人の住む場所 2

 3人での生活が続いた。2年ほど経ったある日、アリシアが、悪魔の前に立ち塞がった。

 確かに、このところ剣の稽古が頻繁になっていた。

「また、勝負して欲しいの」

「なんでまた?」

 稽古をつけていればわかる。以前よりは強くなったけれど、悪魔と対等に渡り合えるほど強くはない。

「……この土地が欲しいの」

「土地が?」

「ここからほど近い村に、魔女が来て……。人がたくさん死んでしまった。それにあの土地では……向こう数年……もしかすると10年以上は農作物は取れないわ。この城の周りなら……」

 魔女、ね。

 人間では、魔女には敵わないから仕方がない。

「このままでは……食糧不足にもなりかねない」

 人間と関わるとこういう日が来ることはわかっていた。

 人間は多い。どれだけ死んでも絶滅しそうにない種だ。あまり、人間が死ぬことに感傷的にはなれない。

 しかし、悪魔に感情がないわけではない。

 命が長いとはいえ。

 人間がその人生の中の、たった数年、たった数日、たった1日の出会いを心の中にしまっておくように、悪魔も短い出会いを心に残すこともある。

「いいよ。来なよ」

 もうすっかり自分のもののように扱っている剣を手にする。

 城の前の石畳の上で、二人は剣を振るった。

 太刀筋は格段によくなったが、それだけだ。アリシアはあまり剣の素質がない。

 カン、カン、カンと派手に剣をいなすと、アリシアがよろめいた。体勢を立て直し、向かってくる。

 けれど、結局、そう何度もやりあわないうちに決着はついた。

「負けを……認めるわ」

 これが、最後の勝負だった。

 こんな戦い、もともと遊びでしかない。

 もともと決着はついていたのだから。

 どれだけ勝つことができても、追い返す気にも食べる気にも、もうなれなかった。

 地面にひざまずきながら、アリシアはキッと視線を上げた。

「私の……魂をあげる」

「…………」

 思ってもみなかった言葉に、少し面食らった。ささやかな風に、木々が騒めく。

「私は、いなくなってもいいの。あとはサウスに任せる。私の命と引き換えに、この土地をちょうだい」

「……魂を食べてしまったら、魂は無に還る。もう光に還ることはないよ」

「いいわ」

 躊躇のない目だった。

 わかっている。もうとっくに勝負はついている。

「じゃあ、君の魂をもらおう」

「ええ」

 それだけ言うと、アリシアは目を閉じた。

 覚悟をした、ということだろう。

「でも、今はお腹が空いていないんだ。欲しくなったときにもらうよ」

 アリシアは目を開き、まっすぐこちらを見た。

 じっと見て、そしてやっと、こちらの意図がわかったみたいだった。

「あ……ありが……とう」

 アリシアはぼろぼろと涙をこぼした。あの時と同じように。

 その日はとてもよく晴れた日だった。

 アリシアは、近くの町の商人と取引をしたり、農民を城に呼び寄せたようだった。

 まだ、町ができるほどではなかったけれど、家は何件も建った。

 それが、この町の始まりだった。

 この城と、それを取り囲む土地は、人間の土地になった。

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