第21話 王様との謁見
もも肉(タレ)を食べて満足したおじいちゃんは、ようやく王様と会う気になったらしい。
私は料理人さんたちにお礼を言って、調理場を後にした。
エラリオールさんと数人の兵士さんに囲まれて、謁見の間に向かう。
途中で二人、ローブを身につけた人も合流した。
エラリオールさんと似たようなローブだから、きっと魔術師なんだと思う。
これって、私たちが変なことしても対処できるようにってことだよね?
おじいちゃんとローグスさんがいる時点で、こんな人数じゃどうにもならない気がするけど……。
大理石みたいな白っぽい石に、金色の装飾の施された大きな扉がゆっくりと開かれ、真っ赤な絨毯の続く先には王冠を頭に乗せたおじさんが座っている。
やべ、ついおじさんとか言っちゃった。王様王様。
思っていたより若くて、精悍な顔付きのイケオジだ。
彫りが深くて、鼻が高く、黒いヒゲが口元を覆っている。
私とおじいちゃんは王様の前まで進むように指示される。
言われた通りに前に進み出て、
他のみんなは少し後ろに待機させられるみたいだ。
「
「いかにも。ワシがフィヴィリュハサードゥにございます」
「
それをきいたおじいちゃんは、横にいる私が噴き出しそうになるくらい目を見開いて驚いて、思い切り左右に首を振った。
笑わせないでよおじいちゃん!
ここで噴き出したら私、処刑されるかもしれないじゃん!
「ふむ、知らぬと申すか。まぁ良い。それが嘘でも真でも構わん。戦争の理由ができて感謝しておるくらいよ」
「えっ」
あ、つい声を出してしまった。
王様の目がおじいちゃんから私に移る。
ふ、不敬罪に問われませんように……!
「確かそなたがフィヴィリュハサードゥを呼び寄せたのであったな……ふむ、よいぞ、何か言いたいことがあるなら言うがよい。発言を許す」
「あ、ありがとうございます。とはいえ、その、私の想像していたより戦争に前向きであったことに驚いただけで……王都にお住いの方々は、もっと戦争を恐れていましたし」
「我が国とキャトラス王国の話を知っているか?」
「きょ、兄弟国であったことですか?」
でも、それは国的には認めたくないことなんじゃなかった?
私は何がNGワードなのか分からないまま、ドキドキしながら言葉を発する。
「そうだ。あれは事実なのだ。そして二国を元のような一つの国にすることは我が国の悲願。先代国王にはキツく言われたものよ。国力を増し、いつの日か二国統一を果たすのだと」
「あの、私たちも、お手伝いしたいのですけれど……」
「なに? しかしそなたらはキャトラスからこの国へ来たのではなかったか?」
「そうなのですけれど、実は……キャトラス国王には絶対に独占されたくないものを抱えておりまして……。キャトラス国王の評判を聞くにつけ、ぜひフォーシュナイツの統治下に置いていただいて保護してもらいたいなと」
「ははは! そうかそうか。いや、その申し出は願ってもない。軍備拡大したとはいえ、味方は多い方がよい。というより、そなたらが敵に回ってしまうと厄介なのでな。どうにか取り込めないかと相談しておったところよ」
「そうでしたか! それではぜひ、私たちをお使いください。おじ、師匠とローグス様だけでも一個大隊を討ち取る程度のことはできましょう」
「こら、勝手なことを言うでない! 一個大隊で足りるわけなかろうが!」
「はい、こう申しております」
おじいちゃんが戦えるのかなんて知らないけど、ローグスさんが強いのは知ってるから適当にふっかけて言ってみたんだけど、思ってたより好戦的だったな、おじいちゃん。
後ろでローグスさんがやれやれって感じで溜息吐いてるのが見えるけど、知ってるんだぞ。
戦いが始まったら一番いきいきするんだ、絶対そうに決まってる。
それはそれとして、私にはやりたいことがあるのだ。
王様に向き合い、私は続ける。
「私とコーリリア、後ろに控えております少女は師匠と同じく錬金術師ではあるのですが、前線に出るより後方支援をしたいと考えておりました。その後方支援にあたって、軍の皆さまに試したいことがあるのです」
「試したいこと?」
「はい、食事による、戦力増強です」
前に思い付いたアレを試すのはここしかない。
戦争をしてもらおうと思いついた時から考えていたこと。
それはフォーシュナイツの兵士さんに、バフ効果の付いた焼き鳥を食べてもらうことだ。
プリオ亜種の肉じゃ足りないだろうから、この際、肉質へのこだわりは一旦捨てる。
チーコックでもなんでもいいから、とにかく肉に、筋力増強だったり、疲労軽減だったり、夜目が利くようにしたり、そういう戦闘の役に立ちそうな効果を付与して調理したら、食べた人にそのバフが乗ってくれるのかを知りたい。
もし焼き鳥の材料の肉に付与しただけじゃ食べた本人に効果が乗らなかったら、その時はしょうがないから普通に液体とか錠剤にして配ろうと思っている。
大勢の人たちを合法的に実験材料にできる機会なんて滅多にない。
こっちの世界でのトリキ名物を作るのに、役立ってもらうわよ兵士さんたち!
