第61話 芋くさ夫人とギザギザ植物

 ジェニの回転に付き合いながら、なんとかカッテーナの町へたどり着く。

 スートレナの中でもかなり寂れた場所のようで、町中では壊れた柵や家がたくさん見受けられる。無人の建物も多く、朽ちかけた場所と言ってもいい。

 空から見たとき、町の外には魔獣に踏み荒らされた、もと畑らしき空き地が点在していた。

 通りを歩きつつ、ナゼル様は眉を顰める。

 

「酷いね、魔獣の爪痕が至るところにある。まるで頻繁に襲われているみたいだ」

「事実、そうなのでしょう」

 

 天馬から降り、フラフラと倒れそうなヘンリーさんも言った。酔ったのかな?

 

「途中で調査を妨害されて断念しましたが、ここ数年で食糧不足も起こっています」

 

 きな臭い話である。ヘンリーさんの調査を邪魔する勢力は、後ろめたいことでもあるのだろうか。

 ナゼル様やヘンリーさんの部下たちが、町の人々に話を聞いて回る。

 

「アニエス、疲れたでしょ? 休憩しよう」

「あ、はい」

 

 近くに宿を取ったので、ヘンリーさんとケリーとトッレを連れて向かうことにしたのだけれど……

 

「なんだか、どんどん町の様子が荒れてきているような?」

 

 人々の表情が不穏だ。

 そんなことを考えていたら、目の前で突如もめ事が起こった。

 静かな町に大きな声とバタバタと走る音が響く。

 私たちは一斉に顔を見合わせた。

 

「物盗りだ!」

 

 誰かが叫ぶと同時に、もめ事が起こった方向から、ガラの悪い集団が私たちの方へ突っ込んでくる。

 

「えっ、えっ?」

 

 大きな男性十人ほどを前に、トッレが戦闘態勢に入った。

 暴力的な空気を漂わせながら、ガラの悪い集団は口々に叫ぶ。

 

「いい服着てるじゃねえか! 金目のものと食料を寄越せ!」

「あと、女も置いていけ!」

 

 ナゼル様も腰に下げた剣をスラリと抜いた。怒っているようだ。

 あと、地面が割れてギザギザ系の植物の茎がこんにちはしている。これは、痛いやつだ。

 

「ナゼル様……」

「大丈夫だよ、アニエス。ケリーやヘンリーと一緒に後ろへ下がって」

「はい!」

 

 邪魔にならないよう、私たちは三人で建物の陰に身を寄せる。

 すると、襲いかかってきた男たちは、もののみごとに数秒後、全員地面へ倒れた。

 ギザギザの植物が大暴れし、ほぼ瞬殺した形だ。

 

「あらら、あっけないですね」

 

 連れてきた兵士たちが捕縛作業を始め、顔色一つ変えないケリーがそれを手伝う。

 

「はっはっは、雑魚め! 巨大化する必要もなかったな! さすが、ナゼルバート様だ」

 

 トッレは物盗りたちが奪ったであろう荷物を回収し、盗られた人々に返却する。

 ナゼル様は、迷わず私のもとへ走ってきた。

 

「アニエス、もう大丈夫だよ。怖かったね」

「いいえ。すぐ倒されたので、それほどでも」

 

 大丈夫と伝えたが、過保護なナゼル様は私をぎゅうぎゅう抱きしめる。

 しばらくして、トッレの方から身ぎれいな格好の女性が走ってきた。

 彼女は、その場に集まる町の人々とは違う、明らかに高そうな衣装を身に纏っている。

 

「盗人を捕まえていただき、ありがとうございます!」

 

 女性は馴れ馴れしい態度でナゼル様に近づき彼の手を取ろうとする。

 しかし、私を抱きしめたままのナゼル様は、両手が塞がっていた。


 私は手を伸ばしたまま固まる女性を観察する。派手な服に、派手な髪型……

 この人、どこかで会った誰かに似ているような……?

 しかし、女性はめげずにナゼル様に話しかけた。

 

「あのっ、スートレナの領主様ですよね? 町に宿を取られていると聞きました」

「そうだけど」

「ぜひ、我が家へいらしてください! 質素な宿と違って、素晴らしいおもてなしができますわ!」

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