第35話 窒息のダガー

 カイが窒息のダガーを製作している間、ダガーをカイの店に預けたグレコのパーティは冒険に出られずに暇となり、休暇を取っていました。


 ベリアルは家族サービスに勤しみ、ラシャはどこかエステにでも行っていましたが、問題はザザです。


 用もないのに魔道具屋に来ては、サラとおしゃべりをしていくのです。


「なんと、ボーイフレンドが5人もいるですと。それは罪深い。今ここで、ただ一人の愛する人に心を定めることをおすすめしますよ。えっ、誰をただ一人にするかって? それは決まっています、このザザに・・・うぶわしっ!」


 それを妨害すべく、グレコはいちいちザザに付き添って、同じくカイのお店に行くのでした。


 まあ、グレコも暇があったら、カイの店に行くので、その点はザザとあまり変わらないのですが、一応、グレコには幼馴染で赤字補てんのパートナーという特権的地位があるので、それを笠に着ることができるのです。


「ザザよ、お前も、たわわな12歳を口説くつもりなら、まずは店の商品でも買ってやってはどうだ」


「じゃあ、探魂の首飾りをひとつ」


「僧侶のお前は自分でその魔法使えるだろ!」


「いえいえ、日夜連発するとなると、冒険時に使う魔力が温存できなくなるのでね」


「なんで日夜連発する必要があるんだ」


「逆に、探魂妨害の魔道具があれば欲しいですが」


「やましいことがあるんだな・・・それは俺も欲しいが、カイは絶対売ってくれないだろうな」


 サラは簡易な魔道具の量産の作業もあるので、グレコがザザの相手をしてくれている間は、工房に引っ込んでいます。


「あと、夜の生活のスタミナをアップさせる魔道具とか」


「目的について問いただしたいことはあるが、回復魔法でなんとかならないのか」


「いやあ、戦闘用の回復魔法は、傷や打撲、筋肉疲労の回復はできるのですが、あっちの方は回復できないんですよ。ある意味、大事な夜の戦いだっていうのに」


「破戒僧という言葉は、お前のためにあると、俺は今わかったよ」


 こうして、グレコとザザは、馬鹿げた話で1週間を浪費し、窒息のダガーが納品される日がやってきました。


「これが『窒息のダガー』か・・・」


 グレコのパーティー・メンバー4人は、テーブルに置かれたダガーを皆で見つめました。


「魔法石の柄への取り付けは武器屋で外注した。ダガーを新調するときには、柄の部分をつけかえて、魔法石は換装が可能だ。魔法石の色は盗賊職の性質上、隠密性を考慮して黒にしておいたぞ」


「気が利くわね。さすが、グレコのカイさん」


 カイは特にその部分は否定せずに、使い方を説明します。


「起動呪文は『窒息のダガー』だ。クールタイムは7秒。窒息の魔法は酸素で呼吸をしていないアンデッド・モンスターなどには効かないので注意せよ。まあ、そのへんの魔法の詳しいところはベリアル殿に教えてもらうことだ」


 ベルアルは代金を支払いました。


「さて、1週間サボった分と、窒息のダガーへの投資分を取り返さないとな」


「なにを狩りに行く? さっそくドラゴンいっちゃう?」


「馬鹿者。まずは手頃な相手で新しい連携スタイルを確認・確立するんだ。カイ殿、魔道具の製作、まことに感謝する。必ずや、この魔道具で当パーティの名を上げてみせよう」


「うむ、期待しておる。しかし、くれぐれも無理はしないようにな」


「わかっているさ。君の大事な人の命は、責任を持って、リーダーのこの私が守ると誓おう」


 カイは、珍しく微笑みを見せて、言いました。


「ベリアル隊の前途に、祝福のあらんことを」

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