第42話 名剣

 グレコは、グレーターデーモンを倒して手に入れた剣を持って、武器屋を訪れていました。


「親父さん、これ、ダンジョンの第10層で宝箱から見つけた剣なんだが、正体わかるかい?」


「む、鑑定料500G」


「相変わらず、がめついなぁ。ほらよ」


 武器屋の親父さんは、剣を鞘から抜いて、しばらく眺めたり、軽く降ったり、刃を撫でたりしていました。そして、言いました。


「グレコ、お前、とんでもないものを拾ったな」


「え、そんなに良いものなの?」


「ばかめ、知らんのか! これは『カシムの剣』だ。古代の刀匠カシムが、今は滅びたエルフの魔法技術まで注ぎ込んで作った名剣の一本だ。今では、武器自体に魔法を付与して特殊効果をもたせた剣が魔法剣としては一般的だが、カシムの剣は、純粋に切れ味を魔法で鍛え上げた正真正銘の名剣だ。戦士としてこれ以上の剣に出会えることは一生のうちにまずない」


「本当かよ」


「ミスリルソードと打ち合えば、ミスリルの方が刀身を切断されるぞ」


「信じられん・・・」


「まあ、ちょっとそこの丸太でも切ってみろ。いや、おまえは突きが得意だったか。突きでもいいぞ」


 そういって、武器屋の親父さんは、店の軒先に試し切り用に立ててある丸太を顎で示しました。丸太は直径30cmほどもあるものです。

 親父さんからカシムの剣を受け取ると、グレコは丸太の前に立って鞘から抜き払いました。

 ダンジョンで見つかる武具にはときに呪いがかかっていることがあるので、呪いを警戒していて、カシムの剣を鞘から抜いたのはこれが初めてでした。


 すると、まずは、その異常な軽さに驚きました。ミスリルよりも軽いのです。刀身の長さは、それまで使っていたミスリルソードよりも若干長くなっていました。それでも軽いとは、一体どんな金属を使ってあるのでしょうか? あるいは、魔法の力なのでしょうか?


 グレコは、カシムの剣を、軽く丸太に対して振り抜きました。すると、直径30cmの丸太がなんの抵抗もなく両断され、真っ二つになったのです。


「う、嘘だろ・・・切った手応えすらほとんどなかった・・・」


 続いて突きを放ってみました。


 軽く後ろ足を蹴ってステップし、体重移動だけで丸太に向かって突きを放つと、刀身は吸い込まれるように丸太を貫通していき、グレコが着地したときには、刀身の中ほどまで丸太に突き刺さっていました。さらに、抜こうとするとスルッと抜けます。普通、木に突き刺さった刃物は、木の繊維に挟まれて抜きにくくなるものなのですが。


「たしかに・・・これは魔法だ。魔法の剣だ」


 親父さんは、感心したように言いました。


「まさに伝説の名工カシムの切れ味だ。龍の鱗すら切断することだろうよ」


「なあ、これどうしたらいいの? 領主に献上とかしたほうがいいの?」


「あほか、自分で使えばいいだろう。ダンジョンで悪魔を倒して、おまえが拾ったんだから、そりゃおまえのものだ」


 後日、グレコはベリアルに、カシムの剣の処遇を相談しましたが、自分で使えということで一蹴されました。


 どうやら、グレコは、また強くなってしまったようです。ドラゴンスレイヤーとデーモンスレイヤーの両方の名を冠した戦士として、ふさわしい名剣を手に入れてしまいました。

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