第40話 遭難2

 第二回廊の終わりに、玄室の扉がありました。


 蹴り破って乗り込めば、強敵との戦闘が開始されます。


「準備はいいか?」


 ドアを蹴破る役目のグレコが聞きます。メンバーたちは、皆、目で了解の合図をしました。


「行くぜ!」


 扉を蹴破って飛び込んだ玄室には、一瞬、何もいないように思えました。


 しかし、瞬間、空間に薄暗い亀裂が走り、その中で、青白い稲妻が走ります。


 ザザが叫びました。


「悪魔の実体化です! この大きさと瘴気は・・・グレーターデーモン?!」


 グレーターデーモンは最強クラスの悪魔です。しかも、浮かび上がった悪魔の影は5体分。


 ベリアルが叫びます。


「グレーターデーモンにも窒息の魔法は効く! 作戦に変更はなしだ。各種呪文攻撃を警戒!」


 ベリアルが言い終わる頃に、グレーターデーモンの実体化が完了しました。青白い体に爬虫類を思わせる肌。人の形はしていますが、大きく割れた口に生えた牙と、手足に伸びる鋭い爪は、殺戮を喜びとする生き物であることを主張していました。


 メンバー内でもっとも素早いラシャが、速攻で、窒息のダガーを起動させます。


 5体の悪魔の周りから酸素が奪われますが、倒れたのは1体だけでした。しかし、窒息の魔法がグレーターデーモンに効くことは確認されました。


 最も前にいた悪魔が、その前腕の爪をグレコに突き立てようと、飛びかかってきました。グレコは、すでにミスリルの盾でも防御不可能と考え、すぐさま鉄化の指輪を使いました。鋼鉄化したグレコの腹部に爪が突き刺さろうとしますが、魔法の鋼鉄にはじかれて、不発に終わります。鉄化が解けたグレコはすぐにバックステップで距離をとります。


 そこで、まだ動いていなかった残りの悪魔たちの前に、光が集まり始めました。悪魔が魔法を放つ兆候です。


「鉄化の杖!」


 ベリアルが初めて使うとは思えないほどの絶妙のタイミングで、鉄化の杖を起動させました。パーティ全員が鋼鉄化します。


 そこに、数瞬遅れて、グレーターデーモンが発動させた吹雪の魔法が襲いかかります。鉄化が遅れていたら、一瞬で全身が凍るほどの猛吹雪でした。しかし、魔法は5秒ほどで打ち止めになります。


「鉄化 解除!」


 ベリアルが鉄化を解除しました。


 最後尾で、カイが動きました。正直なところ、今まで見たこともない巨大な悪魔の姿、ダンジョンの外でのグレコとの比較的安全な狩りでは相対したことのないプレッシャーに気圧されて動作が遅れていたのでした。しかし、ベリアルの鉄化の杖によって、自分の魔道具がこのような悪魔にも通用することを確認し、勇気が湧いてきたのです。


「窒息の杖 +8」


 カイが放った窒息の魔法は、ラシャの窒息のダガーの数倍の速度で、悪魔の周辺から酸素を奪い、さらにはその巨体の血液に残る酸素成分も奪い去りました。


 4体のグレーターデーモンが、どすん、どすんと、相次いで倒れました。


 ベリアル隊は、グレーターデーモン5体の群れに勝利したのでした。


「か、勝ったのか・・・?」


「ああ、やったぞ!」


 歓声を上げるベリアル隊のメンバーでした。


「本来、ダンジョンの魔物は冒険者ギルドへは持ち帰らないのだが、これは転送印で送っておこう。悪魔の素材は希少だし、我々がデーモンスレイヤーとなった証拠になる。いきなりグレーターデーモンが飛んできたら、ギルドの係は驚くだろうがな」


 ベリアルがグレーターデーモンの遺体を転送印で処理していきました。


「宝箱は?」


 さきほどまで、命からがらだったはずなのに、盗賊根性のすわったラシャは宝箱を探します。宝箱は玄室の奥に隠されていました。


「ベリアル、罠の鑑定をやってもいいかしら?」


「どうだろう、カイ殿、帰還が優先だとは思うが、冒険者の性というのもあってね」


「癒しの杖も、浄化の杖もある。私が作った罠透視の魔道具が活躍する様も見てみたい。やってみたまえよ」


「そうこなくちゃ」


 ラシャは罠透視の後に、調査をかけて、罠はガス爆弾のようだと推定しました。パーティ全員を毒状態にする厄介な罠です。


「毒なら浄化の杖で全員でも治せる。解除に入ろう」


 ラシャは無事、ガス爆弾を解除し、宝箱が開きました。金貨は8万Gぐらいあるようです。そして、一本の剣が。正体は不明ですが、ダンジョンの深い階層で見つかる武具は魔法の装備の可能性もあります。


 グレコは、その剣を持ち帰ることにしました。


 玄室の奥の方には、帰還用のテレポーターが設置されていました。メンバーがそこに入ると、皆、転移魔法での脱出が可能な第10層の入り口に立っていました。


「では、帰ろう」


 ベリアルが最後まで温存していた座標計測の魔法で、ダンジョン出口までの方位と距離を測り、カイが転移の魔道具を使って、ベリアル隊は無事ダンジョンを脱出したのでした。

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