episode10 厚意のままに
「ここが二階よ」
現在、俺達は二階の案内をされている。
一階は店舗に倉庫、客間、物置があるぐらいだったので、案内はすぐに終わった。
「あ! ルミナさん、下の方の案内は終わったのですか?」
声を掛けて来たのは夕食の準備をしているミィナだった。
「ええ。後は二階だけよ。夕食の準備は……まだ時間が掛かりそうね」
「そうね……夕食の準備はまだ三分の一ぐらいしか終わってないわ」
ミィナと一緒に夕食の準備をしているリーサが肉を焼きながら答える。
「二人とも家事を任せっ切りで悪いわね」
「いえいえ、お気になさらず」
「ここに住まわせてもらっているし、このぐらいのことは当然よ」
どうやら、家事はミィナとリーサが担当しているらしい。
まあルミナは左腕が無いからな。家事はあまりできないのだろう。
「では、案内の続きをするわね」
そう言ってルミナは施設の案内を再開する。
「ここは見ての通りリビングよ」
最初に紹介されたのは階段を上がってすぐのこの部屋だった。
リビングとは言っているが、リビングダイニングキッチンと言った方が正しそうだ。
部屋の中央より少し手前の場所にはソファーとテーブルが置かれている。
ソファーはこちら側を空けるようにコの字型に三つ置かれていて、その中心にテーブルは置かれていた。
そして、部屋の左側には本棚がある。ここに魔法に関しての本があるのだろうか。
また、キッチンはこの部屋の一番奥で、その手前にあるテーブルが食卓だと思われた。
部屋の右側とキッチンには扉があり、二階の他の部屋へと繋がっているものだと思われる。
「他の部屋も案内するわ。こっちよ」
そう言ってルミナは部屋の右側にある扉へと向かった。俺達もその後に続く。
扉を開けてリビングを出ると、そこは廊下になっていた。
目の前には三つの扉がある。
「それぞれ右から順にお風呂、洗面所、お手洗いよ」
どうやら、この世界にも風呂は存在しているらしい。
シャワーだけかとも思ったが、そんなことは無かったようだ。
「奥には物置と個室があるわ。空き部屋に案内するわね」
「ああ」
そして、そのまま空き部屋のある場所へと案内される。
「空き部屋は三つあるから、好きなところを使って良いわよ」
見ると、部屋はいくつかあった。廊下の左側には四つ、右側には三つの部屋がある。
左側の一番手前の部屋は物置なので、個室は六つだ。
一番奥の二つの部屋がそれぞれルミナの部屋とミィナとリーサの部屋らしい。
左側の奥から二番目の部屋は今は人がいないが、空き部屋ではないようだ。
「随分と空き部屋が多いな」
「もう少し従業員を雇うつもりで建てたのだけれど、見ての通り従業員はミィナとリーサだけよ」
「それで部屋が余ってるんだね」
「まあ足りないよりかは良いだろう。……それで、シオンはどの部屋にするんだ?」
「そうだね……空き部屋の中で一番近いここにするよ」
そう言いながら物置の隣の部屋の扉を開ける。
そして、部屋の中を見てみるが、中は何も無い空っぽな部屋だった。
部屋は個室にしては大きく、四メートル四方はある。
恐らく、一人一部屋ではなく一部屋当たり三人前後泊めるものとして設計したのだろう。
「何も無いね」
「そうだな」
「家具は物置に余っているのがあるから、各自で運び出してね。物置はそこよ」
そう言ってルミナは物置を手で指し示す。
「分かった。……さて、俺はどの部屋にするか……」
そして、俺は自分の部屋を決めようとして部屋の外に向けて歩き出そうとした。
だが、ここでシオンが俺の腕に抱き付いて来ながら呼び止めて来た。
「折角だし一緒の部屋にしようよ!」
「流石にそういうわけにはいかないだろう」
そう言って拘束を解こうとするが、シオンはより強く抱き付いて来る。
「エリュ、ボクのこと嫌いになっちゃった?」
「そんなわけはないだろう」
「じゃあ一緒の部屋で良いよね?」
「何故そうなる」
一緒の部屋だと問題もあるだろうし、何よりルミナに止められるだろう。
そう思っていたのだが……。
「二人とも随分と仲が良いのね。部屋をどうするかは二人に任せるわ。私は地下での作業があるから行かせてもらうわね」
そう言ってルミナは立ち去って行ってしまった。
「これで一緒に暮らせるね。えへへ♪」
「はぁ……とりあえず、家具を運ぶぞ」
「うん♪」
そして、上機嫌なシオンと共に部屋に家具を運び入れることにした。
「とりあえず、全部運び終わったね」
シオンと協力して家具を運んで、必要な家具は大体運び終わった。
物置には魔法道具と思われる見たことの無い道具もあった。
