第38話 水晶の守人
龍の居た部屋を後にし、来た道を引き返している最中で思い出す。
自分用の魔石、まだないんだった。
私は太ももに神経を集中させ、龍の魔力を探る。
そしたら龍の魔力を見つける前におじいちゃんの魔力を見つけてしまって複雑な気持ちになった。
いやまぁ、よくおじいちゃんの実験台になってたから染み付いてるのかもしれないけど!
探り当てた龍の魔力を辿り、それを通して話しかける。
脳内に直接!状態である。
(もしもーし、ドラゴンさん、聞こえますかー?)
(…………貴様、良い度胸だな)
(あ、もしかして寝てました? すみません)
(そういう問題ではない。第一我の魔力を逆探知して話しかけてくるなど常識外れにも程が(まあまあ、私が常識外れなのはドラゴンさんが一番よく知ってるでしょ)
(チッ……それと、そのドラゴンさんというのをやめよ。我にはアシュフェイルという名がある)
(ではアシュフェイル様)
(うむ、何用か)
(大きくて純度の高い魔石、持ってませんか?)
(持っておらん)
(どこか、掘り出せるようなところ知りません?)
(……知っている)
(教えてください!)
(次回の定期便代わりでよいか)
(う……よ、よいです)
すると、脳内に今いる森の俯瞰図が浮かび上がってきた。
赤く光っているのが、私たちがいる場所らしい。
少し離れた山の中に、白く光る場所がある。
(ここですか?)
(そうだ。水晶の守人がおる。お前が欲しいのは水晶の力なのだろう?)
(えっ、アシュフェイル様最高か……)
(守人は友人だ。あまり困らせてやるなよ)
(もちろんです!)
私がアシュフェイル様との会話を終えると、みんなが変な顔をしてこっちを見ていた。
無言のまま、表情だけが変わる私が結構気持ち悪かったらしい。
ひどい言われようである。
「お前、どんどん人間離れしていくな」
「最初から変な人だとは思ってたけど、どんどん更新していくのすごいよね」
「ちょっと!」
誰も否定してくれないのがつらい。
別にいいけど。
気を取り直して、今しがた教えてもらった場所をみんなにも共有する。
もう脳内地図は消えてしまったけど、たぶん大丈夫だと思う。
せっかくならそのままにしておいてくれたら良かったのに。
GPS機能付きマップが脳内にあるなんて最高じゃないか。
でもそれってイコール人間離れか……私は複雑な気持ちになった。
穴を開けて入ってきた場所まで戻ってきたので、正規の入り口はどうなっているのだろうと一応確認しておくことにした。
私たちが入ってきたのは入り口よりも少し階層が上の部分だったらしく、どうやらこのダンジョン、地盤沈下か何かで地下に沈んでしまっているらしい。
これが入り口っぽいなっていう門柱は発見できたのだけど、その先は岩盤だった。
結局最初に無理やりこじ開けた穴から地上に戻り、穴を埋めた。
適当に植物を植えて、まさかここからダンジョンに入れるなんて思いもしないだろうくらいには整えておく。
入りたい人は自分で頑張ってくれ。
しばらく移動して教わった場所に着いたはずなのだけど、入り口らしきものは見当たらなかった。
こっちも埋まってしまったのだろうか。
水晶の守人なんて見つかってたら確実に利用されてるよね。
モーキュも知らなかったってことは、存在自体知られていないに違いない。
私たちはまたしても山をくり抜くことにしたのだった。
こんなことならモーキュに掘削ロボくん借りてくるんだったな、などと思いながら土を掘っては周辺を固めていく。
掘り進めていると、カツンと音がして水晶が出てきた。
場所は間違っていなかったのだと安心する。
水晶も大量に必要なので、あとで回収しやすいように土と分けてまとめておく。
さらに掘り進めると、水晶だらけの鍾乳洞のような場所に開通した。
何ヶ所か太陽光の差し込むところがあり、その光が乱反射して鍾乳洞全体をキラキラと照らし出している。
「うわぁ〜〜、壮観だねぇ〜」
「すす、すごいね!」
水晶取り放題である。
テンション上がって水晶に手を伸ばしかけて動きを止めた。
守人に挨拶せねば。
なけなしの理性で堪えつつ周囲を見回すと、一際大きな結晶の前でうずくまる巨人を見つけた。
体育座りをして、膝の間に頭を埋めている感じの体勢なのだけど、それでも見上げるほどにでかい。
たぶんこれが水晶の守人だろう。
近付いてみるけれど、微動だにしない。
「寝てるのかな」
