狼の声 2
マリィは、森へ向かって歩いた。
赤い目が、そこここに光る。狼の目だ。それも、魔力を持った、魔獣ともいうべき魔女の犬だ。
……何匹いるんだろう。
怖い。
でも……でもこれを越えなくては。悪魔に送ってもらうのが無理なら、物理的に越えなくては。
森に近づき、一歩、一歩と歩を進める。あと、一歩。思った以上に甲冑が重い。
ごくり、と喉を鳴らしながらゆっくりと、森の中に足を踏み入れた。
暗い。足元がよく見えない。これで走ったら、すぐに木の根や石に引っかかって転んでしまうだろう。
思った以上に、花が咲いていない。やっぱり、この森を抜けるしか。
震える腕で、ナイフを構えたまま、ゆっくりと進む。
襲って……こない……?
そう思った瞬間。
目の前で、アオーーーーーーーーンとどこまでも響く遠吠えが聞こえた。
「あ……!」
目の前を見ると、赤い瞳が光っているのが見えた。
こんな近くに……!
よく見ると、周りに赤い光がいくつも見えた。沢山の唸り声が……聞こえた。耳にまとわりつく、声。
囲まれて……!
考える間も逃げる間もなく、1匹の狼が襲いかかってくる。
グワッと腕にかぶりついてくる。
「きゃああああ」
勢いで、ナイフがどこかへ飛んでいく。
籠手に牙が突き刺さる。
「いやあああ」
狼に振り回され、兜が外れ、落ちていく。振り回された方の手が、籠手と手袋から外れた。
2匹目の牙が……。
というところで、バンッと大きな音が、目の前で弾けた。
痛く……ない……?
何かにつかまれ、引っ張り上げられる。もう片方の籠手も、どこかへ落ちていく。
あ……これ……、悪魔さん……?
最後に残った胸当てごと、服のようなものに押し付けらる。抱きかかえられる感覚。
揺さぶられる中で、ギャオン!という悲鳴が上がる。
狼と……戦って……?
大きな手の中で、胸当てごと服に押し付けられる。胸当ても大きく、視界が遮られた。かかえられている手の隙間から覗くと、凄い形相の狼が、飛びかかってくるのが見える。
「うあぁっ……!」
思わず悲鳴を上げると、頭の上から声が聞こえた。
「ごめん、ちょっと我慢して」
「あ……」
悪魔が右手を振り、狼の頭にバン!と当たる。
また、守ってくれてるんだ……。
幾度も叩きつけるような音がして、静かになる。それでも、抱きかかえられたまま、暗い中で、じっとしていた。
右手で、倒した狼をぶら下げているみたいだった。
「……魂は入っているようだけど。さてどうだろう。腹の中で魔力が暴発しなければいいけど」
なんていう独り言を言いながら、悪魔は口の中に、狼を運んだ。ごくり、と一飲み。
「…………!」
狼を食べて……しまった……。
驚いている間に、腕を持ち上げられ、胸当てがゴロンと落ちた。ふわっと浮く感覚がして、両手で掴まれる。周りはよく見えなかったけれど、空へ飛び立ったのがわかる。
何度かふわりと浮く感覚の後で、悪魔が、どこかへ座った。
抱きかかえられたまま、腕から頭だけを出した。思いの外、ぎゅっとつかまれる。落ちないようにしてくれている……。
「わ……ぁ……」
屋敷の屋根の上だった。
頭上には満点の星が広がる。数えきれないほどの。空にこんなにも星が光っているとは思ってもみなかった。夜空に包まれているようで、目の前がチカチカした。マリィの瞳は、映る世界を綺麗に見せた。
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