興味はあったので、できれば調べてみたいところだったが、結局それらには触らないようにしておいた。
物置にそのまま置かれているぐらいなので危険な物ではないだろうが、用途が不明な以上は触らない方が良いだろうからな。
それはそうとして、だ。
「これで全部ではないだろう」
「ん? これで全部だよ?」
「……ベッドが一つしかないのだが?」
必要な家具はいずれも二人分運んで来たが、ベッドはまだ一つしか運んで来ていない。
「そうだね」
「そうだね、ではないだろう」
と、そんなやり取りをしていると、こちらに近付いて来る足音が聞こえた。
そして、その足音が俺達の部屋の前で止まると、勢い良く部屋の扉が開いた。
「お二人とも夕食の準備ができましたよ!」
元気な声で颯爽と登場したのはミィナだった。
どうやら、夕食の準備ができたらしい。
とりあえず、続きは後にした方が良さそうだ。
「分かった。シオン、行くぞ」
「うん」
そして、そのまま三人でリビングへと向かった。
リビングへ向かうと食卓には料理が並んでいて、そこでルミナとリーサが待っていた。
「二人とも部屋の方は準備できた?」
リビングに入ったところで、ルミナが準備が終わったのかどうかを聞いて来る。
「ばっちり終わったよ」
それに対してシオンは元気良くそう答えた。
まだベッドが一つしか用意できていないのだが、面倒なのでここは突っ込まないでおく。
「では、夕食にしましょうか。二人も座って」
「……良いのか?」
「今更何を言っているのよ。遠慮は要らないわ。早く食べましょう」
折角の厚意を断ることも無いだろう。その厚意に感謝しつつ、いただくことにする。
「……感謝する」
俺は少し目線を外しながら小声でそう呟く。
そして、そのまま空いている席にそっと座った。
「みんな座ったわね。それじゃあ……」
「「「いただきます」」」
その一言と共に一斉に食事を開始する。
まず、夕食のメインはステーキだった。
ただ、何の肉なのかは分からない。
付け合わせとしてじゃがいものような物が添えられている。
そして、スープは澄んだ燈色で、見たところ肉と野菜のスープのようだった。
また、メインがステーキなので主食は米かと思いきやパンだ。
もしかしたら、この世界には米が存在していないのかもしれない。
とりあえず、ナイフを入れてステーキを一切れ切り分けてみると、肉はかなり柔らかかった。
ほとんど力を入れなくても切れるほどだ。
そして、切り分けた一切れを口へと運んだ。
すると、少し噛んだだけで濃厚な旨味を溢れさせながら溶けるように消えていった。
「……うまいな」
その味は絶品と言う他なかった。
「これすごく美味しいよ! こんなに美味しい物は食べたことが無いよ!」
興奮気味にシオンが声を上げる。
言われてみれば、こんなにおいしい物は食べたことが無かったかもしれない。
今までは基本的に不味くなければそれで良いといった感じだったからな。
「あたし達料理は得意なんだ」
ミィナが自慢気に言う。
「ステーキなんて焼けば良いだけだから、別にそうでもないわよ」
リーサはそう言うが、絶妙な焼き加減や味付けでかなり料理上手なことが分かる。
付け合わせも食べてみるが、ステーキに合うように味付けされていた。
また、スープは肉と野菜の旨味がしっかりと出ていて、これもまた絶品だ。
そして、あっという間に全て平らげてしまった。
「ごちそうさま~♪ とっても美味しかったよ!」
「お粗末さまでした」
「ところで、何のステーキだったんだ?」
「レッサーワイバーンだよ。それも一番美味しいと言われている部位のステーキだよ」
それはかなり高価な物だったのでは?
そう考えると、本当に食べてしまっても良かったのだろうかと思うが、遠慮しても仕方が無さそうなので、これ以上は気にしないことにする。
「それじゃあ食器を片付けるね」
食事が終わったところで、ミィナが食器を片付けようとする。
「いや、それぐらいは俺達にやらせてくれ」
だが、ここまでしてもらうのは悪いだろう。
食器洗いぐらいなら俺達でもできるので、手伝いを申し出る。
「洗浄機の使い方は分かる?」
「洗浄機?」
食洗機のような物だろうか。使い方が同じなのであれば問題無いが……多分違うだろう。
「……あたしがやるから気持ちだけ受け取っておくね」
「悪いな……」
結局、俺達は何もすることができず、ミィナとリーサが食器を片付けたのだった。
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