第64話 異世界でお馴染みのアレ②

 さて、問題は。

 体力が徐々に回復するポーションを作る際に出来た、大量の品質Cの体力回復ポーション、しかも味なしだ。

「味がついてないと、精霊さんも飲まないしなあ……」

 しかも僕自身も、味のついたポーションを好んで飲んでしまう。お店には味なしのポーションも売ってはいるけれど、やはり味のついた方が人気でそちらがメインになっている。

 これまで見て見ぬふりをして収納バッグにぽいぽい突っ込んできたけど、いい加減これらをどうにかしないといけないかな。

 とはいえ、どこかに大量にポーションを売ったりすると、値崩れして他の錬金術師さんが大変なことになるから、迂闊には売れない。

「いっそ庭に撒くか……」

 どうなんだろう、そのへん。人間にはポーションは効くけど、植物や土にはどうなのかな。


「イヅルー」

「ポーション庭にまくの?」

「あじないやつ」


 ちゃっかりしじみのお味噌汁味を試飲していた精霊さんが、僕の呟きをしっかり拾って反応している。

「そう、味のないやつ。庭に撒いても大丈夫?」


「大丈夫よー」

「みんな元気になるよ!」

「でも与えすぎはだめなの」

「たまのおやつ的な」


「そっか、良いんだね」

 肥料みたいな感じなのかな?

 あげたら喜ぶけど、あげすぎたら駄目。その辺りの匙加減は、精霊さんが上手くしてくれるだろう。


「さっそくあげにいく」

「ねえスーちゃん、スーちゃんにもあげていい?」

「ムーちゃんもいるの」

「スーちゃんたちたぶん好き」

「味はね、ないほうがいいのよ」


 聞き覚えのない名前だ。花に名前をつけているのかな?

 精霊さんたちそれぞれには、名前はない。

 精霊王であるノヴァ様や、一部の上位精霊は別のようだけど、僕の家にいるこの小さい手のひらサイズの子たちは、あまりにもいすぎて名前はない。

 それぞれ見た目は色や顔が違ったり、個性があったりはするけど、基本的にはみんな同じ存在らしい。

 精霊さーんって呼ぶと、はーいって全員来る。それはそれで可愛い。

「どのくらい、花たちにあげるの?持っていくよ」

 精霊さんは力持ちだけど体は小さいから、持てるポーションの数には限りがある。

 僕は収納バッグを持っているし、庭に関してはもうすっかり精霊さん任せになっているけど、手伝える時は手伝いたい。

 それに折角この在庫のポーションを何とかしてくれるというのだから、感謝の気持ちでいっぱいだ。


「わーい!」

「イヅルといっしょ!」

「あのね、あのね、こっち」

「バラさんのとこにスーちゃんいるから」

「こっちこっちー」

「きてきて!」


 精霊さんは嬉しそうにきゃあきゃあはしゃいでいる。可愛いなあ。

 そんなわけで、精霊さんのお手伝い、ポーション運びをすることになった。

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