星を映す瞳
「エラの瞳は吸い込まれるような色だ。とても、綺麗だね」
そう、エリック様が言う。
どんな色だろう。私も知りたいから透き通る泉に自分の瞳を映すも、よく見えない。
「私の瞳は、どんな色なのでしょう」
「どんな色? そうだな……。この星空が透ける雲のようかな」
「…………そうなんですね」
夜空を見上げて、あんな色なのだなと、初めて知った。
「可笑しなことを言うね。鏡ぐらい見たことあるだろう?」
エリック様はふふふと優しく笑う。
可笑しなことなのだろうか。
「聞いたことはありますけど……。すみません。見たことなくて」
「え……?」
自分の姿が映るという鏡。町にある綺麗な硝子よりもハッキリと自分の姿が映るらしい。
だが己の生活には必要無い。そもそもそんな高価なもの買う余裕もない。
なんて恥ずかしい。
きっとエリック様みたいな方にとって当たり前に持っている代物なのだ。いっそのこと知ったかぶりで聞き流していればそれで済んだかもしれない。あぁあの鏡ですね、と。
けれど、この方に嘘を付く方が、私にとって難しいことだった。
「っ……そうか。では今度、君に鏡を贈ろう」
「えっ。いえ、あ、そんな、その様に申したわけでは……!」
どうやら物乞いをしていると勘違いされてしまったらしい。
そう勘違いされても仕方ないのだが、己は高貴な御方に恐ろしく卑しい事を言ってしまった。
焦って取り繕うも、そんな私を見て彼はまた困ったように笑う。
「いいや、良いんだよ。私がエラに贈りたいんだ。解るかい? 君にプレゼントしたいんだよ」
「あ、え、贈る……? っでも、私なんかに贈ったところで……そんな、お返しも、出来ませんし……」
「エラ。女性は受け取るだけで良いんだ。男性が女性に贈り物をするのはとても普通の事なんだよ」
「そう、なんですか……?」
「ああ! だから今度、受け取っておくれ。押し付けがましいと思われるかもしれないけどね」
「そんな事! っあの、すごく、本当はすごく嬉しいです……」
「! そうか。なら、良かった」
何てお優しい方だろう。こんな私にまで贈り物を下さって。
きっと今が人生で一番幸せな時間なんじゃないかと、そう感じてしまう程に。
嗚呼、次の満月もどうか、晴れますように。
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