第22話 焼き鳥献上、そののち爆弾発言

 フォーシュナイツの錬金術師さんたちはみんないい人だった。

 それなりに無茶なことも色々言った自覚があるのだけど、嫌な顔一つせずに付き合ってくれたし。

 私が魔法陣を書いて発動させる度にめっちゃ見られるのは未だに慣れないんだけど。


 私なんかよりおじいちゃんを見ててほしい。

 おじいちゃんには、バフ焼き鳥がある程度仕上がるまで城に篭っててもらうことにしたんだけど、暇を持て余して新作魔法陣作りに精を出していた。

 手紙を送る時に使っている魔法陣を改造して、人間を移動できるようにしようというのだ。

 そんな面白そうな魔法陣、私も一緒に作りたいよ!!



 楽しそうに魔法陣の文字をこねくり回すおじいちゃんを横目に、私は焼き鳥に集中する。

 セリと魔術師さんが城に戻ってきてからはプリオ亜種も量産できるようになった。

 王城の一角をプリオ亜種小屋にしてもらえて、こんなに恵まれてていいのかと思いつつ、焼き鳥が国の名物になってくれるならそれはそれで願ったり叶ったりなのでありがたく焼かせていただく。


 国王軍の方々も協力的で、焼き鳥をうまいうまいと笑顔で食べてくれるものだから、私もやる気が倍増するってものだ。

 色々な効果を乗せた焼き鳥を食べてもらい、模擬戦を繰り返す。

 普段は勝てない先輩兵士に勝ったと大盛り上がりで、バフ焼き鳥を食べる役目はかなりの倍率での争奪戦となっていた。


 キャトラス国の兵士さんに食べさせようと思ってデバフ焼き鳥も作ってみたので、そっちはサビとセリに食べてもらうことにした。

 見る人が見たら奴隷虐待とか言われるのかもしれないな、とビクビクしていたのだけど、サビとセリの模擬戦の様子を見ていた兵士さんたちが、まさかの実験台立候補をしてきた。


 バフ効果のすごさを実感したせいなのか、デバフ効果にも興味を持ったらしい。

 さすがに国の兵士さんにデバフ焼き鳥はあかんだろうと遠慮していたので、私は大喜びで焼き鳥を差し出した。

 サビとセリは、やめた方がいいと兵士さんたちを説得しようとしていたが、好奇心に目を輝かせる脳筋どもを見て、早々に諦めていた。

 筋力減退効果で剣が持てなくなったり、混乱効果で前後左右が分からなくなったり、ほとんど無力化に近い効果を発揮するデバフ焼き鳥に、兵士さんたちは恐れをなすこととなる。

 まぁ、デバフ焼き鳥は売り物にはしないつもりだから安心してほしい。


 バフデバフ焼き鳥を食べた兵士さんたちには、諸々の体調の変化であったり、効果の持続時間であったりも細かに聞いた。

 効果はそれなりに体内に残るが、代謝がいい兵士さんほど早く切れるようだった。そりゃそうか。


 即効性のバフ効果と、遅効性のデバフ効果を合わせることで、時間差で弱体化させるデバフ焼き鳥もできた。

 焼き鳥への悪評は絶対に避けたいから、食べてすぐは元気になるようにしたかったんだよね。

 なにか別の要因で具合が悪くなったと思ってもらわなくちゃ。


 そんなたくさんの人の協力のおかげで、ついに特殊効果焼き鳥の完成です!


 結局、おじいちゃんは新作魔法陣を完成させることができず、しょんぼりしながら国境周辺に旅立っていった。



 というわけで、お次は王様への献上である。

 とはいえ、王様自身は兵士さんへの実験の見学にも来ていたから、焼き鳥そのものはすでに知られている。

 兵士さんたちの評判のよさを受け、女王様やら王子様たちも一緒に食べたいとのこと。

 大広間に置かれた長いテーブルに腰掛ける王族の皆様へ、焼き鳥を振る舞うことになったのであった。


 王様に、女王様、第一から第三王子、そして第一王女。

 六人の待つテーブルの手前に、私の作った焼き鳥コンロが置かれている。

 調理済みのものを出せとエラリオールさんには言われたのだが、焼きたてを召し上がってもらう以外ありえない!と断固反対したのだ。

 だってそんな、チンして出すみたいなことしたくないもん!


 なんか偉そうな人たちが毒見がどうのこうのとうるさいので、状態異常無効に即死無効、おまけに自動治癒まで織り込んだ魔法陣を大広間全体に敷き詰めてやった。


 それでも納得しないおっさんたちにブチ切れて、薬草園から引っこ抜いてきた泥付きのヒメリロイ(全部食べたら死ぬ猛毒)とマンドルー(口に含むと麻痺し、ひとかけらでも摂取したら即死)をボリボリ食べて、ついでに兵士さんの剣を借りて自分の心臓を一突きしてやったのはちょっとやりすぎたなって思っています。てへへ。

