第77話 妖精の国①
今日はなんと、妖精の国にお呼ばれしている。
アイネと僕、それからノヴァ様の三人が行く予定だ。正確に言えばアイネと僕だけをリディちゃんは誘ってきたのだけど、ノヴァ様が監視……ではなく、心配して付いてきてくれることになった。
そういったわけで、一旦僕の家に集合した。ここからみんなで一緒に妖精の国へと向かうことになっている。
僕の家に来るまでは、アイネはいつもどおりの三つ編みに分厚い眼鏡姿だったけど、家の中に入るとすぐに眼鏡を外す。眼鏡を外せばアイネも精霊さんが見えるし、話も出来るからね。
アイネの胸元には先日プレゼントしたバラの細工の魔石のペンダントがあって、何だかちょっとこそばゆい。
「ねえ、リディちゃん。妖精の国って、どこにあるの?」
アイネがリディちゃんに問い掛ける。
妖精を避ける必要も恐れる必要もなくなった為か、あのバラ園でのお茶会以降はアイネはリディちゃんをまるで妹に接している時のような感じになっている。お茶会でのぎこちなさが嘘のようだ。
「妖精の国は世界中にあるわ。今日は一番近いところに連れて行ってあげる」
「そんなにいっぱいあるの?」
アイネが驚いてそう話す。幅広い本を読んですごい知識を身に付けているアイネでも知らないんだなあ。僕はその辺りの知識もまったくなかったので、そうなんだなあーと暢気に考えていた。
「森の奥にまとめて妖精が住み着いているだけだ。別に国ではないぞ」
「うるさいわね!あんたは呼んでないのよ」
ノヴァ様の言葉に、リディちゃんがすぐに噛み付く。何というか本当に、仲が良いのか悪いのか。
具体的にどこにどれだけあるのかは聞いていないけど、僕は昨夜のうちにノヴァ様に、これから行くだろう妖精の国がどの辺りにあるのかは聞いていた。
国というか、村とか、集落というようなものらしい。
主に自然の溢れる森の奥に集まって住み着いて、外敵が入ってこないように空間を歪めて。簡単に言えば結界のようなもので、侵入を許さないようにしているみたいだ。
そう言った意味合いで考えれば、国のようなものなのかな?
そうした妖精の集まりが、各地にあるそうだ。
「それじゃ、転移するからあたしに掴まりなさい。あ、精霊王は自力で来なさいよね」
「言われなくてもそうする」
僕はリディちゃんの左手、アイネは右手を掴む。
「それじゃ、行くわよ!」
リディちゃんの声がそう聞こえた直後、体に負荷が掛かる。思わず目を閉じた。
何とも形容しがたい感覚だ。重力が掛かる、というか、何というか。いつの間にかジェットコースターに乗っていて、終わった後のような感覚というか。
転移魔法は初体験だけど、これは慣れれば大した負荷じゃなくなったりするのかな。
「着いたわ」
長かったような一瞬だったようなジェットコースター体験が終わり、ふわふわとしたような浮遊感が少し残る。
目を開けると、もうそこは別世界になっていた。
「わあ……なんていうか……大きいね……?」
真っ先に出てきたのは、そんな感想だった。
とにかく大きい。何が大きいのかと言えば、目に映るすべてが。
すぐ側にある花はどう見ても形はチューリップなのに、僕の背丈よりもとても大きい。それはもう、比べ物にならない差だ。そのまわりにある草木や花も、人間よりもとにかく大きい。まるで僕たちが縮んだみたいだ。
「お花の一つ一つが、妖精の家なのよ。どう、可愛いでしょう」
リディちゃんはとても自慢げだ。
何というか、すごくメルヘンな世界だな……。御伽噺の中に入ってしまったみたいだ。
「妖精とは趣味が合わん」
と、いつの間にかノヴァ様が来ていた。
僕もここでもしも生活をするとなったら、多分気は休まらない感じはする。観光するには最高だけど、住むとなるとなあ。
不思議感溢れる巨大な草花たちも綺麗だけど、精霊さんが育てている僕の家の庭の方が、心は安らぐ。
アイネはというと、それはもうわかりやすいほどに目を輝かせていた。
「すごい。本の中の世界みたい」
「ふふふ、そうでしょう!アイネならそう言ってくれると思っていたわ!精霊とは趣味が合わないのよ」
もしかしてだけど、妖精に気に入られる人間って、妖精と趣味が合いそう、というのも判断基準のうちに入っているのかな?
アイネのママさんも妹のキューちゃんもとても美人さんだけど、妖精に印をつけられて攫われそうになったのはアイネだけだしね。
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