最初は、ファンタジー版『おれがあいつで、あいつがおれで』みたいな話かと思っていたのですが……。
勇者の体に乗り移ってしまった魔王。自らの体と魔力を取り戻すために魔族の総本部へ向かう……?
というストーリーなんですが、設定や伏線が細かくて、読みながら様々なポイントで「おっ」とさせてくれるので常に新鮮な、ワクワクした気持ちで読み進めることができます。
魔王としての矜持、己を取り戻す使命、そこに混ざる仲間への信頼や恋心なんかも混ざり……?
終始徹底して「オレサマ」な魔王テネブリスがとにかくかっこよくて、「人の上に立つにはこれくらいの器が必要なんだな」と感心してしまいました。多分ですが口調を除けば理想の上司。配下が慕うのも分かる気がします。
登場するキャラクターも色濃いです。なかなかの数出てくるのですが、どれもしっかりと特徴があって、設定を細かく練ったんだろうなぁ、と作者の思い入れを感じました。
理想のボスに出会いたいあなた。
テネブリス様に惚れ込んでみては?
最初の10話程度まで、これはコメディなのか?と思わせる部分が多々あり、仲間たちのやり取りが大真面目過ぎて、それがなまじコミカルに見えるため、勇者の皮をかぶった魔王と愉快な仲間たち、という進行するのかなと思わせておいて、実は重厚ファンタジー。
国と勇者、魔物と勇者、勇者と勇者…という感じで、勇者に対する色々な出来事が、中身が魔王という事により、良い意味でのアンバランスさ、かつ、意外性のあるシーンを構築しております。先が読めない点、どのように進行しているかも、どんどん想像がつかなくなっていくという。
仲間たちもただのテンプレキャラかと思わせておいて、深い人間性と過去をもっていたり、かなり厚みあり。
また魔王も、勇者とのギャップのせいで、最初はコミカルにさえ見えたその凄惨さが、魔王らしさを帯びてきて、迫力を増していきます。
通常は魔王VS勇者というのが王道路線ですが、魔王+勇者VS〇〇、となっており、その相手は人間であり、魔物であり…?一番世界を、ダメにしているのは?という所まで考えさせられていく。本物のルクルースの人間性や性格は、周囲の反応からしか推し量れませんが、中身がテネブリスでなければ解決できなかった事もあるようにも思え、彼が勇者の中にある意味すら考えてしまいます。
彼らの冒険に、どのような結末が待つのか。一味違う、勇者一行の物語をぜひご堪能ください。