第61話 虐殺ピクニックなのですよ♪

 マユの話を要約するとこんな感じだった。



 元々、マユは賢者の適性を持っていたらしい。

 この世界ではかなりレアな適性で、召喚勇者の中でもエース級と期待されていたのだが……。

 性格が優しいので戦闘訓練で魔物にトドメを刺せないという致命的な欠点があったらしいだんよな。


 で、訓練施設は相当に無茶をさせるところで、体育会系のダメなところを煮詰めたような場所だったらしい。


・鉄拳制裁

・連帯責任

・相互監視


 もう、無茶苦茶な状況で集団転移の面々の雰囲気も最悪だったらしい。

 オマケに宮本を筆頭に数人が脱走したとことから、更に施設内での締め付けが厳しくなった。


 そこで問題になったのが連帯責任だ。

 宮本達が脱走した直後から露骨に連帯責任と相互監視の圧力が厳しくなって――そこでマユが矢面に立たされた。



 マユが魔物を殺すことができないというヘマをやらかす度に、連帯責任という名目で全員への鉄拳制裁で……それはもうエラいことになったらしい。

 そうして、仲間からの恨みを持たれたマユは、とある魔物討伐の実践訓練の際に、事故に見せかけて奈落の谷底に突き落とされたって話だ。



 生死を彷徨うほどのケガにあったが、谷底で……とある村の近くに住んでいる変わり者の賢者にマユは救われたとのこと。

 そこで魔法の修行と平穏な生活が行われることになって一件落着と思いきや、事件が起きた。

 拾ってくれた賢者が病死したってことだ。



 で、その村の周辺は治安が悪かったんだが、マユの師匠である賢者が睨みを効かせてくれてたおかげでそれなりに平和だったらしい。

 当然の流れとして、賢者の病死と共に山賊やらの武装強盗団が村に手を出し始めるようになる訳だ。


 辺境の村と言う事で領主からも見捨てられて、このままで村自体が滅茶苦茶なことになってしまう状態になった。

 村民たちは、なけなしの貯蓄をはたいて冒険者たちを雇って山賊団の討伐に繰り出すことなる。


 で、マユも賢者の弟子ということで山賊達の討伐隊に加わったんだが――



 ――結果として、俺の小屋の近くで血まみれで倒れることになったって訳だな。








「うむ。やはりカレーは美味いのっ!」


 で、ニコニコ笑顔のコーネリアがカレーをおかわりしたところでマユの話は終わった訳だ。


「それでマユはどうすんの?」


「討伐隊も全滅しちゃったし、村は報復で大変なことになると思うんだ」


「まあ、そうなるだろうな」


「傷も癒えたし……戻らないと。勝てはしないまでも……みんなの為にできることが私にはあるはずだから」


 と、俺が何か言おうとしたところでウロボロスが首を左右に振った。


「ご主人様。僭越ながら――」


「どうしたんだ?」


「辞めておいたがよろしいかと」


「っつーと?」


「――私達には関係のないことでございます」


「って言ってもなァ……」


「この世界ではありふれた話でどこにでも転がっている話でございます。このレベルで手助けをしてしまうと収拾がつかなくなってしまいますよ?」


「まあ、そりゃあそうかもしれんが……」


 と、そこでコーネリアが俺に問いかけてきた。


「時にお前様」


「ん? 何だ?」


「今日のカレーはいつもとは一味違うの?」


「ああ、そういえばそうだな」


「うぬ? お前様が作ったのではないのか?」


 そこでマユがコクリと頷いた。


「インスタントコーヒーをほんのちょっとだけ隠し味に。あと、多分……ウチのカレーってニンニクが普通よりも多いから」


 コーネリアが大きく目を見開いて絶句した。


「お主……いや、お前様もまた……カレーを作れるというのか?」


「うん。ウチって早くにお母さんが亡くなったから。料理は私の仕事だったんだよね」


「インスタントコーヒーをカレーに……この発想は彼の地の住民以外にはありえん。やはりアレじゃの。カレーはあっちの世界の住人に作らせるに限るの」


 何やら一人で納得して、コーネリアはマユの肩をポンと叩いた。


「タツヤがおらぬ際は、お前様をカレー大臣に任命しよう」


 カレー大臣って何なんだよ……。

 で、話の流れ的にこれは……と思っていると、ウロボロスも俺と同じことを思っていたようでため息をついていた。


「えーっと……何じゃったかの? 山賊じゃったかの?」


「あ……はい」


 そうしてコーネリアは立ち上がり、拳を鳴らし始めた。


「話は決まったのじゃ! 今から出陣じゃっ!」


 ――その瞬間、山賊達の超絶オーバーキルが確定した。


「なんだか楽しそうなのですー♪」


「隊長殿っ! オヤツのニンジンは何本まででしょうかっ!?」


「ピクニックですー♪」


 ――その瞬間、山賊達の絶滅が確定した。


「ご主人様……家計の足しに山賊の財宝を持ち帰りましょう。やるからには根こそぎです」


 ――その瞬間、山賊達の破産が確定した。


「話は聞かせてもらったで! 村民達からも謝礼金をガッポリやっ!」


 ――その瞬間、村民達の感謝の笑顔が苦笑いになることが確定した。


「あ、私は留守番しますので。洗濯物が溜まっているんですよね」


「ボクは闘えないから」


 そうして、マリアとカティアを置いていく形で……魔王と愉快な仲間たちによる虐殺ピクニックが始まったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る