第36話 刺激される食欲
「神様をどうにかしろっていうのはいいとして、神様ってどこにいるんですか?」
誰かが信仰している訳でもないし、人前に姿を現すタイプではないらしい。
ガラクタ置き場だから全く興味がないんだろうけど、気配も感じさせてくれないんじゃ何もできない。
まず神がどういう存在なのかも分からないし。
全知全能的な感じなのだろうけど、本当に私で何とか出来るようなものなのかしら。
テンション上がってやりますとか言ってみたはいいものの、全く今後のビジョンが見えてこない。
「神は天界にいる。この世界が二つの層に分かれていることは知っているか?」
「いえ、初耳です」
「神とその眷属が住む層と、今我らのいるこの層。我は勝手に天界・地界と呼んでおるがな」
ほうほう。神の眷属ってやっぱり天使なのかな。
綺麗なお兄さんお姉さんみたいな天使か、赤ちゃんみたいな天使か。
はたまた化物に近い感じの天使だったら、それはもはや鳥類と呼んでも差し支えないのでは?
「神の眷属に対して食欲を刺激されている者など他におらんぞ」
あ、そうだった心が読めるんだった。
でも仕方ない。
羽根の生えた生き物を見ると条件反射で焼き鳥の材料になるかもって思ってしまうんだもの。
こっちの世界では羽根が生えてなくたって鶏肉の味がするんだから、もはや羽根なんて関係ないのだけど、三十年間以上刷り込まれた常識はそう簡単に消えてくれない。
とはいえ見たこともない神の眷属に妄想を膨らませていてもしょうがない。
私は前にホックと空を飛んだ時のことを思い出して龍に尋ねた。
「前に空を飛んでみたとき、あるところから先には進めなかったんですけど、あれは地界の中にさらに魔界があるってことですか?」
「ああ、それは知っているのか。そうだ。今世の魔王は力が強くてな。魔王になった瞬間、地界の三分の一程度の土地を己の魔力で覆い尽くした」
三分の一!
あの禍々しい暗雲の向こう側にはまだそんなに世界が広がっていたのか。
うーん、ワクワクする。
こっちにはいない魔物がうようよしているに違いない。
魔界に美味しい植物が生えているのかは知らないけど、イメージ的にスパイス系なら取れそうだ。
毒抜きしたら意外と美味しい物とかはあるかもしれない。
しかし三分の一ってすごいなあ。
ただ陸地を分断するとかじゃなくて、ずっと結界みたいなものを張り続けているってのがさらにすごい。
「そんな魔王様ですら神様には勝てないんですか?」
「無理だ。この世界で産まれたモノには例外なく神の印が刻まれる。どれほどの力があろうと、神に傷を付けることはできない」
なるほど、と頷きかけて私は首を傾げた。
私の肉体も、この世界で産まれたモノに変わりはないのではないかと。
「あの錬金術師はな、この世の
おじいちゃん、マジで規格外すぎる。
まぁ、そういうことならオッケーである。
何をどうすればいいのかは未だにさっぱり分からないけど、とにかく魔王を仲間にして、神の座を奪い取ればいいんだよね。
地上だけとはいえ空間を断絶できるほどの力の持ち主だし、魔王を仲間にすれば神様と会う方法もヒントくらいは得られるかもしれない。
目の前の龍は天界に行く方法も知っていそうだけど、この世界が消えてしまうことに対しての焦りよりも、退屈な毎日への刺激が欲しそうな顔をしている。
たぶん聞いても教えてくれないだろう。
ちらりと龍の方を見ると、私の考えを肯定するように頷かれた。
やっぱりね。
全クリまでのイベントショートカットは嫌いじゃないけど、私はむしろ楽しめる要素は全部楽しんでからクリアするタイプの人間だ。
ラスボスを楽勝で倒せるくらいバッチバチにキャラのレベルもスキルも武器も防具も完璧にしてから臨むタイプ。
やりこみにガチになりすぎて年に数本しかちゃんとクリアできないのがちょっと問題だったな。
今回で言えば、天界に行く条件を満たすまでに食材が増えるならそれはそれでいいことだし。
それに魔王ってことは全ての魔物の王な訳で、仲間になってもらえれば魔物の肉食べ放題も夢じゃないって訳で。
「配下の者を食い放題というのはだから問題があると思うのだが」
「あっ、うーん、そこは話し合いが必要ですね。そもそも魔王が人間食べてたらそれはそれで争いの種ですし……主食を焼き鳥にしてもらうしか……」
というより、何となく前世の記憶の影響で魔王っていったら人型だって思ってたけど、そうじゃない可能性も大いにあるんだよね。
いや、待てよ、もしかしたら魔王自身がめちゃくちゃ美味しかったりして……。
えっ、魔王が魔物で、しかも単一種族だったりしたら、どうする???
