第86話 おかえり、ただいま。①

 今日はアイネが僕の家に来ている。目的は僕の家族に会いに行く手立てを考える為の話し合いだ。

 リビングでソファーに座り、お茶を飲みながら話す。

 精霊さんは気を遣ってくれているのか、みんなリビングにはいない。アイネが来た時に挨拶には出てきたけど、そのあとすぐにどこかへ行ってしまった。恐らく別の部屋だったり、庭にいるだろう。


「それで、イヅルの方はどうだった?」

「うん……」

 僕は自分に出来ることと、出来ないことを、まず調べた。

 力量や能力を知ればわかることもあるかもしれないと思ったからだ。

 僕のステータスは、やたらと能力が高い。無限大のマークは錬金術や全魔法などに惜しみなくついていて、それでどこまで出来るのかを試すことで、理解出来ることもあると思った。

「たぶんだけど、転移出来るんじゃないかな、と思う」

「元の世界に?」

 アイネの問いに頷く。

 色々なことを試してみた。

 例えばゲームや漫画であるエリクサーのような、瀕死や欠損まで回復出来る高性能すぎるポーションは作れるのか。

 妖精の国にような場所にも転移することが出来るのか。

 国境を越えて、手紙や通信は出来るのか。

 ……結果は、すべて出来た。

 正しく言うのなら、膨大な魔力を使えば何でも出来た。

 作れない、材料がない、と思っていたエリクサーも、大量の魔力を注ぎ込めばただのポーションがエリクサーになった。

 転移も魔力を注ぎ込めば結界も国境も関係なくどこへでも飛べたし、手紙や通信も同じだった。勿論強固な結界を越えた時でも、バレることはなく弾かれることもなかった。それらがどれも簡単に出来てしまった。

 魔力を大量に使う、といっても、僕の魔力は桁違いに多い。

 だから恐らくとても多くの魔力を使うだろうけど、きっと転移は出来ると思う。

「ただ、どの状況に、どんな形で転移した時に辿り着くのかがわからない。こっちに帰ってこれるのかどうかも、わからない。……精霊さんが話してくれた感じだと、悪い状態にはならないとは思うけど……」

 それでも、確証はない。

 僕が幸せになる形がどういうものかはっきりしないからだ。

 例えば元の世界に行った時、この世界の記憶が消えて元の世界で幸せに暮らす、という可能性だってある。

 そうなったらアイネとは離れてしまう。それは嫌だ。

 だからこそ、出来ると感じても実際に試してはいない。

 それに元々、あちらの世界にいた時に魔力を感じたことはない。だからここにいれば自然回復していく魔力があちらで使えるのか、回復するのかもまったくの未知数だ。

 もしや異世界転移の関係で役立つのでは、と思ったあの大きなノヴァ様の魔石は、魔力を注いでみようとしても使おうとしてみても、何も反応してくれなかった。お手上げ状態だ。何か、既に魔法が入っている感じはしたけれど、鑑定しても内容は出て来ない。


「なるほど、そうね。じゃあ、私も行くわ。転移で一緒に連れて行って」

「え……」

「一人増えても転移は出来る?」

「それは、たぶん大丈夫、だけど」

 アイネにとっては行ったこともなければ、知り合いもいない、何の関わりもない世界だ。

 即断即決でそんなことを言われるなんて思ってもみなかった。

「イヅルの家族に私も会ってみたいし。それに、大丈夫だと思う」

 根拠のない自信、というわけではなさそうだ。

「あのね、私は当たり前すぎて気にしていなかったんだけど、イヅルがいた世界のものがこの世界にはたくさんあるでしょ?」

「それは、そうだね」

 落ち人と呼ばれる、ある日突然こちらの世界にやってきた人。それからずっと以前に召喚された人たちや、その人たちの知り合いや子孫。その人たちから広がっていって、特に料理なんかは元の世界と変わらない水準だ。

「私は知らなかったんだけど、例えば桜とか椿とか、あとは薬草ならハーブって呼ばれているものとか、そういうものはね、ずっと昔のこの世界には存在していなかったみたいなの」

「そうなんだ?」

「うん」

「じゃあ、異世界人が広げたってこと?」

「そうみたい」

 辺境の街で普通に種や苗も買えるから、この世界に普通にあるものだと思っていた。違かったのか。

「でもイヅル、おかしいと思わない?ある日突然召喚されたり、こっちの世界に落ちてきた人たちが、都合よく種や苗を持っていると思う?」

「確かに……」

 知識や技術があっても、もとになる植物自体がなければどうにもならない。

 品種改良を重ねて似たものが出来てそう名付けられたものも、勿論中にはあるだろう。

 ちょうど種を持っていた時にこちらに来た異世界人だって、稀にはいるかもしれない。

 だとしても、多すぎる、ということか。

「昔のことすぎるし、文献とかにもそこまで確信的なことは書いていなかったけど、愛し子様はある程度自由に世界を行き来していたんじゃないかなって、私は考えてる」

 そうか。アイネはそのことを調べて、そしてたくさん考えて、気付いてくれたのか。

「だから私も、一緒に行く。一人じゃ難しいことでも、二人なら何とかなるよ」

 にっこりとアイネが笑う。

 不透明だった先行きに、光が差したように感じた。

「イヅルの大切な人たちに、会いに行こう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る