第14話 食材二つ
特に目的地があるわけでもない旅立ちの日、私たちはまだサビもセリも行ったことがないというシラキア山の方へ行ってみることにした。
ローグスさんには昨日の内に私の生い立ちと、焼き鳥についてなんとなく話しておいた。
私の目指す焼き鳥(を筆頭に他の料理)をある程度美味しく作れるようになるまで、旅は続くと思うし、終わりがいつになるかも分からないと。
ローグスさんは一回既に冒険者としては引退していて、今は趣味で依頼をこなすくらいのものらしい。
家族もいないので、別に旅がどれだけ長くなろうが大丈夫とのことだった。
冒険者証も一度返却してしまい、身分証代わりに銅級の冒険者証を持っているんだって。
ただ、名前が知られているから、銅級の冒険者証を出したとしても速攻でバレてしまうらしい。
現役だった頃は何級だったのか聞くと、涼しい笑顔で「一番上ですよ」とのお返事が来た。
マジかよ。
そんなとんでもない助っ人をゲットした私たちは、王都に来た時に通った門の反対側、緑とピンクのエリアの間にある門から外に出る。
王都から出る分には特にチェックはないみたい。
中で何か問題が起きた時だけ、検問が行われるんだとか。
門の前には一本の道。
その先に見える山には雪が降っているのだろうか、白い帽子をかぶっている。
山に向かう道の両サイドは森になっていたので、とりあえず右側の森へ入ってみることにした。
迷いなく進む私を、セリが何か言いたそうに見ていた。
ちなみにメンバーは私、サビ、セリ、コーリリア、ローグスさんの五人。
ホックはどこかにいるらしいんだけど全く分からない。
ローグスさんには分かっているっぽくて、時々変な方向を気にしている。
(後で聞いてみたら、その時ホックが近くにねぐらのある盗賊団を壊滅させてたらしくて、聞かなきゃよかったって本気で思った。私を襲うかもしれないから先んじて壊滅させたらしいんだけど、なんだろう、嬉しくない。)
記念すべき一発目の敵は、イノシシが少し人間に近付いて二足歩行始めちゃったみたいな感じの見た目をしているホブブ。
既に何度か戦ったことがあるらしく、サビもセリも余裕の表情でホブブを仕留めた。
二人とも、長剣を使って戦っている。
私のイメージではセリは短剣とか、魔法とかを使いそうだったんだけど。
基本はサビが前に出て攻撃して、その死角からセリがとどめを刺す感じみたいだ。
まぁ、二人が何でどう戦おうと、倒してくれさえすればそれでよいのだ。
私は嬉々としてホブブの血を抜き、皮を剥ぎ取り、焼いて食べた。
ボタン鍋ー!って思ったのだけど、どうもイノシシの肉って味ではない。
そして求める鶏肉の味でもない。
っていうか、そもそも美味しくない!
味がないしパサパサしてるし、でも後味は変に脂っぽい。
顔を
「今の戦いが貴方たちの全力ですか?」
「全力……そうだな。ホブブは前にも倒したことがあったから、それなりに余裕で倒せたと思うが」
「ふむ。体長から見るに成人したてのホブブを倒すのにあの時間のかけ方はいけません。というより、ホブブが姿を現し、一歩こちらに踏み込んできた瞬間に倒しているくらいでないと」
「え?」
「大丈夫。筋肉の付き方や体重移動のさせ方は筋がいいから、きっとすぐに出来るようになりますよ」
「サビ……」
「お前だけ逃げようとするなよ、セリ」
「やっぱり……オレも……?」
「えぇ! フィヴィリュハサードゥの可愛い弟子をお守りするのですから、お二方ともそれくらいは簡単に出来るようにならないといけませんね」
そう言うローグスさんはすっごい優しそうな笑顔をしてるけど、目はガチだ。
この人あれかな?
実はめちゃくちゃ厳しいっていうか、自分を基準に物事を考えちゃう人かな?
おじいちゃんがあの家に暮らすようになる前の話はあんまり聞いたことがなかったけど、やっぱり変人の周りには変人が集まってくるんだろうな。
まぁ、あのおじいちゃんと四六時中一緒にいるんだもん、普通の人には無理だよね。
「時にフローリアさん、この森にはどれくらい滞在するおつもりですか?」
「え、えーと、とりあえずこの辺に出てくる動物とか魔物の肉は全部食べたいです! 木の根っことか、草とかの味も確認しなきゃならないので、あれだったら三人はお肉全種集めに行ってもらっても! そこらじゅうに生えてるものを食べるだけなら私だけで出来ますし。 薬草とか、素材になる物も結構ありそうなので、その辺の採取は私とコーリリアでやりますよ」
「…………分かりました。ではお二方、一緒に狩りに出掛けましょうか」
「はい……」
何だろう最初の微妙な間は。
私、何か変なこと言ったかな?
