第16話 赤鎚の鍛治師/ガイア・ガランド・コランダム
ついに全ての記憶を思い出したノルド。
だがノルドの状況は依然として変わりなく捕まったままだ。
「くっ……こんな鎖……!!」
「無駄だ! その鎖は魔獣用に作った特別製の鎖! いくらアンタでもそう簡単に……」
その瞬間、バキリと妙な音がノルドを拘束している鎖から鳴った。
「な、まさか!?」
「ぬぐぐぐぐぐ……!!」
見ればノルドの力によって、彼を拘束していた鎖が千切れそうになっていたのだ。
人間とは思えない力だ。これまでの実験で分かっていたが、まさかここまでの力だとはドワーフ達でさえ思っていなかった。
どうやら些か力を見誤っていたと反省し、ドワーフ達は口元に笑みを浮かべる。
「思った通りその力は凄い……! だが甘いぞ!!」
「な、に!?」
「お前が千切ろうとしているその鎖!! その鎖は――」
がしゃん!! と甲高い鍵の音が鳴る。
「――もう一本あるからなぁ!!」
「あっずりぃ!?」
流石は物作りに特化している種族。
予備はちゃんと用意されていたのだ。
「はっはっはっはー!! まだまだあるぞぉー!! ほれもう一本だぁ!!」
「やめろぉー!!」
「更にもう一本!」
「ぐあああああああ!!」
「はっはぁ!! もう動けまい!!」
体にどんどん鎖が巻き付かれ、最終的にノルドは頭だけ残してまるでミノムシのように体中に鎖を巻き付かれてしまった。
「ははははははは!! 大人しく体を調べられ武器を作らされるがいい!!」
「いや何してんだてめぇら!?」
『アイタァ!?』
邪魔もなくなった彼らは笑い声を盛大に上げて、自身の勝利を確信していた。
だがその瞬間、彼らの頭を小さい子供が工具で叩いたのだ。
「お、お嬢!? 一体どうしてここに!?」
「あぁん!? てめぇらこそウチらの恩人に何してくれてんだゴラァ!!」
「痛!? ちょ、やめてお嬢!! お嬢の腕力凄いんだから!!」
ずんぐりむっくりとした人間を小さい子供が張り倒している。
そんな光景を呆然と見ていたノルドに、サラがやってきた。
「大丈夫ノルド!?」
「サラァ!! 好きだ愛してるぅ!!」
「ごめんね! 遅くなって!」
「うん……うん……俺もう駄目かと思ったぜ……それとそのごめんねはどのごめんね?」
サラだけではない。
ノエルやヴィエラ、ノンナとキングもノルドを助けにこの場にやってきたのだ。
「ノルド! 今この鎖を斬るからね!」
「ありがとうノエル〜!!」
「気が付いたらサラに起こされてね……全く、元近衛騎士として不覚をとったわ……」
「うぅ〜頭が痛いのじゃ〜」
「ヘッ」
「くっ……キングの嘲笑が忌々しい……!!」
ノルドは別としてサラ達にも酒に混じって強力な睡眠薬を入れられていた。
だがドワーフ達の誤算として聖女であるサラがその手の物に対する耐性があるのを知らなかった。勇者が体外に対する強度を加護によって得られているのなら、聖女は毒物など体内に対する強度を持っているのだ。
「それで一番早く目覚めた私が皆を起こしたんだよ」
「えぇ、状態異常を治す奇跡を施して貰ったのよ。お陰で気分爽快だわ」
「その割にノンナが頭痛を起こしてるようだけど……」
「あの子はいいの、馬鹿だから」
「酷い!?」
ノンナが目を見開いて絶句する。
ノンナは酒によって先程まで胃の中の物をぶちまけていた。それ故かサラの異常回復を掛けて貰っても口の中に違和感が残っており、彼女は口直しに水を飲もうとしたのだ。
誤算だったのはその水が酒である事で、酒に弱い彼女は酔ってしまったのだ。更にはノルドを助けるために急いでた事もあって、サラから奇跡を掛けられず、尚且つ走ってきたため、こうして気持ち悪くなっていた。
「それで私達をここに連れてきてくれたのが……」
「……ん? おぉ! 解放されたか!!」
サラが指差すのはノンナより多少小さいぐらいの少女。
ドワーフ族の特徴である突き出た腹は子供だからか僅かに膨らんでいたその少女は、地面に伸びているドワーフを椅子にしてノルド達に笑みを浮かべていた。
「アタシの名前はレイヤ・マガラ・カイヤナイトだ! そして――」
彼女が自分の後ろに顔を向けると、そこに一本杖を持って歩く一人の老人がやってきた。
立派な髭を蓄え、他のドワーフと同様腹も突き出ている特徴から彼もドワーフなのだろう。そんな彼は地面に横たわっている同胞達を見て、目を細めた。
「お前ら……鍛治師としての誇りはないのか……?」
「お、親方……! で、でも俺達には時間が――」
「……黙れ」
「ヒィ!?」
親方と呼ばれた彼は同胞達から目を外すと、今度はノルド達に向かって頭を下げた。
「俺の名前は……ガイア・ガランド・コランダム……すまなかった、勇者の皆様方……!」
◇
場所は移り、ドワーフの長宅。
ここも穿壊魔竜によって壊されているものの、他のドワーフ達によって驚異的な速さで修復され、天井はないものの会話するのに適した空間になっている。
「本当に……すまなかった……」
「あぁいや、別にもういいぜ……アンタらの気持ちも分かるしな」
ノルド達のいる場所で察しているかもしれないが、ガイアはドワーフを纏める長の立場にいた。そんな彼らがノルド達に頭を下げている光景を見て、ノルドはこれまでの行いを許した。
「あぁ……ありがたい……」
「しかし、代わりと言ってはなんだが主らの事情を聞かせてもらえんかのう?」
「ノンナちゃん?」
