第103話 一段落としわくちゃドレス

「ナゼルバート、私からも協力を感謝するぞ!」


 笑顔のベルトラン殿下と覇気のないレオナルド殿下。

 対照的な二人だけれど、どちらも一仕事を終えてどこか安堵しているように見える。

 ラトリーチェ様も「やーっと、うるさいのがいなくなった」とご機嫌だ。


(「うるさいの」とは、もしかしなくても王妃殿下や王女殿下のことかな?)


 私は追及しないと決めた。

 

「あとの城内での問題は、私たちで片付ける。とはいえ、後日また助けを必要とするだろうから、二人は先に客室で休んでいてくれ」


 慌ただしく動き回る殿下たちの指示で、私とナゼル様は一旦用意された部屋へ戻る。

 なんだかんだで、殿下たちに体よく利用されてしまった感があった。別にいいけれど。


「国王陛下は初めから、事態が収束するのを待っていたのかもしれないね。一人で王妃を押さえ込むには力が足りず、かといって国のことを考えればミーア殿下が女王になるのは避けたいと」

「ベルトラン殿下は、『約束』とおっしゃっていました」

「そうだね。彼らの間で何らかの取り引きがあったのだろう。なんにせよ、アニエスと離れずに済んでよかった。最初から別れる気はないけどね」


 そう言うと、ナゼル様はドレスを着たままの私を抱き上げ、客室のベッドの上に下ろした。

 

「アニエス、大丈夫そうだけれど。怪我はない?」

「はい。王妃殿下の私兵からもロビン様からも、傷一つ付けられていないので大丈夫ですよ。ロビン様はいろいろ触ってきたので嫌でしたが」

「ロビンめ、絶対に許さない。彼の処分に関しては、俺からも口出しさせてもらう」


 ナゼル様は、自分がロビン様に嵌められたとき以上に怒っている。


「あ、あの、ナゼル様」

「ごめんね、自分でも取り乱しているのはわかっているんだ。でも、君が絡むと余裕がなくなってしまう。俺らしくないね……」

 

 言うと、彼は体重をかけて私に覆い被さってくる。

 

「ナ、ナゼル様……ふむぅっ……!」


 優しく唇を奪われ、ぼうっとなる頭で考える。


(いろいろな事件が一度に押し寄せてきて、無事に解決して、ナゼル様は思いのほか不安定になっているのかも。いつも完璧だから、なかなか気持ちを表に出してくれないのよね)


 わかりやすく、ロビン様に怒っているけれど、ナゼル様の余裕のなさはそれだけではない気がした。

 

(だとすれば、私に出来ることは?)

 

 愛おしいナゼル様の頬に、そっと両手を伸ばして触れる。

 すると、彼はハッとしたように動きを止めた。


「ご、ごめん、アニエス。強引だったね。ドレスがしわくちゃに……」

「伸ばせますので大丈夫ですよ。それよりも、明日からの仕事もありますので、ナゼル様はきちんと休まなければなりません。今は落ち着かない気持ちでしょうけれど、私でよければ、なんでもお話ししてくださいね」

「……ありがとう」

「私は、ナゼル様の妻ですから」


 大好きな人の力になりたいと願うのは、普通のことだ。

 

「さて、まずは着替えましょう。ナゼル様の上着もしわしわになっていますよ」

「わぁ……本当だ。ケリーに怒られるね」

 

 クスクスと笑い合って、私たちはそれぞれ軽装に着替えなおす。

 もちろん、二人の衣装のしわはケリーに見つかり、彼女は無表情のまま小さくため息を吐いたのだった。

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