第48話 エビ退治
「カイさん、『メッセージの水晶板』、爆売れです! 当初想定した、恋人一歩手前の顧客層だけでなく、夫婦やステディな恋人たちにも売れていますよ。価格も、思い切って安めにして普及を狙ったのがよかったかもしれません」
「俺も、ベリアルさんとの通信用に、1セット買ったからな。1組8000Gは安いよ。急なパーティ欠席の連絡も容易にできる」
ちなみに、ベリアル隊は、メンバーの欠席には文句はつけず、欠席があった場合は、残りのメンバーで狩れる依頼をやったり、ダンジョンの浅い階層で稼いだりすることになっており、わりと自由に休みが取れる仕組みでした。リーダーが家族思いのベリアル故のルールなのかもしれません。急な休みを一番よく取るのが、リーダーのベリアルなのですから。
グレコを呼び出して悪いかもというカイの心配は杞憂に終わりました。
「量産もほぼサラにまかせっきりだしな。月給は2万Gに上げたけど、これはさらにボーナスを出す必要があるかもね」
カイも満足げな顔です。
(当初のターゲットは、恋人一歩手前の顧客層だったのか・・・むふふ)
なんだかんだ、その後、毎日、カイとメッセージのやり取りをしているグレコでした。まあ、既読してスルーすると、その後のカイが怖いという理由もありましたが。
「ボーナスより、また社員旅行がいいです!」
「前回はカニだったが、今回はどうするんだ」
「エビです! 冬でも温暖なライン半島では、海の幸がふんだんに味わえるんですが、この季節は『一斉エビ』が旬なんです」
「そのエビはモンスターなのか?」
「いえ、普通に漁師さんが網で捕まえますよ。ただ、体長は50cmぐらいあるものもいて、海中ではまばらに生息しているんですが、一斉に砂浜に上がってくるときがあるんです。そのときは、一斉に人間の体にまとわりついて、はさみで攻撃してきてちょっと危ないという話です」
「じゃあ、狩りではないし、武器防具は基本いらないか。『カシムの剣』や『悪魔の黒鎧』は、一般の街中では目立ちすぎるんだよ」
「カイさんは魔道具箱は持っていってください。現地で宿の人とかに、営業できるので」
(慰安旅行先でも販路を広げる気だ、この子)
グレコはその商魂に感心しつつ、今回は気楽そうだと一安心です。
さて、ライン半島にやってきた一行は、宿を取りました。高級レストランも兼ねていて、食事も出してくれるお店です。
食事の時間まで浜辺を散歩することにしました。冬の海は寒いですが、潮風に湿り気があって、気持ちいいのでした。
「今日は一斉エビの在庫がなかったのが心残りだな」
グレコが言いました。宿の食事メニューは、その日採れたての海産物によるおまかせコースで、今朝は残念ながら一斉エビが採れなかったので、おあずけとなったのです。
「自ら狩れば、と言っても海の中か・・・って、あれ、なんかわしゃわしゃしたやつが海から走ってくる!」
「グレコさん、あれが一斉エビです」
「20匹はいるぞ。ほんとに一斉に来た!」
「嫌われ者の指輪 +8」
「カイ、今日の俺は装備なしなんだぞ。しかも、+8って、おまえ、さてはエビのわしゃわしゃに弱いな?」
嫌われ者の指輪に誘われて、エビが一斉にグレコの体に群がります。
「うわぁ~、なんかわしゃわしゃしてキモい。あと、はさみがわりと痛い!」
「眠りの杖 +5」
眠りの魔法は、グレコもろとも一斉エビたちを巻き込んで、まとめて眠らせてしまいました。
「ふう、これで一安心だ」
カイが額をぬぐって言いました。
「カイさん、これで食べられそうになかった一斉エビが食べられますよ! 私、宿の人に報告してきます」
そう言って、サラはそう遠くはない宿までかけて行きました。
カイは、エビまみれのグレコを遠巻きに見下ろしながら、この様子を『念写』の魔法で残せたら面白いだろうなと考えていました。『ドラゴンスレイヤー兼デーモンスレイヤー、エビに負けるの図』。念写の魔法は今は失われた古代魔法なので実現性は低いですが・・・
また、カイに新製品のアイデアが浮かんでしまったようですね。
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