サビとセリが諦めたような返事をする。
「日が暮れたら戻ります。フローリアさんの魔力を感知して帰りますから、魔力隠蔽はしないでいただけると助かります」
「分かりました!」
三人に、ホブブの肉の中でもまぁ、食べれなくはない部分の肉を、乾燥させてから少し渡す。
三人を見送った後、私とコーリリアで草集め。
私とコーリリア、というか、コーリリアが取った草を私の口にぽいぽい放り込んでくれるので、私はそれを咀嚼して味わいながら、風味をひたすらメモしていく流れだ。
名前が分からない草が多いから、適当に名前を付けたり、特徴をメモに書き込んでおく。
「な、なんか、楽しくなってきた」
「
「フ、フローリアが、どんどん、く、草食べるの、面白い」
「そう? まぁ、楽しく食べさせてくれてるならよかったよ。なんせ草、めっちゃ生えてるもんね」
「そ、そうだね。色んな種類、は、生えてる」
この森、最高か。
しばらく食べたことのない植物を食べ続けていると、思っていたのと違う当たりがきた。
わさわさと葉を茂らせる植物の根元の方に緑の実が生っていて、それがなんとピーマンだったのだ。
ほとんど球体に近い形をしているけれど、中が空洞で、種も取り除きやすい。
これでピーマンの肉詰めが作れる!
私のテンションが上がりまくったのを見て、コーリリアも食べたそうに私の手元を覗き込んでくる。
一口あげると、噛んだ瞬間に困った顔をした。
美味しくなかったらしい。
「に……にが……」
「あー、そうだよね。でも、これにお肉を詰めて焼いたら、めっちゃ美味しくなるから! ちょっとは苦いけど、でも美味しいはずだから! 嫌いな人も多い野菜だったから、コーリリアはダメかもしれないけど……」
サビたちが獲ってきてくれる肉の中に当たりはあるだろうか。
鶏肉なんて贅沢は言わないから、せめて合挽き肉にできる感じの、なんか、いい肉カモン!
そんなことをやっていると陽は傾き、焚き火と寝床を用意している私たちのところに男性陣が帰ってくる。
手には数種類の魔物や動物。
ややげっそりしている二人の様子を伺うと、明日も頑張りますと弱々しい声が聞こえてきた。
そりゃ、そんなすぐに強くなれるわけないよね。
頑張れ、男子。
受け取った肉は、すでに血抜きとかの下処理はしてくれていたから、私はすぐに味見にかかる。
最初に目についたのは、半透明のぷるぷるとした膜みたいな物に覆われた、薄桃色の肉だった。
膜はナイフでつつくと割と簡単に破れ、とろりとした液と共に肉があらわになる。
目の前でカットしてくれるステーキ屋さんでよく見たような肉の塊が目の前にあって、私は店員気分でスライスし、適度に火を通した。
うーん、いい匂い!
いただきます!
すると、なんとなんと!
もも肉だよ!!
もも肉の味がするんだよ!!
「これ! これなんの肉!?」
「これか? これは……プリオの亜種だな。不定形のプリオという魔物がいるんだが、そいつがボログと交わると、これが生まれるみたいだ」
「亜種……これ、数ってそれなりにいる?」
「私の感知できる範囲内には、それほどいませんね。普通のプリオなら結構いますが」
それはいかん。
私はこの肉を、大量に欲している。
うーーーん、養殖?
プリオとボログをまとめて囲って亜種をたくさん生み出すしかないだろうなぁ。
「この辺に、そんなに裕福じゃない村とかないかなぁ」
「あるであります!」
「うわぁぁぁ!」
「ややっ、これは失礼したであります! 気配を消しすぎたであります!」
そういう問題じゃない。
はー、ビックリした。
私はプリオの肉を串に刺して塩を振りかけながら、ホックの話を聞いた。
少し離れたところに村があり、そこは生き延びるために必要な最低限の農作物が取れるくらいの、ギリギリの生活をしているらしい。
ジジババだらけかと思いきや、意外と中年のおじさんとか若者もいるみたいで、これは養殖場を作ってもらうしかないのでは?って感じだ。
でも、急にこんな小娘が村に来て、魔物の養殖やってください!って言っても無理だよねぇ。
ローグスさんみたいな人からの提案だったら飲んでくれるかな?
何か恩が売れればいいんだけど……。
私たちは焼き鳥と、大量の肉を食べながら明日の目的地について確認するのだった。
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