「心臓は動いているようでありますが、呼吸音は聞こえないであります」
「水晶に問題がないうちは目覚めないんじゃない?」
「それならリオン殿、ちょっとそこの水晶持ち出そうとしてみるであります」
「なんで僕が!」
二人の漫才を眺めながら、一番近くにあった水晶を採掘してカバンに入れてみた。
その瞬間、膝を抱えていた腕が解け、私に向かって掌が迫ってきたのだった。
「フローリア!」
みんなの叫び声が聞こえる中、私を抱えて掌から逃げたのはローグスさんだった。
サビはちょっと出遅れたらしい。
私はローグスさんに抱えられたまま、カバンからさきほどの水晶を取り出して巨人の方へと差し出した。
「お待ちください守人さま! 私はあなたとお話しがしたいだけなのです!」
厳密には話がしたいだけではないが、面倒なので言わない。
私の声が届いたのか巨人の手が止まり、代わりに大きな顔がこちらへと降りてきた。
髪の毛の生えていないつるっとした頭、私を見る瞳はくりくりと大きくて、どうにも小さい子供を彷彿とさせた。
「お、はな、し」
「ええ、私アシュフェイル様にあなたのことを聞いてきたの」
「あしゅ、ふぇ、いる、と、もだち」
「アシュフェイル様もそう言っていらしたわ」
「お、まえ、あしゅ、ふぇいる、の、けはい、する」
「私とアシュフェイル様は魔力で繋がっているのよ」
「「んんっ……!」」
なにやら背後が騒がしいが無視することにする。
さらに顔が近付いてきて、じいいと見つめられた。
少しして納得したのか、巨人は私に掌を差し出してきた。
ローグスさんに降ろしてもらい、おそるおそるその掌の上によじ登る。
すると掌が上がり、座っている巨人の顔の前に私がいるような形になった。
地面に立っている私の顔を覗き込むのはしんどいのだろう。
それからしばらく、私は巨人と話をした。
やっぱりと言うべきか、ここにやってくる人間はいないらしく、前に身体を動かしたのはいつだったかもう覚えていないと言っていた。
時折動物たちが入り込んできたりすることはあるようだが、こうして会話をするのもかなり久しぶりのことだそうで、いたく好奇心を刺激されたようだった。
私はそれとなく、魔石を探している話をしてみる。
きょとんとした顔で私を見つめた巨人は、自分の後ろにある巨大な水晶を指差した。
「どれ、くらい、の、おおきさ、ほしい? これ、わる」
私は心の中で飛び回りながらも、それを顔に出さないように両手でこれくらい、と丸を作った。
鍾乳洞を支えていると言ってもいいくらいに大きな水晶は、離れて見ていても分かるくらいに純度が高かった。
というか、たぶん混じりっ気なしの百パーセント水晶だ。
向こう側が透けて見えるほど透明で、美しい。
こんな高純度の水晶に、さらに水晶の力を掛け合わせたらどうなってしまうのだろう。
わくわくするー!
たぶん私が想定していた水晶の必要数よりも、かなり少なく済むはずだ。
まあ、元々使うつもりだった水晶の数そのまま突っ込んで、最大限の登録数にしておいてもいいか。
これからどれだけの人と出会うか分からないし。
私の手を見て、巨人が空いている方の手を水晶に伸ばす。
長い爪で、デコボコしている部分の水晶を削り取った。
ポロリと崩れた水晶をキャッチし、私に差し出してくれる。
「ふろー、りあ、また、きて。おは、なし、しよう」
「もちろん! この水晶で、いつでもお話しできるようにしますし、もしお望みでしたらアシュフェイル様ともお話しできるようにしてさしあげますよ!」
「それ、うれ、しい」
「では、次に来る時に持ってきますね」
「わ、かった、まって、る」
「いつでもお話しできるようにするのにそこまで純度の高くない水晶も欲しいのですけど、その辺りにごろごろしている石ころみたいな水晶をいくつか持って帰ってもいいですか?」
「うん、い、いよ。ちいさ、いの、ふむと、いたいから」
「あら。でしたらお掃除していきますね」
「あり、がと」
ゆっくりと地面に下ろされた私は、みんなと一緒に地面を掃除した。
そこら中に転がっている水晶を片っ端からカバンに放り込んでいく。
巨大な守人から見たら石ころでも、私にとってみればそこそこ大きな結晶だ。
今度こそ水晶取り放題!
ひゃっほう!
「フローリアって、いい根性してるよな」
「言い方」
こうして私は、ほくほく顔でモーキュの元へと帰るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます