第40話 油断大敵
ここ数日、ホックとリオンは採掘に精を出している。
私たちが掘り出した魔石よりも純度の高い魔石を掘り出した人がいて、その人を私が褒めたのが理由である。
毎日私の前に掘り出してきた魔石を並べ、褒められ待ちをする二人は真剣そのものだ。
ホックはとにかく取ってくる量が多い。
私が毎回大量の魔石を消費するのを見ているからなのだろう、確かに質より量で無理やり押し切りがちなのは自覚しているので、その戦法は間違ってはいないと思う。
対するリオンは量より質で勝負してくる。
さすが王族と言うべきか、ホックよりも魔力探知や目利きの腕がいいのだ。
量ではカバーしきれない問題もあるわけで、もちろん質の良い魔石が手に入るのはとても嬉しい。
しかも競い合うもんだからすごい量だよ毎日。
お互いを高め合いすぎだと思う、この二人。
街の鉱山から無尽蔵に魔石が出るわけではないので、それに配慮してか二人とも誰もまだ手を出していない山に掘りに行っているようだ。
誰にも迷惑をかけていないならまあいいやね。
今日も元気に出掛けていく二人を、コーリリアと見送った。
サビたちは山狩りついでに修行中。
ひたすら動植物を集めては焼いたり茹でたり色々してくれている。
植物に関しては、フォーシュナイツの協力者に送る分も採ってきてくれる。
食べて味の良し悪しを判別できるのは、今のところ私の他にリュシューとキリクさんとロレーヌさんしかいない。
さらに言うと雑草とか虫まで躊躇いなく口にするのは私だけだ。
キリクさんはイナゴの佃煮はまだ食べれたらしいんだけど、ハチノコは無理だって言っていた。
佃煮になってるからイケるんであって、生とか丸焼きは無理だとも。
こっちの世界の虫はけっこう足が多いのが多くて、食べるには確かに向いていない気がする。
焼き鳥のタレと醤油は実現できているから佃煮くらいは作れると思うけど、それだと結局素材の味が分からないからね。
だから植物だけ送ることにしている。
動物も送ったことがあるんだけど、私がかけた防腐処理が解除できなかったらしくて、色々面倒だったから送るのをやめたのだった。
私とコーリリアも街周辺の森に出て、食べたり素材集めをしたりしている。
出発する時はサビたちと一緒だけど、途中で別れてそれぞれ行動していた。
サビたち移動が早いし激しいし、私たちじゃ全くついていけないから。
コーリリアは素材を見つけてはニコニコしながら採集し、私のカバンに突っ込んでいく。
かわいい。
私の口に草をぼんぼこ放り込むのも相変わらずだ。
草はハズレが多いから、私はよく顔を顰め、その度にコーリリアが笑う。
しかし最初に会った頃よりだいぶ可愛くなったよなぁ、コーリリア。
私が何か買い物する時はだいたい一緒に買い物するから、色んなことに興味も出てきたみたいだし。
このところ一ヶ所に落ち着いてないからウォーララの素材を使った実験があんまり出来てないのだけが気がかりだけど。
そんなことを考えながら森を歩いていると、少し離れたところに人の気配がした。
一人じゃなく、複数人。
悪意しか感じなかったので罠を仕掛けておこうとしたのだが、一人とても素早い人がいて私は何も出来ずに拘束された。
声を上げようとしたけど、魔法か魔道具か、叫んでいるはずなのに声は出なかった。
コーリリアは恐怖のあまり固まっていて、やや遅れてやってきた男に捕まってしまう。
私たちはそのまま、近くの洞窟に引き摺られた。
数人いる男たちは全員筋骨隆々で、私が少し抵抗してみたところで敵いそうもない。
私の身体には色々な魔法陣が刻まれているけど、基本的に直接攻撃されないと発動しないものばかりだ。
スマホを取り出そうにも、両手を拘束されているので無理だった。
くそー、もう少し自衛色々しておけばよかった!
っていうかこの人たちはなんなのだろう。
人攫い?
山賊だったらホックが先に気付いて殲滅しているだろうし、山賊でなくてもこの辺りを根城にする犯罪集団があれば、それはホックの粛清対象になっているに違いない。
それがなく私たちに近付いてきたということは、どこか遠いところからここに来たということ?
それにしては真っ直ぐに私たちの方にやってきていた気がするんだけど……。
「どっちだ?」
「女だってことしか」
「チッ……とりあえずどっちも薬漬けにするか?」
「それじゃあ意味ねぇだろ」
「いいんだよこのままお貴族さまに売れば」
「でもこのままってのもあれだろ? ちょっと反抗できないようにしとこうぜ」
そう言って一人がナイフを取り出した。
切れ味の良さそうな刃先をゆらゆらと振り回し、私とコーリリアに交互に近寄ってくる。
コーリリアの瞳が揺れ、涙がこぼれ落ちた。
私はナイフを持つ男を睨みつける。
その視線を受けて、男はニヤリと笑った。
「あんただな、俺たちの探してた女は。それならこっちは最悪どうなってもいいか。なぁ、あんたが抵抗すればこいつが傷物になるぜ」
「わ、私が目的なら私だけでいいでしょ! その子は離して!」
「あんたに言うこと聞かせるには、こっちに傷つける方が効果的みたいだからなぁ。残念だがこっちのお嬢ちゃんも解放は出来ねぇ。どのみち売り払う予定だしな」
「う、うう……うううう……」
「コーリリア、落ち着いて……!」
笑みを浮かべたままの男は、ぼたぼたと涙をこぼすコーリリアの首筋にナイフをあてがった。
びくりと反応するコーリリアを見て、満足そうに口端を歪め、ナイフの腹で皮膚をなぞる。
「分かった、言う通りにするから、ナイフを下ろして」
男が値踏みするように私を見た後、コーリリアの首元からナイフを離した。
なるべくここで時間稼ぎをしよう。
私たちの気配に変化が会ったことは分かるだろうから、誰かがここを見つけてくれるまでここに居たい。
多分そんなすぐに何かさせられるとか、そういうことはないと思うんだよね。
私は呑気にそんなことを考えていたのだけど、コーリリアは最高にテンパっていた。
「だ、ダメだよフローリア! 悪いことしたらダメ……! ア、アアアタシのことは気にしないでっ」
「チッ……この……!」
逃げるというよりは、ただ抵抗するために暴れたコーリリアに、離れたナイフが再び向かうのが見える。
今のコーリリアの状態じゃ、ナイフがどこに当たるかが全く分からない。
腕とか肩とかならまだいいけど、当たりどころが悪かったら今の私じゃ治しきれないかもしれない。
「コーリリア!!!!」
私は自分を拘束している男の股間を蹴り飛ばし、コーリリアに体当たりする勢いでダッシュした。
間に合え。
間に合え。
私に刺さる分には、私は、死なない。
私の背中を、ナイフが裂く感触がした。
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