこちらに突っ込んで来た。

 一体はシオンの方に、残りの二体は俺の方に突っ込んで来る。


 真正面から突っ込んで来るが、このまま斬ると死体にぶつかられるので、必要最小限の動きで避ける。

 そして、その後から突っ込んで来たデザートバードを左足を引いて左を向きながら躱して、すれ違い様に居合い斬りで真っ二つに斬り裂いた。


 倒したところで、すぐに納刀して次に備える。

 ここでシオンの方を一瞥して確認するが、逆回転のベリーロールで躱すと同時に、器用に空中で居合い斬りを放って真っ二つに斬り裂いていた。

 これで残りは一体だ。


 その最初に俺の方に突撃して来た一体は、大きく弧を描いてターンして再び俺の方に突っ込んで来る。

 そして、真っ直ぐと直線に突っ込んで来たところに短剣を投擲して、最後の一体を仕留めた。

 速度が残っているので、慣性のままにそのまま突っ込んで来るが、それをサッと躱して戦闘を終えた。


「終わったね」

「そうだな」


 最初に投擲した短剣を回収しながら返答する。

 確かに、Fランクの魔物よりかは強かったが、大したことは無かったな。

 一応、デザートバードはEランク推奨の魔物の中では強い部類に入るらしいが、特に苦戦することもなく倒すことができた。


「大したこと無かったね。この調子ならDランク推奨の魔物も行けるかな?」

「そうとは限らないと思うぞ?」


 FランクとEランクとでは大して差は無いらしいが、EランクとDランクとの差は大きいらしい。

 と言うのも、Dランク推奨の魔物を相手にするには、魔力強化をある程度は使いこなせないと厳しいからだ。

 ルミナによると、Fランク冒険者でもEランク推奨の魔物を相手にするのは十分可能らしいが、Eランク冒険者がDランク推奨の魔物を相手にするのは、相手にもよるが厳しいらしい。


 特にレッサーワイバーンを相手にするのはまず無理だと言っていた。

 ちなみに、レッサーワイバーンはDランク推奨の魔物の中では一番強い魔物らしい。


「それで、どうする? もう馬車を停めてる場所に戻る?」


 シオンがこの後の予定を聞いて来る。


「そうだな……もう少し倒しておくぞ」


 これだけで帰るのも何だからな。折角ここまで来たので、もう少し倒して稼ぎたいところだ。


「分かったよ。それじゃあ探しに行こっか」

「ああ、そうだな。……と言いたいところだが、その前にこれらを片付けないとな」


 早速探しに行きたいところだが、その前に先程倒したデザートバードの後処理をする必要がある。

 なので、まずは後処理をすることにした。


「それもそうだね。それじゃあ早く片付けよっか」

「ああ。とりあえず、その辺りに纏めて……む?」


 シオンに指示を出そうとしたそのとき、北方から何かの気配がした。

 すぐに北を向いて確認すると、地面には三つの影があった。

 どうやら、上空に何かがいるらしい。

 そして、短剣を右手に構えつつ上空を見ると、三体のデザートバードがこちらに向かって飛んで来ていた。


「シオン、構えろ」


 シオンに指示を出しつつ、短剣を左手に逆手に構えて迎撃体勢を取る。


「探す手間が省けたね」


 そう言いつつシオンも俺と同じように短剣を両手に構えた。


「来るぞ!」


 そして、シオンが構えると同時にデザートバード達が急降下して来た。

 三体が固まって俺達に向かって突撃して来る。


「……シオン?」


 だが、シオンの構え方には違和感があった。

 そう言うのも、何故か左手を下ろして右手をデザートバードを正面に捉えるように前に出しているのだ。


 とりあえず、シオンのやりたいことはすぐに分かった。

 恐らく、魔法を放つつもりなのだろう。俺はどう転んでも対応できるように構えておく。


 そして、シオンはこちらに向かって来るデザートバード達に向けて火魔法を放った。


「キィッ……」


 放たれた火の玉は真ん中にいたデザートバードに直撃した。

 だが、残りの二体は怯むことも無く、そのままシオンに向けて突っ込んで行く。


「シオン!」


 左手に持った短剣を手放して、空いた左手でシオンの服の襟の後ろの部分を掴んで引っ張り、それと同時に庇うようにシオンの前方に出る。

 そして、右側から来たものを短剣で、左側から来たものを左腕で受け流すようにして外側に弾く。


「そのまま伏せていろ」


 旋回して再びこちらに突っ込んで来たところを、右手に持った短剣を振りかぶって右側から来たデザートバードに投擲して、そのまま右手を刀に据えて構える。

 すると、投擲した短剣は狙い通り右側のデザートバードの頭部に直撃した。

 そのデザートバードはそのまま地に落ちて、残った速度で地面を滑る。


 そして、残った一体を間合いに入ったところで、居合い斬りで斬り捨てて戦闘を終えた。


「エリュ、大丈夫!?」


 シオンが起き上がりながら心配そうな様子で声を上げる。


「ああ。安心しろ。大丈夫だ」

「でも、左腕から血が出てるよ」


 受け流した際に少し切ってしまったので出血しているが、傷は浅いので問題は無い。


「この程度なら問題無い」


 そう言って右手を傷口にかざしてある魔法を使う。

 すると、傷口が少しずつ塞がって完全に傷が無くなった。


 そう、今使ったのは回復魔法だ。ルミナから回復魔法は教えてもらっていたので、この程度の怪我であれば問題無く治すことができる。


「おー! 凄ーい! もう治ちゃった」

「ああ、そうだな」


 実際に使ったのは初めてだったが、無事に使えて一安心だ。

 それは良いのだが、やはり事前に聞いていた通り、瞬時に治るというわけではないようなので、戦闘中に回復するのは少し難しそうだ。

 なので、回復魔法を使えるからといって、ダメージを受けても安心というわけでは無さそうだ。


「……エリュ、ごめんね。ボクが慣れないことをしたばっかりに」


 シオンが珍しく申し訳無さそうな態度を取る。


「気にするな」


 幸いにも大した怪我にはならなかったからな。シオンのためならこの程度はどうってことはない。


「さて、今度こそ後処理をしないとな」


 それはそうと、後処理をしようとしたところで襲われたので、まだ後処理の方に手を付けられていない。


「そうだね。とりあえず、一か所に集めておけば良い?」

「ああ」


 そして、投擲した短剣を回収して後処理の方へと移った。


「…………」

「……? どうしたの、エリュ?」


 前触れも無く唐突に手を止めた俺の様子を見て、シオンが不思議そうにしながら聞いて来る。


「……いや、ちょっとな」


 ほとんど問題も起きずに順調に事が進み、無事にデザートバードの討伐を終えた。

 何一つ問題無いように思えるが、何と無く嫌な予感がするのだ。


(先程襲って来たデザートバード達は偶然、俺達を見付けて襲い掛かって来たのか?)


 普通に考えればそうなるのだろうが、何故だか確信を持てない。

 なので、襲って来たときの様子を思い出してみる。


 しかし、思い返してみても不審な点は見当たらない。

 やはり、単なる気のせいなのだろうか。

 だが、そう思ったそのとき、北方から何かが近付いて来る気配がした。


「シオン! 今すぐにここから離脱するぞ!」


 俺の直感がそうした方が良いと告げている。

 なので、すぐにこの場から離脱しようとした。


 だが、決断するのがあまりにも遅すぎた。

 俺がこの場を離脱すると宣言した直後、上空に一つの影が姿を現した。

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