ノンナの言葉にサラが首を傾げる。
そんな彼女にノンナがそう言った理由を答えた。
「変なのじゃよ。ドワーフらはあの魔竜に追われ、こうして里も被害を受けていた……しかし主らは里を捨てず、ノルドを使ってあの
「それって彼らの性分だからじゃないの?」
「あぁ確かに最初はワシもそれを考えておったぞヴィエラ嬢」
気性は荒く、黙ってやられる性格をしていないのがドワーフだ。
しかしそう考えても彼らにおかしいところはあった。
「ワシが宴会の席で魔竜が再び来るぞ、と言っても主らは驚かないばかりかまるで分かっていたかのような反応じゃった。恐らく、主らはあの魔竜がもう一度ここに来る事が分かっていたのではないか?」
そう推測したノンナ。
するとガイアは観念したかのように目を伏せた。
「流石……勇者パーティーに属する
「というと、やはり何か理由が?」
ノエルの言葉にガイアが首肯する。
「結論から言うと……あの
その一言に、勇者パーティーは目を見開いた。
レイヤ・マガラ・カイヤナイト。
ガイアの息子であるマガラの娘で、マガラがあの穿壊魔竜によって死んだ今、このドワーフの長を継ぐ事になる少女だ。
それが一体どうして、穿壊魔竜に狙われるのか。
それには彼女の秘密が関係していた。
「レイヤは……女神の加護を持っているのだ……」
「なんですって……?」
その言葉を聞いたヴィエラが勢い余って立ち上がる。
「姐御?」
「……あっ、いや……ちょっと驚いただけよ……」
そう言って、ヴィエラは椅子に座り直した。
そんな彼女の様子に訝しみながらも、ガイアの話を聞くためにノルド達は先程の光景を記憶の片隅に置き、引き続きガイアから話を聞く。
「おかしいのう、女神の加護は勇者と聖女にしか現れん代物……何故レイヤに女神の加護が?」
「俺にも分からん……ただ女神の加護は魔王復活と共に勇者と聖女に現れるもの……ならばそれに関係しているのかもしれない……」
レイヤが魔王討伐に関わる存在。
その可能性を示唆され、ノンナは頭の中を整理する。
「漏れがあるかもしれんが、これまでワシが調べてきた勇者物語に勇者と聖女以外の加護を持つ者はいなかった……となると女神が加護を授けるほど、今回の魔王は危険なのか……?」
「それとどうしてあのミミズがレイヤちゃんを狙う理由になるの?」
「サラ……元は魔獣は魔王が生み出した存在なんだ。だから僕達と同じ女神の加護を持っているなら、勇者や聖女と間違えてレイヤを狙っているのかもしれない」
ノエルの言葉にガイアが頷く。
詳しい理由は現時点で分からない。だが重要なのはあの怪物がレイヤの事を狙っている事だけは確かなのだ。
「……ならば、取るべき手段は一つじゃな」
「何かいい作戦があるのノンナちゃん?」
「うむ……同じ女神の加護を持つなら、ワシらと同行すれば良い」
それならあの穿壊魔竜と渡り合える実力を持つ勇者パーティーならレイヤを守れるし、ドワーフの里はこれ以上穿壊魔竜からの被害を受けなくても済む。
「駄目だ……!」
『え……?』
だがそれを聞いたガイアはなんと、首を振って拒否したのだ。
「……訳を聞かせて貰おうかのう?」
「……勇者様方であるあなた達の手前、言うのは憚れるが……俺達ドワーフは危険な魔王討伐のためにレイヤを差し出す事は……出来ない」
「ふむ、確かにワシらに言う内容ではないがな。しかし分かっておるのか? それは即ち、主らはあの穿壊魔竜を倒す以外の道はないのだぞ?」
確かに今の勇者パーティーでもあの穿壊魔竜を倒す事は出来ないだろう。
しかし退散させるだけなら今の彼らでも出来、将来的にはあの魔竜を倒せる可能性もある。だからこそドワーフの考えに苦言を呈するのだ。
「分かっている……だからこそ、そこの青年……ノルド殿の力が必要なのだ」
「……え、俺ぇ?」
急に話を振られたノルドが素っ頓狂な声を出す。
そんなガイアの話に割って入ったのはノエルだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! 確かにノルドはこのパーティーの中で随一の力持ちですが、流石に彼の力だけで穿壊魔竜を倒すには――」
足りない。
そう答える前に、ガイアは彼らの前にとある物を取り出した。
「……これって」
「……ガランドの親方が、ノルド殿のために作ったメイスの……柄だ」
曰く、ドワーフの同胞がノルド達の荷物の中にガランドのメイスを見てこっそり取り出したと言う。
「いや、何してんだよ!?」
「すまん……だがこの柄を見て、俺達は希望を見出したのだ……」
「希望……?」
「柄だけになっているが……それを見越したのかガランドの親方はこの柄に、俺らドワーフにしか分からない鍛冶理論の暗号を仕込んだ……」
それは、いつかノルドがドワーフの里に行くと思ったガランドが施した贈り物。穿壊魔竜どころか魔王ですら倒せる武器の理論が、この柄に詰まっていたのだ。
「俺の命を燃やしてでも……この理論を使ってノルド殿の……ノルド殿だけの武器を作って見せる……だから、どうか俺達の我が儘のために……力を貸してくれ……!!」
しわがれた声で、高齢のドワーフが頭を下げる。
みんながノルドとガイアを見守る中、ノルドの出した答えは――。
「いいぜ!!」
――期待を裏切らない物だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます