人間の真似事 3

 午後になり、子供達が空腹を告げる頃、皆で屋敷へ戻った。

 戻るなり、庭でハリスが転げまわる。

「あっはははははは」

「ハリス?どうしたんだ?」

 マクスウェルが呆れた顔をし、悪魔が助け起こした。

「だって……こんな姿なのに、悪魔そのものなんですもの……」

 と言いながら、悪魔の顔を見て、また笑い転げた。

「確かに、いつもと同じだよね。いつもと同じなんだ。手つきも、こっちを見る顔も。知らない顔のはずなのに、確かに知っている人でしかないから面白いんだ」

 少年二人も、くすくすと笑った。

「そんなにおかしい?」

 ハリスの顔を見ると、ハリスがこちらを見て、ハッとした顔をした。

「いつも……そんな顔で見てたのね」

 悪魔はジト目でハリスを見ていた。

 悪魔の姿でわかることもあるが、実際表情が見えるわけではない。

 ……だから嫌なのだ、人間の姿になるなんて。

 そのあと、3人の頼みで、お茶会のテーブルに一緒につくことになった。

 テーブルには、もうすっかり、いつもより上等なお菓子やケーキやサンドイッチなどが所狭しと並べられていた。

「チキンサンドが美味しいよ、食べてごらん」

「お兄ちゃん、このカップケーキもいつもと違うの。見て」

 必死で食べている横で、マロイはスケッチに勤しんでいた。

「悪魔、お茶のおかわりはいるかい?」

「ああ、ありがとう。マクスウェル」

「…………」

 少しの沈黙のあと、マクスウェルは小さな声でこう言った。

「本当に、兄弟が増えたみたいだ」

「…………」

 ふっとマクスウェルの方を見る。

「ううん、もうずっと兄弟だったみたいだ。ずっと一緒だった人が、こんな人だったってわかって、嬉しいんだ」

「……こんな人?」

「今日は表情が見えるから。……いつもの姿でも、ずっと一緒にいるから、大体どう思ってるかわかる、けど。いつも以上に君と近くにいられて嬉しいんだ」

 首を傾げると、耳の横に流れた髪が、頬をくすぐった。くすぐったい。少しだけ。

 ……だから、表情が見えるのなんて嫌なんだ。

 サンドイッチをつかみ、口に入れた。いつもより口が小さいのを感じたが、特に不都合もない。指についたマヨネーズを舐めたところで、3人がこちらを見ていることに気づいた。

「あ……なん……」

 何か問おうとしたが、言葉にはならなかった。ただ、3人から目を逸らす。

 また、少年二人はくすくすと笑い、ハリスは口をあんぐり開けたままこちらを見ていた。

 そんなのんびりした午後だった。

「ねえ悪魔!」

 ハリスが立ち上がってにっこりと言う。

「私と踊りましょう!」

「え……ああ、いいよ」

 二人で、庭の真ん中へ立った。

 目の前のハリスに、手を差し出す。

 アリシアと練習したダンスが、こんなところで役立つとは。

 手を繋ぐと、二人にっこりと笑った。

 ハリスはくるくるとまわり、ポーズを取る。ハリスは興奮しているのか、いつも以上にはしゃいでいた。

 地についた足。いつもより近くにある3人の顔。青い空の下で、僕らはステップを踏んだ。

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