第48話 焼き鳥パーティ
なんやかやしていたら、兵士さんたちがみんな元気になったということでパーティを開くことになった。
初めは城だけで行う予定だったのだけど、どこから情報が漏れたのか都の人々が不満を溢し始めたために急遽都全体でやることになってしまった。
私はたくさんの人に焼き鳥が振舞われれば振舞われるほど嬉しいので、焼き鳥大量生産に闘志を燃やした。
だってこれで気に入ってもらえたら、帝国中に広まってくれるに違いない。
調理法を秘密にするつもりもないし、トリキの味を完全再現してくれる人がいたら先んじてトリキをオープンしてくれても……いや、それにはまだメニューが少なすぎる。
なんといってもアルコール類が圧倒的に足りない。
色んなことに思考がとっ散らかってて、最近あんまり飲み物に本気になってなかったからなぁ。
これがゲームだったら攻略サイト見て素材取りに行ったりするのに!
久しぶりに前世のあれそれに思いを馳せながら、都の料理人たちを呼び集めて焼き鳥レクチャーをした。
私は別に焼き鳥のプロでも何でもないから、料理人たちの方が上手く焼けるはずだと思っていたんだけど、そもそも肉をこんなに小さいサイズにカットして、串に刺しなんてしない人達。
くるくる回しながら全体を均等に焼いていくのは、いくら料理人とはいえ難しいらしい。
私が串を回すのを真剣な表情で見つめられる。
とはいえさすがはプロ。
数回焼いたところで何となくはコツを掴んだらしい。
焦がさずに中まで火を通すことは出来るようになってくれていた。
私がそれを出来るようになるまでどれほどの時を費やしたか……っ!
私はとりあえずそれぞれに百人前の材料とスマホ水晶を渡す。
パーティの最中に材料が足りなくなったら、電話してもらうことにした。
それぞれのお店の貯蔵庫に魔法陣を描かせてもらって、いつでも転送可能な状態にしておく。
私はその日は城の調理場と庭のテーブルを行ったりきたりする予定なので、その二ヶ所の間にある部屋を一室貸してもらって、そこにそれぞれのお店に繋がる魔法陣を描かせてもらった。
◆
パーティ当日、都全体がそわそわしていた。
城の一番高いところに皇帝陛下が立ち、拡声魔法を使って都全体に声を届ける。
ラジオとかはないんだね。
『みな、先日の出来事は記憶に新しいと思う。かつてないほどの魔物の群れに、恐怖を抱いたのではないだろうか。しかし、我らは勝利した! その勝利は、我らの力だけでは成しえなかった。紹介しよう、此度の戦功者、フローリアだ』
こんなに目立つつもりはなかったんだけど、陛下に呼ばれては断るわけにもいかない。
私は差し出された陛下の手を取り、聴衆の前に姿を現した。
その瞬間、割れんばかりの歓声と拍手に包まれる。
私は精一杯笑顔を浮かべて手を振り、頭を下げた。
『彼女の類稀なる錬金術と魔術の腕により、我らは大いに助けられた。その中でも特に目を引いたのが焼き鳥である。魔物を倒すため、彼女は特別な効果を付与した焼き鳥を使ったのだ。このように、戦いに於いても重要な役目を担う焼き鳥であるが、普通に作れば、どうだ、人間が食べてもなんと美味であることよ! これより、この焼き鳥をみなで食したいと思う。既に城下の料理人たちには焼き鳥を振る舞う準備をしてもらっている。もちろん、焼き鳥以外の料理についても、みなの手に渡るよう用意した。今日は思う存分食べ、飲み、また明日からの生活に備えてほしい』
おおおおお!という雄叫びが空気を揺らし、都中の人々が飲み物の入ったグラス持った手を陛下に向かって掲げた。
陛下も、私も、差し出されたグラスを受け取り、みんなの方に向かって掲げる。
さっきまでの興奮した声なんかは見事に消えて、全員が静かに陛下の声を待っていた。
『勝利を祝して、乾杯!』
先ほどよりも更に大きな歓声が轟いた。
私はグラスに注がれていた
