侵入者


 夜だった。

 バチン!と大きな音がした。アリシアの部屋の窓だ。

 ただし、屋敷の窓にはどこも障壁をつけてあるので、壊れる心配はない。

 屋根の上へ出て、周りを見渡す。

 見たことのない男が、屋敷のそばにある木に登っているのが見えた。どうやら、その男が矢で攻撃してきたもののようだった。

 見渡して、他に仲間がいないことを確認し、後ろからその男に近づいた。

 上から「わっ」と驚かすと、木から落ちそうになったので、足をつまんでぶら下げた。

 アリシアの部屋からベランダへ出てきたのは、意外にもサウスだった。

「ふぅぇぇぇぇ」

 アリシアの方は、怖がっているのか、不思議な声を出してサウスの後ろに控えていた。

「お……お……おばけ?幽霊?」

 そーっと外を覗く。

 すでに悪魔と同居していて、幽霊の何が怖いのか。

 サウスは震えながらも、剣を構えて先陣を切ってきたのだった。

 男の持っていた残りの矢を取り上げ、弓を振り落とすと、ベランダまで持っていく。ぶら下げたまま、二人の前に差し出した。

「……こいつが襲撃者なの?」

 アリシアは、理解したと同時に態度を変えた。

 腰に下げていた鞄も振り落とし、中身をぶちまける。

 アリシアは、一つ金でできたメダルのようなものを見つけ、拾い上げる。

「これは……、ロイ商会の……」

 商会の人間であるという証になるメダルだった。今なら、アリシアをやってしまえば、地主になれるとでも思ったのだろう。

「問題ないならこのまま処分するよ」

「…………問題ないわ」

 そのまま、意識を手放したその侵入者を、ぱくりと食べてしまう。

「…………」

 アリシアとサウスの二人に少し、暗い影がよぎった。

 しかしそれも一瞬で、アリシアの目が、柔らかくなる。

 アリシアは、サウスに向き直った。

「勇敢だったわね、サウス」

「……はい、アリシア様のためなら」

「ありがとう」

 アリシアは、真っ直ぐにサウスを見た。

 悪魔はぼんやりと、アリシアとサウスを眺めた。

 それから何ヶ月か経った頃。

 サウスはアリシアと、小さな庭にいた。

 雑草のような花が大量に咲き乱れ、ツタだらけだったところをサウスが少し手入れした場所だ。

 サウスには庭いじりのセンスも知識もあまり持っていなかったが、それでも手を入れないよりはマシといった風情だった。

「アリシア様。あなたは……悪魔と……一緒にいたいのでは……」

「…………」

 うつむいて沈黙したあと、アリシアは聞き取れないほどの小さな声を出した。

「……そんなわけ…………ないじゃない…………」

 うつむいた顔は、まるで苦いものを口にしたような顔をしていた。

 嘘が嫌いなアリシアにとって、嘘の味はとても苦い。

「………」

 サウスは少し寂しそうな顔をしたあと、アリシアの前にひざまずいた。

「じゃあ、わたしが求婚したら……、受け入れてもらえますか」

 土がむき出しになっている地面で、膝が泥に汚れた。

「あ…………」

 ちょっと寂しそうな顔をしたアリシアは、そのままの瞳でにっこりと笑った。

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