第44話 結果報告と黒い箱
『無色の闇』の
この間、ギルドへの報告や再突入に向けてのミーティング、その準備リスト作成などを行い、今日は休息日となっている。
冒険者ギルドと王立研究院は俺達の持ち帰った成果をかなり評価してくれた。
『無色の闇』という不確定な迷宮においても、あの
ベンウッドやママルさん曰く……何度ダンジョンアタックを仕掛けても最初に
つまり、『無色の闇』にも何かしらの異常が起きている可能性が高いということが、俺達の調査で分かった。
だが、それよりも、だ。
世間で話題になっているのはダンジョンアタックそのものよりも、その後だ。
王国中が注目する俺達の『無色の闇』の
マリナ達の人気もあってそもそもの注目度も高かったが、Cランクパーティ『クローバー』が高難易度ダンジョンに挑むという意外性などもあり、〝生配信〟にはかなりの視聴者がついていた。
そこに、『サンダーパイク』とのトラブルだ。
大空洞の中は〝配信〟を止めないというのは、メンバーやベンウッドとも相談してあらかじめ決めてあった。
しかし、それに映ったのはAランクパーティ『サンダーパイク』の情けない実態だった。
結果として、王国全土に向けて堂々と強請り行為と差別発言をした『サンダーパイク』への風当たりは相当なものとなり、かなり大問題となっているらしい。
俺にしたって元メンバーってことでいくつかの新聞では悪し様に取り扱われるし、とても迷惑している。
ベンウッドは相当に怒り狂っていて、サイモンたちを冒険者から除名してやると息巻いていたが、そう簡単にはいかないだろう。
Aランクの冒険者というのは、些か特別だ。
その認可は、半ば形骸化しているとはいえ、王命によってなされる。
俺の時も軽い様子で告げられはしたが、あらかじめ王の目が通った書類にサインが入っているはずだ。
Aランクの冒険者と言うのは、公式に認可された王の臣下でもあり、保有財産でもある。
いざとなれば、素早く問題に対処するために、王の名代や国の代表として立ちまわることもある立場だ。
その分、いろんな優遇を国から受けることができるし、冒険者としては破格の信用度がある。
つまるところ、いくらギルドマスターとはいえ、ベンウッドの一存でAランク冒険者であるサイモンたちを除名するのはかなり難しいだろう。
正規の手順を踏むならば、まずは
ここで、俺ができることは何もない。
訴え自体はすでにベンウッドに提起しているし、把握もされている。
それをどう処理するかは、国と冒険者ギルドの話だ。
この前代未聞の状況をどう解決するつもりかは、解決した後に知ることになるだろう。
唯一救いだったのは、シルクがほとんど気にしていなさそうだということだ。
むしろ、どちらかと言うとご機嫌な様子ですらあり、珍しく甘えるような仕草すら見せた。
なんというか、普段は生真面目なシルクが見せるそういった顔は、少しずるい。
ずぶずぶに甘やかしてあげたくなってしまう危うさがある。
「あ、ユーク。またあの配信だよ」
机の上の『
「またか。なんというか落ち着かない気分だよ」
「だねぇ」
『〝サンダーパイク〟の今回の発言は大きな波紋を広げ、いまだ残る人間至上主義的な社会問題として──……』
配信コメンテーターが、説明を続ける。
少しの違和感が、そこに存在した。
当初はサイモンたちの言葉を断罪するかのようなものが多かったが、今はその焦点がずらされて、『社会に蔓延る他種族差別』というものにすり替わってきている。
『サンダーパイク』から視点を逸らしたいスポンサーが世論操作を行う策に打って出たのかもしれない。
本人たちの声明が出ていない以上、実際はどうかわからないが、あいつらにとっては都合のいい状況だろう。
まあ、あいつらのやらかしのことをいつまでも俺が考えていても仕方がない。
俺は今、自分の夢と仲間に忙しい。
あいつらに余計なエネルギーを割いている暇などないのだ。
許す気はないが、関わる気もない。
「あ、そういえば。ユーク、あたし……これの使い方、わかったかも!」
考え事を切り上げたのを見計らってか、机の上の【
その言葉は、俺にとってはかなり衝撃的で……悩みが頭の片隅から飛び出していった。
「本当か!?」
「なんとなくだけどね」
錬金術師ギルドの力も借りてかなり調べてみたのだが、結局使い道もわからず困っていた【
マリナは気に入って持ち歩いていたが、これが何なのかはさっぱりわからなかった。
「ユークに手伝ってもらわないと、無理だと思う」
「俺に?」
やはり錬金術師の手がいるタイプの
ん? 待てよ?
正体がわかったなら報告書に記載する必要があるか?
「はい、これ」
何故か【
「ん? これをどうすればいい?」
「えっと……あたしを、想って?」
「想う?」
疑問と同時にマリナの事をふと思い浮かべると、【
指先から、何かを吸われる感触。
「なんだ、こりゃ……」
「その子はもうあたしを知ってる。だから、ユークの知ってるあたしを教えてあげて」
促されるままにマリナのイメージを想起していく。
天真爛漫で、いつも花が咲いたように明るく、太陽の様な娘。
それでいて、戦いでは率先して前に出て、傷つくこともいとわず戦う勇気ある娘。
ああ、そうだ。
あの魔獣との戦い。
あれは見事だったように思う。
振るわれた剣の太刀筋は鋭くて、美しくて、命を刈り取る瞬間だというのに、まるで静謐で……葬送の最中にいるような厳かさがあった。
「……!」
軽かった【
ふと見ると、それは姿を徐々に変えて……一振りの剣へと姿を変えた。
「これは……!」
直剣に近いが緩やかな曲線を持った片刃の黒い剣。
侍の振るう『太刀』にも、マリナがこれまで使ってきたバスタードソードにも似ている。
「うん、やっぱりだったね!」
「どういう原理だ……?」
錬金術師の俺にしてもさっぱりわからない不明な現象だ。
確かに
「んふふ、秘密~」
「ヒ、ヒントを!」
頭を抱える俺の声に、マリナが悪戯っぽく笑う。
「この子には、パパが必要だった……ってこと!」
さっぱりわからない説明に、俺は頭を再度抱えるハメになった。
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