冷蔵庫があるのか、魔術で冷やしたのかは分からないけどめちゃくちゃ冷えてて、悪魔的な美味しさだった。
キンキンに冷えてやがるぜッ
乾杯が終わったところで調理場へと急ぐ。
城の料理人たちは焼き鳥以外の料理を作るのに大忙しだ。
私は調理場の一角をお借りして、焼き鳥を焼いていく。
ちなみに換気扇とかはなくて、ただ窓があるだけだったから換気扇作って嵌め込んだよ。
勝手に回ってくれるような魔道具にしたかったんだけど上手く行かなかったから、リオンに頼んでずっと風の魔術を使ってもらっている。
途中で、それなら単純に風の魔術で匂いを外に飛ばして貰えばいいんじゃんって気付いたけど、その時には既に換気扇を回してもらって一時間くらい経ってたから、言い出しにくくなって結局言えてない。
ごめん、リオン。
庭に置かれた大きなテーブルと、その周りに置かれたたくさんの丸テーブルにはそれぞれ陛下やお偉いさんたち、兵士のみなさんが座っていた。
壁沿いに置かれた長テーブルには料理だけが並び、立食形式でも楽しめるようになっている。
席に着いているのは役職が上の人たちばかりで、前線で戦っていた人たちは基本的に立っているようだ。
私は焼きたてジュワジュワのもも串(タレ・塩)を陛下の前にどーんと置いた。
大皿に山盛りになっている焼き鳥を、陛下がタレと塩どちらも取って齧り付いている。
陛下のその姿を見て、他の参加者の方々も次々と焼き鳥に齧り付く。
毒味は必要ありません!
なぜって陛下には前もって解毒効果を付与しておいたから!
パーティの時間いっぱいくらいは持つはずだ。
どうしても毒味をしたい人たちと攻防を繰り広げた結果、解毒効果を付与して猛毒をガブ飲みする私にドン引きしたお偉方が諦めたという経緯がある。
解毒しとくと、猛毒もなかなか刺激的で美味しい飲みものだったね。
サビたちにはパーティを楽しんでもらいつつ、必要な時には手伝ってもらえるようにしていた。
色んな種類の食べ物が並んでいる前に立ち、悩んでいるサビとセリ。
どうせなら全部をちょっとずつ食べなさいと大皿に全部盛り付けて渡してあげた。
見た目が汚いと言われたけど、ビュッフェの時にそんなこと気にしていられるかい!
食べたもん勝ちだ!とテンションの高い私はまた引かれた。
え、どうして私の方が意地汚い感じになってるの???
私は各テーブルに置かれた焼き鳥の皿の残量を気にしつつ、調理場と庭を行ったりきたり。
その途中でスマホが鳴れば、部屋に入ってカバンから取り出した肉と串を魔法陣にどさどさどさー。
「この間はありがとうであります。おかげで良いものが出来上がりそうであります」
「そうか? ならよかったよ!」
ホックが兵士の一人と仲良さそうに話をしているのが見える。
いつの間に交流してたんだろう。
その兵士さんだけじゃなく、他の色んな人と確実に初めましてではない会話を繰り広げている。
情報も大事ってことなのかな。
ホックが私の武勇伝をまとめた本を作ろうとしていると知ったのは、だいぶ経ってからのことだった。
恥ずかしいからやめろと言っても聞く耳を持たない。
私が神になった暁には、その本を携えて、私を信仰する宗教を作るのだと豪語している。
マジでやめて。
城下でも焼き鳥の評判は上々だったようで、次々とかかってくる電話に狂喜乱舞しながら焼き鳥を作り続けた。
陛下にも、いずれトリキをオープンさせたいからと言って店舗を用意することを約束してもらったし、チェーン展開するための土地や店舗問題はさほど気にしなくても大丈夫だな。
パーティは大盛況の後に終わった。
魔物大量発生のおかげでもりもり増えた肉のストックがだいぶ減ってしまったし、やっぱり早いところ魔王に会って仲間になってもらって肉を安定して供給できるようにしなくては。
私はやる気を新たにするのだった。
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