第14話 鉄化の指輪4

「あんたなんか大嫌い! +5」


 カイが後ろから、嫌われ者の指輪の効果を発動させると、ゴブリン・チャンピオンはグレコに向かって襲いかかりました。手には大型の剣を持っています。


 グレコは、左手の円盾で剣の軌道をずらして、回避します。小型の円盾はバックラーとも呼ばれ、攻撃を受け止めるのではなく、軌道をそらして防御するのが基本的な使い方なのです。


 そして、隙きをみて、右手のブロードソードを突き出します。しかし、ゴブリン・チャンピオンの実力は高く、突きは体をひねられてかわされてしまいました。もともと、普通のゴブリンの5倍の背丈があるゴブリン・チャンピオンは、グレコの1.5倍ほどの身長があり、リーチの長さが違うのです。リーチが短いグレコは不利と言えました。


 そんな戦いをカイは後ろから見守っていました。本来なら、炎の杖で攻撃したり、眠りの杖で敵の動きを止めて援護したいところですが、グレコが一騎打ちで、鉄化の指輪の効果を試したいと言っているのです。そして、試したい気持ちは製作者であるカイも同じでした。グレコが大きなダメージを受けてしまったら、すぐに援護回復できるように、魔道具を手に持って見守ることにしたのです。


 そんな中、グレコの盾が、ゴブリン・チャンピオンの下段からの振り上げによって弾かれ、左脇腹が大きく空きました。これを機と見たゴブリン・チャンピオンは、上段の剣をひるがえして、横薙ぎにグレコの脇腹を切り裂こうと剣を振りました。


 その瞬間、鉄化の指輪が起動しました。グレコは起動呪文は唱えていません。頭の中で、無防備な脇腹を守るという意思を持っただけで、鉄化の魔法が発動したのです。意思だけで魔道具を起動するのは、他の意思と混ざって誤起動することを避けるために高度な術式の制御が必要ですが、カイの技術は確かでした。


 瞬間、無敵の鋼鉄の塊と化したグレコの左脇腹にゴブリン・チャンピオンの剣が命中しました。しかし、グレコの体はびくともしません。剣をはじかれて大きく体勢を崩したゴブリン・チャンピオンに、0.5秒で鉄化が解けたグレコの剣が逆に襲いかかります。一気に間合いを詰めた渾身の突きが、ゴブリン・チャンピオンの腹に深々と突き刺さりました。


 グレコは剣を素早く引き抜くと、さらに一閃。腹を抑えてうずくまったゴブリン・チャンピオンの頭部に上段から剣をふるい、とどめを刺しました。


「ふぅ~、わざと脇腹を空けるフェイントがうまく決まったな」


「グレコ、見事だったぞ」


「まあな、俺の剣技を見て惚れ直したか?」


「惚れ直すも何も、一度も惚れてもいないのだが?」


「・・・」


「それに見事だと言ったのは、鉄化の指輪の性能のことだ。製作したのは私だが、アイデアを出したのはお前だからな。希望の仕様通りに動くのは私の場合は当たり前だから、アイデアは見事だったと言ったのだ」


(嫌われ者の指輪を使うと「ツン」がひどくなる気がする・・・)


 せっかくの勝利の余韻も、カイのツンツンぶりにあてられて霧散してしまったグレコでしたとさ。

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