 出血したそばから血液を体内に勝手に取り込む私の体に、そこにいた全員がドン引きしていたっけ。


 おかげで城内の大抵の人が私を見るとビビるようになってしまった。反省。



 そんな回想はさておいて、私は焼き鳥を焼き始める。

 タレに漬けて火で炙ると、瞬く間に香ばしい匂いが大広間に充満する。

 いい具合に焼けた一本を、まずは王様の目の前にあるお皿に置いた。



「テーブルマナーという点では下品な行為であることを承知の上で、ぜひ手で串を持っていただき、がぶりと直接口で肉を召し上がっていただきたく……」


「うむ、兵士たちが美味そうにかぶりついておったな。今ここには教育係がいるでもなし、料理人の勧めに従うのは悪いことではなかろう」



 王様が焼き鳥にかぶりつき、美味しそうに咀嚼するのを見て、私は次の串に取り掛かる。

 他の皆様のお皿にも焼き鳥を置かせてもらい、あとは顔色を伺いながらわんこ焼き鳥だ。

 ニニリスの肉もあるので、せせり串も織り交ぜて。


 店員への第一歩ということで、おかわり以降はサビとセリに焼き鳥を持って行ってもらう。

 誰に出すかは私が指示したけど、二人ともなんとなくみんながお腹がいっぱいになってきた感じを理解してたみたいだから上出来だ。


 最後に、第三王子からバフ焼き鳥を所望されたので、その場で肉に効果を付与して焼き上げる。

 今は直接肉に付与しているのだけど、最終的にはプリオ亜種の餌を変えることによってプラスの効果を生むのが目標だ。

 細かなバフ効果は無理だとしても、錬金術師ではない人でもそういう肉を作れるようにしたい。


 筋力アップのバフ焼き鳥を食べた第三王子は、自分の腕をまじまじと見つめると、いきなり立ち上がって私の方へと歩いてきた。

 なにか不備でもあったかと血の気の引いていく私を、第三王子はひょいと抱え上げる。

 え?

 なんで私、王子様にお姫様抱っこされてるの?



「料理の腕も錬金術の腕もいい。どうだろう、僕と結婚してはくれまいか。僕の王位継承権は第三位だし、城での暮らしに拘りもないから一緒に旅をしてもいい!」


「はっ!?」



 銀髪に、深いブルーの瞳、いわゆる王子様っていう顔より少しワイルドな顔立ちだけれど、どっからどう見てもイケメンな王子から突然のプロポーズ。

 私は一瞬で頭が真っ白になった。



「まぁリオン! あなた何を言い出すの?」


「なんだ、惚れ薬でも仕込まれたか」


「仕込んでません!!」



 王様と、その斜め前に座る女王様がそんなことを言うもんだから、正気に戻った私は必死に頭を左右に振って否定する。

 リオン様の腕の中から早く逃げたいのだけれど、王子に怪我をさせるわけにもいかないし、その前にバフかかってて全然ふりほどけないし!

 ちくしょう私にもバフ焼き鳥を食わせろ!



「実は焼き鳥を食べる前から、あー、城内で始めて姿を見た時から……一目惚れなんだ」


「まぁぁリオンお兄様! どうしてわたくしに相談してくださいませんの!?」


「エリザに相談すると碌なことにならんからな」

「そうだね」


「レネーお兄様とアールネお兄様は黙っててくださいまし!」



 やっぱり綺麗な銀色の髪をふわふわとなびかせ、リオン様より少し明るいブルーの瞳を輝かせるエリザベート王女。

 そして王女に速攻ツッコミを入れる二人の王子様。

 精悍な顔立ちで身体もがっしりとしたレネー第一王子と、童顔と言ってもいいくらい甘いマスクのアールネ第二王子。

 王女様にツッコむ前にリオン様にツッコんでほしいんですけどーーー!!!



「ちょ、ま、無理です、むりむり! 私には世界中にトリキを開店するっていう目標が!」


「開店? 僕と結婚すればフォーシュナイツ国の一等地に店を構えられるよ」


「え、そ、そっかぁ……ウッ」



 思わずオッケーしかける私に、ローグスさんの手刀が飛んでくる。

 おっといけない。

 そうだよね、こんな大事なこと、簡単にオッケーしたらダメだよね。



「私、トリキの錬金術師の名を世界に轟かせなければなりませんので、お断りします!」


「トリキ?」


「はい。何種類もの焼き鳥、そして一品料理、さらにたくさんの種類のお酒を格安で提供するトリキ! トリキの店舗をチェーン展開し、なんなら競合店もできたりして、世界中で焼き鳥が食べられる世界を! そう、私の目標はフォーシュナイツだけに留まりません、なんなら世界征服でもしたいくらいです!」


「ふ、あははっ! そんなこと言う人、初めてだよ。やっぱりキミは面白い。父上、母上、僕は諦めるつもりはありませんので、婚約者候補たちとはもう会いません!」



 なんでーーー!

 そこは、そんなバカみたいなこと言うなんて……みたいに呆れて前言撤回するところでしょーーー!?


 王様も女王様も、そこまで言うなら、みたいな顔してないで!

 そんな下賎な者の血を王家に混ぜるなんて許されませんとか言ってください!


 イケメン王子に抱えられたまま、焼き鳥献上の儀は終了した。


 そして、求婚騒動で乱れた心が静けさを取り戻す暇もなく、キャトラス国からの宣戦布告がフォーシュナイツ国へと届くのであった。



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