第90話 明日も晴れるようで①
キラキラと光るラピスラズリのような色合いの魔石。深い青色の綺麗な魔石だ。
これを毎朝鑑定することが、日課となっていた。
精霊王の魔石
異世界転移魔法(二回)
「……よし。二回に増えてる」
かつてうんともすんとも言わないようだった魔石は、鑑定が出来るようになっていた。
実家に行くことが出来たあの日からだ。早いもので、一年くらい経った。
大した量の魔力を使わないように気を付けていた為か、正確に言えば一年は掛かっていないけれど、実家にいる家族からすれば僕は過去の時間に転移していたわけだから、一年はとうに過ぎている。
実家に行って帰ってくるには、二回分の転移魔法が必要になる。
実家のある日本では、魔法がほとんど使えない。
どうやらあちらにも精霊さんはいるようだけど、少数で、精霊信仰の根強いこちらと比べたらその力も弱いそうだ。
だからあちらにはあちらで神様的な存在がいて、その人はノヴァ様と対等の立場のようなものらしい。他の世界のことだから、今回のような大きな頼みごとは滅多にないみたいだけど。
兎にも角にも、そういったわけで魔力の自然回復能力も落ちているし、ポーションの効能も薄い。だから行きと帰りの二回分の魔力をあらかじめためておかないと、辺境の街に帰ってくるのが難しくなってしまう。それは困るからね。
自分のステータスを見てみる。
月立 壱弦 ツキタチ イヅル
十八歳 男
体力 210/210
魔力 500/20000
スキル 隠蔽∞
鑑定∞
全魔法∞
無詠唱∞
錬金術∞
弓A
運∞
料理C
固有スキル
精霊の愛し子
全言語自動翻訳
精霊の加護(みんなイヅルが大好きだよ!)
魔力はノヴァ様の魔石に、自動で供給され続けている。
だから朝一番の全快の状態で確認しても、五百より多く残っていたことはない。
でも五百も魔力があればポーション作りには全然問題ないし、簡単な魔法だって使える。生活するのには全く支障はない。
怖いくらいに増え続けた魔力の上限の数値は、実家から帰ってきて少しした後、二万になり、それからぴたりと止まって増えなくなった。
あと変わったことといえば、なんとスキルが増えた。料理スキルだ。
というのも、本来スキルは努力すれば増えるものらしい。
もしかしたら異世界人であるうちは、増えたりしないのかもしれない。異世界人という表記が消えてから急に料理スキルが増えていたから、何となくそう思った。
「イヅルー」
「おはよー」
「おはよーう!」
「おはよう、精霊さん」
起きて朝食を準備していると、精霊さんがやってきた。今日も元気にぴょんぴょん飛び回っている。
「……あれ、ノヴァ様は?」
「まだねてるー」
「ねてるの」
「そのうち起きてくるよ」
「そっか。教えてくれてありがとう」
「いいのよー」
「どういたましまして!」
「いたしましてってー」
それなら、ノヴァ様の分は作ったら冷蔵庫に入れておくことにしよう。
ノヴァ様は変わらず、家に同居している。いや、していた、になるのかな。つい先日、庭の方に別宅を建てて、そこで寝るようになった。
ご飯はこっちに食べに来るけど。
多分、僕がこれからアイネと同居するから、気を遣ってくれたんだと思う。
結婚祝いと僕の実家から家族を呼んでくれるとも言っていたし、その為に寝泊まりする家を更に庭に建ててくれていた。相変わらずの至れり尽くせりだ。
僕の家は狭いので、家族やお客さんを泊めることが出来る場所があるのは正直ありがたい。
ノヴァ様は僕が朝食を食べ終わる頃、のそのそとやってきた。
まだとても眠そうだ。さらさらつやつやの黒髪はぴょこぴょこ所々はねたままだし、動きもふらついていて遅い。
「おはようございます、ノヴァ様」
「おはよういづる…………」
返事はあったけど呂律も回っていないし、目がほとんど開いていない。なんか、またすぐに寝てしまいそうだな……。
ノヴァ様は昨夜、妖精の女王であるリディちゃんと魔王様の三人で、庭の家で宴会を開いていた。すごい面子だよね。
全員子供の姿でも、中身はしっかり大人。お酒も入り、どんちゃん騒ぎは夜中どころか明け方近くまで続き、この有り様である。
結婚式の時に連れて行ってくれるお礼に、と僕の実家から送られてきた日本酒が余程口に合ったらしい。中々の量があったと思ったけど、料理を届けて様子を見に行った昨夜のうちにほとんどが空になっていたし。
「ノヴァ様、今日はゆっくり休んでくださいね」
「うむ……」
朝食にと作っておいたサンドイッチと、しじみのお味噌汁を温めて出す。一応、体力回復ポーションも置いておこう。
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