第70話 帰り道①
辺境の街の中心部に、ドドン!とそびえたつ大きなお屋敷。
そう、領主様邸だ。
何やかんや、ここに来るのは三回目だ。しかしその大きさに毎回驚く。
今日もクラシカルなメイドさんはにこやかだし、出された紅茶はとても美味しい。
何故またここにいるのかというと、領主様に呼ばれたからだ。
「待たせてすまないね」
まったり紅茶の味を楽しんでいたところ、領主様が来た。
「いえ」
メイドさんが気遣い細やかだからか、紅茶に夢中になっていたからか、待たされた感はない。
領主様ははじめてお会いした時には心配になるほどの骨と皮具合だったけど、今はその時より少し改善されているように見える。相変わらずとても細くはあるけど、少なくとも今にも倒れそうな顔色ではない。
「君のポーションを納品してもらうようになってから、随分調子が良いよ」
「それは何よりです」
「特にスープ味のものは良いね。飲みやすいし。これまでは特に空腹を感じなかったから食事を抜いても平気だったんだが、最近では頃合いになるとお腹が空いてね。忙しい時でもスープやパンなどの軽食を摂るようになったよ」
なるほど、それで……というか、これまでの領主様の食生活、本気でやばいやつだよね。空腹を感じなくなるレベルって。その上でポーション嫌いだというのだから、そりゃあご家族や使用人さんたちは必死になるだろうな……。
僕の作る味付きポーションは、食感もある。
スープ味のポーションだと、ポーション一瓶がスープ一杯を食べた時のようなお腹の膨れ具合になるから、普通のポーションを飲むよりは胃が拡張されていくのだろう。
それから、ちゃんとポーション以外の食事もしているみたいで安心した。
領主様が倒れてしまったら、大変だしね。
「今回来てもらったのは、先日納品してもらった分で価格が決められないものがあってね」
「体力を徐々に回復するポーションですか?」
「そうだ。噂には聞いたことはあったが、私は現物を見るのははじめてでね」
どうやら先駆者はいたらしい。
でもあれだけ貴重な薬草を使っているし、その人とレシピが同じとは限らないけど、何にしても高くつくのは間違いないだろう。安い材料で簡単に作れていれば、もっと流通しているだろうしね。
「しかし、あれはとても便利だ。是非来月からも数本混ぜてほしいが、出来るかい?あとは問題は価格だね」
「今のところ、領主様のところ以外に出すつもりはないので、月に数本くらいでしたら納品出来るとは思います。ただ、使う薬草が貴重なものが多くて」
「なるほど。では薬草をこちらで手配するかわりに、いくらか割安で取引はしてもらえるかい?」
「はい。それだと、こちらとしても助かります」
品質の良い薬草は、現状その多くが精霊さん頼りになってしまっている。
この辺境の街でもお店によっては品質の良いものがあったり、取り寄せてもらったりも出来るけど、使いたいと思った時になかったり、値段が高かったりする。そもそも扱いがない場合だってある。
精霊さんが持ってきてくれている薬草はお礼としてもらっている、完全に好意からのものだ。この薬草がほしいな、と言えば多分精霊さんは持ってきてくれるだろうけど、そうやって頼りきりになるのは違うと思う。
領主様が手配してくれるなら、それに越したことはない。
陽光草は無理でも、他の薬草だけでもとても助かる。
「君はもう少し、欲張りになっても良いと思うんだがね」
くすくすと領主様が楽しげに笑う。
自分では、結構欲深いと思うんだけどな。
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