王様の返事も聞かずに脳内で色んなシミュレーションをしていた私は、おじいちゃんに肘で突かれて我に返った。
や、ヤバい、トリップしてた。
王様の私を見る目が、若干生暖かいものに変わった気がする。
許してもらえたならいいかな、と思っていると、背後から反省しなさいとでも言わんばかりの気配がする。
うう……ローグスさんとサビだな……この気配は……反省。
だがしかし後悔はしていなぁい!
「戦力増強とは興味深い。しかも食事とな」
「はい、焼き鳥です!」
「焼き鳥、というのはそなたが調理場で作っていたという物か? ここまで香ばしい匂いがしておったぞ」
「そうですそうです。その肉に戦場で有利になる効果を持たせ、それを食べるのはいかがかと。もし上手くいかなかった場合は、普通に飲み薬にしますので」
「上手くいかない可能性があるのか?」
「はい……その場合はただの美味しい料理ですから、それはそれで気合いが入るのではないかと」
「ふむ……まぁ良かろう。だが、兵士に与えるより先に余に献上せよ。あの匂いはけしからん」
「はい、喜んで!」
やった!
王様に食べてもらえるなんて願ってもない。
王室御用達なんて掲げられたら最高じゃん!
あ、でもそれで高級な感じになっちゃうのはいやだな。
庶民に優しい店でありたいからね。
もしも王様が気に入ってくれたら、王様に出すやつはブランド焼き鳥みたいにして貴族とかお金持ちの人向けのメニューにすればいいのかも。
「あ、そうだ。ギルドの人たちや国民の皆様は戦争に対して後ろ向きでいらっしゃられましたから、戦争するにしろ、フォーシュナイツの側から攻めるのは得策ではないかと。おじ、師匠を泳がせておけばキャトラスの方から勝手に攻め込んでくるでしょうし、それを待って、致し方なく戦争になってしまったという体裁を取りましょう。この国の方は私たちが全力で守ります。戦争による肉体的被害を受ける方は一人も出さないようにするつもりですが、基本的には被害者なのだという立場を保ち続けた方が、戦争終結後の統治を円滑に進められるかと思います」
「泳がせるとはなんじゃ」
「折を見ておじいちゃんには国境周辺をウロウロしてもらうからね。ついでに迎撃用の魔法陣敷いてきたらいいんじゃない?」
「人使いが荒いのう……行くのは構わんが、焼き鳥弁当はあるんじゃろうな」
「はいはい、焼いとく焼いとく」
「ローグス、どう思うこの扱いの雑さ!」
「私に話を振らないでください」
とりあえず、肉だわね。
双子ちゃんと同じことができる人がいたら最高なんだけど……。
プリオ亜種の話をなんとなくボカしながらして、ダメ元で聞いてみると、なんと他人の能力を自分に複製できる魔術師がいるというではありませんか!
ありがとうございます、ありがとうございます。
おじいちゃんがフォーシュナイツにいるという情報がキャトラスに持ち帰られ、そこから事実確認の後の進軍となればそれなりに時間もかかるだろう。
私はセリに、その魔術師さんを双子ちゃんたちのところへ連れて行ってもらうことにした。
軍に所属する魔物使いにも手伝ってもらえることになったので、歩くより断然移動は早いはず。
その間、ローグスさんとサビには可能な限りプリオとボログを集めてきてもらう。
チーコックとかニニリスとかも、見掛けたらゲットしてきてもらう。
肉はあればあるだけいいのである!
私とコーリリアとおじいちゃんは王城内の研究施設にいる錬金術師さんたちに紹介してもらい、協力を取り付ける。
研究施設にある素材も使わせてもらえるとのことだったけど、タダで貰うのは悪いし、私とコーリリアの手持ちの素材も見てもらった。
コーリリアがはんぎょさんで私の術式行使がめっちゃすごいって話をしたせいで、ポーション作製を見せることになった。
何人もの錬金術師さんが真剣に見つめるもんだから、私もちょっと気合いを入れた。
おじいちゃんも背後でニコニコしてるしな。
タイムトライアルじゃ!
そしてキラッキラのポーションにしてやるからな!
全力で作ったポーションは今までで一番の出来だったし、おじいちゃんもニコニコなままだった。セーフ。
フォーシュナイツ錬金術師の皆様も尊敬の眼差しで私を見てくれている。
ふふふ、これでもう何やっても大丈夫。
フォーシュナイツの兵士さんを最強にすべく、私たちは素材の選別から始めるのだった。
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