その時はどうにかしてクローンを作ってそっちを食べるしか……。
「もうそれ以上考えないでもらえるか」
龍が盛大に溜息を吐くと、固まっていた全員の身体が動き出した。
みんなは何が起きたのか分からないみたいで、混乱しつつも眼前の龍に対して臨戦態勢を取る。
私は慌ててみんなの前に立ち塞がり、今までの話をかいつまんで説明するのだった。
「待て、全く理解が追い付かない」
「え、魔王? 仲間にする?」
「ふ、ふふふフローリアが、かか神様になるの?」
「流石であります! 神になられたフローリア様の右腕に相応しくあれるよう精進するであります!」
「あっ、僕も負けないからな!」
「いやはや、私の想定を軽く超えてくるのは育ての親譲りですね」
私も説明しながら何言ってんだコイツって気持ちになったし、サビたちの反応はよく分かる。
むしろホックとリオンの頭がおかしい。
何だかんだで最終的に全員納得しちゃうのもどうかと思うけどね!
そういえば、と私は周囲を見回した。
部屋を囲む壁には何も描かれていなくて、登ってきた階段以外にどこかへ続くような扉や通路もない。
本当にここが遺跡の終着点らしかった。
そうなると私の求めていた転移の術式みたいな物は存在しないか、もしくは目の前の龍の能力のどちらかということ?
「我の能力だな」
「うわー! やっぱり! お願いします私にも教えてくださいー!!!!!」
「いくら規格外といえど、その小さな器で使いこなせるものではない。諦めろ」
「そんな……!」
「無理だ」
「そこを何とか……!」
「無理だ」
「なぁ、どうしてアイツは古龍とあの調子で会話ができるんだ?」
「さぁ……」
しばらく問答を繰り返し、最終的に定期便を送ってくれることで私が諦めた。
定期便とはなんぞやと申しますと、龍が私のいる場所に三十日に一回くらいのペースで何かを送ってくれるのである。
新しい魔物の肉とか、食べ物関係がいいとダダをこねたのだけど、それに対する返答はなかった。
ランダム要素があって楽しいと思うことにしよう。
龍が巨大な爪で床をカチンと叩くと、魔力が爪の先から私に向かって一直線に伸びてきた。
足からぞわぞわと上がってきた魔力が右の太ももの辺りでぐるりと回って染み込んだ。
ここで確認するわけにもいかないから見ないけど、たぶん普通の人には見えないように印が付いているに違いない。
こういう印は付けた者よりも魔力量が多くないと見えないものだから、私にも見えないんじゃないかな。
この印を頼りに、定期便が送られてくるのだ。
龍からどうあがいても逃げられなくなったっていうことでもあるんだけど、その辺は考えないようにしよう。
これにて初めてのダンジョン攻略は終了。
ぼんじりにも出会えたし、ものすごいことを言われたりはしたけど、結果的にかなりプラスの結果に終わった気がする。
誰も大きな怪我をしたりもしなかったしね。
結構長いことダンジョンにいたから、街に戻る頃にはスマホも仕上がっているんじゃなかろうか。
楽しみー!
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